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短編小説:「過去」「記憶」

「過去」はいつもぼんやりしている。
古い記憶は薄い膜が被さっているようだ。
そんな過去も何かの拍子で匂いによって突然呼び起こされるときがある。身体の中のどこかに眠っていた「記憶」。
モノクローム、琥珀色の世界。そして本当に自分の身に起こったことなのかさえよくわからない。むしろ実際にはおきておらず夢で見ただけのことなのに妙に現実感があることが多いから不思議だ。
古い記憶は曖昧だがどんなに辛いことでもいい思い出として残る。どんなに嫌なやつでも死んでしまえば良いやつだったとして記憶に残るのと同じだ。
「過去」は「すでに死んだこと」だ。
昔の友人と会ったりすると懐かしさ故その時は楽しいが、価値観や物の感じ方が大きく変わっていてもう二度と会いたくないと思ったりすることがある。時間が経っているのだから考え方が変わっていて当然なのに相手に昔のままでいて欲しかったと思うのはエゴだ。見た目も含め自分も変わっているのに。
「過去」「記憶」は無理に掘り起こさず、そのまま残しておいたほうがいい。
時々呼び起こしても、また身体のどこかにそっと眠らせておいたほうがいい。

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