【読書note_016】インテグラル・シンキング 鈴木規夫

「統合的思考」とは
本書は、多種多様な情報を有機的につなぎ合わせる「統合的思考法」について解説した本です。情報の絶対量が爆発的に増えた現代では、情報をまとめる力の必要性が飛躍的に高まっています。
本書を通読した直後は、この思考法が求める次元の高さに圧倒され、上手く咀嚼することができませんでした。何度も読み返した今でも、その根幹部分を心から理解したとは言えませんが、私が強く印象に残った箇所を掘り下げることで、本書の理解を深めたいと思います。

P10に、統合的思考法とは
「多様な情報を精査して、それぞれの中にある重要な真実や洞察をすくい上げて、それらをひとつの物語にまとめ上げていくこと」
であると定義されています。
さらに著者は、この統合的思考法により
「与えられている情報をいったんすべて引き受けたうえで、それらを部分として融合することのできる枠組みを構築すること」
が可能になると説明しています。

しかしながら、P11の中では、
「人間の習性として、いったん何らかの物語の正当性を確信すると、逆にその物語に絡めとられてしまう」
と説明し、さらには、
「今度は無意識のうちにその物語の信頼性を脅かすような情報や視点を積極的に排除するようになってしまいます」
と警鐘を鳴らしているのです。

つまり著者は、統合的思考法によって多様な情報をひとつの物語としてまとめ上げていくことの重要性を説きながら、一方で自分自身の中で確立された物語を過信することの危険性を指摘しているのです。
著者は、
「統合的な思考の前に立ちはだかる最大の障壁とは、あるひとつの物語を絶対化しようとする、私たちの心理的な傾向である」
と断言しています。

統合的思考に必要な物語性と不要な物語性
ここで私の中に浮かんだ疑問は、統合的思考法によりまとめ上げられた物語と、妄信し視野狭窄に陥らせてしまう物語の違いとは何なのか、ということです。
私は、その答えが第3章で説明されている「知の創造者の五段階」にあると考えました。

「知の創造者の五段階」を簡単に説明します。
第一段階は、自己の専門性を確立する段階。
第二段階は、自らの専門領域を超えて、世界を複数のレンズを通して観察できるようになる段階。
第三段階は、複数の領域に視野を拡げていく段階。
第四段階は、多様な文脈に存在する質的に異なる叡智や体験を統合する可能性を模索する段階。
そして第五段階は、世界が本質的に統合されたものであることを直感的に認知できる段階。

このうち、ポイントになるのは第四段階です。

著者は、
「第四段階における統合が、それまでの段階において「統合」と呼ばれていたものとは異なる、非常に独自のものである」(P123)
と述べ、説得力を持つあるひとつの論理や理論が、他のすべてを従えるようなものとは明確に異なると指摘します。
さらには、第四段階とは、自己中心性を根本的に克服し、特定の領域に対する「執着」を断ち切ることで初めて見えてくる全体性の感覚を持つ段階だというのです。

自己の論理や専門性から導き出される第一段階の物語性。
自己中心性と執着を捨て去り、多様な存在の深層に存在する類似点や共通点を見出すことで導き出される第四段階の物語性。

この2つの決定的な違いは、自分以外のあらゆる事物に対する深い共感と理解だと思います。
そうであるならば、常に自分を疑い他者の考えに耳を傾け続ける姿勢そのものが、統合的思考法の極意と言えるのかも知れません。
必要なのは、スキルや知識ではなく、認識の変革であり人間的な成長なのです。

ここまで考えてみて、現代社会において重要なのは機能的能力(コンピテンシー)ではなく深層的能力(キャパシティ)であるという著者の説明が、ようやく腑に落ちました。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。
Happy Reading!!

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