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2019年の夏、僕は日本スポーツ界の歴史的瞬間に立ち会った

コロナのコの字すら出てこなかった2019年。まさか半年後には、全く異なる世界になっているとは想像もつかなかっただろう。

そんな未来のことも知らずに過ごしていた、2019年の夏。

24歳だった僕が南アフリカのダーバンという地で、日本史上初となる歴史の証人になった話を紹介する。

※この記事は昨年書き記した文章を多少編集して掲載しています。


2019年夏

なぜ、僕は南アフリカとい、一生に一度行くかわからないような遠方の地へ行くことになったのかを最初にお話ししたい。

それは、とあるスポーツの世界大会に出場するためだった。サッカー日本代表はこの地でW杯を戦ってベスト16を勝ち取ったが、それから9年後の話である。

僕が当時、関わっていたのは「コーフボール」というスポーツだ。おそらく、この記事を読んだ人の大半が初めて聞いた競技だろう。それは僕も同じで当時から1年遡ると、その競技の名前すら知らなかった。

そんなスポーツの日本代表の選手。ではなく、スタッフとして帯同することになったのである。

もちろんこれは国際試合。日本代表としてベンチで君が代を歌った。

今回はそんな僕の個人的な話ではなく、南アフリカという地で、日本代表チームとして世界を相手に戦っていた話をする。

コーフボールとは

あなたはコーフボールという競技をご存知だろうか。男女混合のスポーツ。バスケに似たスポーツではあるが、ドリブル禁止、360°どこからでもゴールを狙える、接触プレーは禁止されているなどの特徴がある。

オランダで発祥し、世界選手権の開催は今回が11度目。日本ではマイナースポーツと分類されるだろうが、現在は全国で8つのチームが活動している。

日本コーフボールの歴史

日本コーフボール界の歴史は、想像より古いと思われるだろうか。1991年に協会が設立された。世界選手権への初出場は1999年、続く2003年に大会出場も、どちらも勝利はなく最下位に沈んだ。その後は世界選手権への出場が叶わず、10年もの時が過ぎる。

今から5年前のアジア・オセアニアコーフボール選手権2014(以下、AOKC)この大会で上位に入れば世界選手権への出場機会を獲得できる。しかし、集まったメンバーはまだ初心者が多く、またしても世界選手権への切符は持ち越しとなった。

世界選手権への出場を目標に、本格的に改革へと走り始めた。AOKC2018を日本に誘致し、選手を揃えて大会に臨んだ。

大会では台湾、中国、オーストラリア、香港に続く5位の成績を収め、翌年行われる世界選手権への出場権を獲得。普及、強化面の活動に力を入れた日本コーフボールの取組が実り出場枠を勝ち取ったのだ。それは、選手、監督、大会運営に関わるスタッフ、日本コーフボールのファミリーでもぎ取った世界選手権への切符だった。

日本代表としては16年ぶりの出場、現メンバーの最古参は古木監督兼選手は、コーフボールを始め14年。つまり今大会の選手は、誰一人この舞台で戦った者はいない。

参加する20チームの中では、2番目に低い世界ランクの日本。「まずはコーフボールを楽しむ、そしてチャレンジの姿勢を忘れないこと」勝利を目指し、全17名の選手・スタッフが一丸となって世界の舞台に挑んだ。

日本代表に立ちはだかる世界の壁

ついに開幕した世界選手権。日本はドイツ、ポルトガル、南アフリカと同グループに所属。初戦、第二戦は世界ランキング5位のドイツ、同8位のポルトガル相手に差を見せつけれる。

ヨーロッパ相手に歯が立たず、悔しさを味わうには25点は十分すぎる差だった。明らかな身長差だけでなく、パスやシュート、守備と個人のレベルの高さを目の当たりにした。世界トップ10に到達するまでのロードマップをどのように描くのか。

リーグ戦があり、定期的に試合のできる環境。若い世代が次々に出てくる仕組み。本気で世界で上に行くためには、今の普及状況から数段階レベルを上げる必要がありそうだ。

歓喜の瞬間

グループ予選では3位以上に入ることで、上位16カ国の順位決定戦に進出が決定する。グループ最終戦の相手は南アフリカ。世界ランキング15位、日本の24位に対して数字上では格上だ。開催国相手に今大会初の勝利、そして世界選手権史上初の勝利を目指す日本代表。

試合は序盤から攻勢に出る。古木を筆頭に女性選手が得点を重ねる理想的な試合展開。1,2戦目以上に集中し、相手の攻撃を防ぎ、確実にシュートを決めていく。守備面でも相手に自由に攻撃させず失点を抑える。

試合終盤、9点目の差をつけるシュートが決まるとその瞬間は訪れた。体育館にブザーが鳴り響き、日本選手の顔には笑顔が弾ける。大会初勝利。徐々に嬉しさが伝わり、ベンチに戻ると初勝利の喜びに抱き合う者、涙を流す者。第一の目標を達成し、ベスト16へと駒を進めた。

日本ではYoutubeの生配信で観戦していたコーフボールファミリーが、SNS上で祝福コメントを投稿していた。一歩一歩、前に進んでいたからこそ見ることのできたこの景色。

これまで関わってきた全員の活動がこの勝利に繋がった。


南アフリカに勝利した日本代表。ベスト16に進むと、最初の相手はアジア最強、世界でもトップ3に入る超強豪の台湾。正直なところ勝てる見込みは限りなく0に近い。試合は攻守が凄まじい速さで入れ替わる展開に。

台湾の攻撃力に圧倒されるも、日本も必死に食らいついた。失点は42と今大会で最多だったが、得点も22とどの試合よりも多くのシュートを決めた。

翌日のイングランド戦、世界ランクでは6位と格上だ。昨日の試合に続いて、序盤の試合の入りは非常に素晴らしかった。しかし、徐々に自力の差でイングランドが日本を突き放した。ヨーロッパの強豪相手との3試合。決してこの経験は無駄にしたくない。

トーナメントに入り二試合は実力差も大きかったが、次なる相手オーストラリアは日本より格上ではあるものの、決して勝てない相手ではない。アジア・オセアニアの同地域のライバルとして、そして一つでも上の順位を目指すため負けられない。「一点でもオーストラリアを上回ろう。」その言葉と共にチーム一丸となり試合に入った。


立ち上がり、オーストラリアに引けをとらない日本の選手たち。第1Qはお互いが6点ずつ取り合う展開に。第2Qから力を増したオーストラリアに前半は4点のリードを許す。

絶対に逆転すると信じ、コート上だけでなく、ベンチからも声を出してメンバー全員で戦った。

少しでも点差を詰めたい日本だが、シュートが入らず苦しむ。その間も得点を重ねるオーストラリア。じわじわと広げられる点差、少なくなる残り時間に、焦りがプレーに現れてしまう。第4Qのタイムアップを知らせるブザーが鳴ったとき、日本の13点に対し、オーストラリアは21点を取っていた。

古木監督、そしてチーム最年少でキャプテンを務める永井のオーストラリア戦後に皆の中で語った。その場にいた全員の悔しさを全てまとめた言葉だった。

13−21。8点差を結果だけで見ると大きな差と見えてしまう。それでも本気で勝とうと必死に食らいつき、最後まで戦った日本。前後半でついた4点ずつの差が、結果に現れた。近づいたようでまだ及ばない。自分たちの現在地を知る重要な、それでいて非常に悔しい一戦となった。

未来へ

最終戦、長く続いたダーバンでの生活もこのアイルランドとの一戦で終わる。1つでも上の順位へ、勝利を目指し戦った。

前日の悔しさを引きずることなく試合に入る。

一歩も譲らない展開で、両者が得点を取り合う試合に。前半を1点のビハインドで折り返すと、第3Qで日本がリードを広げ、勝利へ近づいた。

日本に流れが傾いてきた。そう思ったのも束の間、第4Qのアイルランドの猛攻で形勢は逆転。まだどちらが勝つかわからない試合だ。

リードを守るために、シュートを打たせない守備。終盤、大矢が決めた日本の19点目が決勝点となった。

日本の意地。アジアの意地。強豪国の多いヨーロッパの国に対して大きな1勝を掴んだーー。


結果は15位で大会を終えることになる。最終戦、1点差という僅差での勝利。今大会で一層力強くなった日本代表。

勝利した南アフリカ、アイルランド戦。得点比率を見ると、南ア戦では女性が、アイルランド戦では男性が多くの得点を占めていた。男女が平等に全力でのプレーができるコーフボールだからこそ見られるデータだろう。この競技の魅力の一つである。

次の世界選手権はまた4年後に開催される。コートでの悔しさはコートの上でしか返すことはできない。今回の経験を活かし今後コートで引っ張る選手、一方で一線を引いて次世代に託す選手。今大会の経験を活かすも殺すも17人に託されている。

今後、日本代表を目指す選手も、まだ競技を始めてない選手にも、十分4年後のコートに立てる可能性はある。トップチームに限らず、アンダーカテゴリーの大会もあるが、日本は若い世代の選手が非常に少ない。男女共に選手層を増やし、年齢層も広げることが必要になりそうだ。チームJAPAN、ダーバンでの戦いはここで締めくくることになるが、日本代表の戦いはまだ始まったばかりだ。

終わりに

最後までお付き合いいただきありがとうございました。
コーフボールと聞いて文章だけでは想像できなかったはずなので、最後に現地で撮影した動画を繋ぎ合わせた映像を紹介します。

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