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仙台の「7番」中島元彦のプレーに思うこと


 前半戦を終えたJ2リーグ。このnoteを執筆している第20節終了時点で仙台は6位と、昇格プレーオフ出場圏内に位置している。直近の長崎戦ではアディショナルタイムに追いつかれ、惜しくも手中から勝ち点3がこぼれていったものの、その2位長崎との勝ち点差は6。自動昇格圏内に座するその背中を目視できる状態で、仙台は昇格レースの後半戦を迎えている。


 その仙台において、チームの中心として活躍している選手がいる。FW中島元彦。元々は中盤の選手でありながら、今季は2トップの一角としてプレーし、第20節終了時点で全試合に出場するなどタフネスぶりを発揮して生まれ変わったチームを牽引している。J1セレッソ大阪からのレンタルを延長し、仙台でのプレーは3季目となる中島。6月にはJ2リーグ5月度月間MVPを受賞するなど、チームやサポーターのみならず、外部からも認められる充実したシーズンを送っている。その「7番」のプレーへの印象を、いちサポーターによるコラムとして記していく。



中島の攻撃面における貢献と、増加したヘディングでの得点


 今季の中島は、MF郷家とともに「ゼロトップ」として仙台の前線を支えている。2023シーズンも2トップのひとりとして出場することはあったものの、FW中山、そして昨年在籍し、現在はセレッソ大阪でプレーしているFW山田寛人とコンビを組むことが多く、純粋なCFを置かない形での出場機会が増加したのは、森山監督が就任した今季からのことになる。

 
 第13節の山口戦で中島と郷家は初めて2トップを組み、次戦の第14節鹿児島戦をはさんで、第15節群馬戦から現在(第20節終了時点)に至るまで引き続き最前線でコンビを組んでいる。
 
 両者はトップの位置に張りっぱなしになるのではなく、相手のCBとボランチの中間地点であったり、相手ボランチの脇であったり、時に中盤まで降りてきてパスを受けるなど、流動的なプレーを行ってチームを助けている。同時に、相手陣地の奥深くまで味方が侵入した際にはトップの位置で待ち構え、サイドから供給されるクロスボールに備えたり、シュートのこぼれ球を待つなど、いわゆるCFとしての役割もしっかりと担っている。第20節終了時点で、中島はすでにJ2でのキャリアハイに並ぶ6得点を奪っており、その得点数はチームトップの成績となっている。攻撃の中心として勝利に貢献していることが、数字からも窺える。

 
 ひとつのデータがある。現在、中島が決めている6ゴール中、4点がヘディングでのゴール。得意の右足ではなく、頭で決めている得点が今季の総得点の過半数を超えている。中島は仙台での1年目、2年目にあたる2022、2023シーズンの合計得点である10点のうち、一度もヘディングでのゴールは記録していない。移籍元である大阪、そして2020年に在籍した新潟でも同様に記録していないため、J1、J2においてヘディングで得点したのは、仙台在籍3年目を迎えた今季が初めての経験となっている(J3でのプレーは未確認)。

 
 そうしたことからも、中島に求められている役割が昨年までとは変化していることが理解できる。「元々ヘディングは得意」とは、以下の記事にて語られている中島本人の談だが、FWとして、またセットプレーのターゲットとして、中島は昨年以上の役割を果たしている。強烈なシュートを放つ両足に加え、ヘディングでの得点も期待できるのが、今季の中島の攻撃的な選手としての強みとなっている。


守備面における貢献と、チームを助ける献身性


 中島がチームに貢献しているのは、攻撃面だけではない。労をいとわないプレスに、失点のリスクを低減させるプレスバック。守備面においても力を尽くす姿勢。前線での質の高い守備が、後方の選手の負担を軽減させている。

 
 昨年の仙台はJ2で16位に終わるなど成績が芳しくなく、選手個々人としても走力や球際の強さなどに欠けていた印象がある。それは中島とて例外ではなく、自陣に全力で戻ればピンチを防げる状況でも走ることができず、相手選手の侵入をむざむざと許してしまった場面が少なからず散見されていたように思う。だが今季は、走力や球際での強度を重要視する森山監督が就任したこともあり、チーム全体の意識が良い方向に向かっているなかで中島のプレーにも献身的な面が色濃く表れているように感じる。

 
 上記したヘディングの強さは、空中戦の勝負にも影響している。第20節時点での中島の空中戦勝率は42.5%。これはFW起用されている選手としては、FW菅原の45.3%に次ぐ勝率の高さとなっている。中島の身長(171cm)を考えれば、十分に健闘している数値で、ロングボールなどの競り合いでも体を張り、簡単にはクリアさせまいと奮闘していることが窺える。

 
 同様に、走力の部分でも中島の貢献度は高いように思われる。J2チームに所属している選手の走行距離やスプリント回数などのトラッキングデータは非公開となっているため、中島の走力に関しては個人的な印象に留まるのだが、2トップを組む郷家ともに実行している前線からの果敢なプレス、守備網に穴が空いた際に猛然と駆け戻るプレスバックはチームを助け、失点を防ぐ要因となっている。そのような印象が強い。

 
 中島のチームプレーで個人的に特に印象に残っているのは岡山戦、山形戦で、岡山戦は敗北した試合である。チームとして機能せず、劣勢に立たされていたなかで、中島はなかば孤立しながらも相手に体をぶつけて競り合い、ルーズボールを全力で追い、相手の保持が続く場面では猛烈なプレスをかけて流れを変えようとしていた。チームとしての連動したプレスではない以上、必ずしも有効な守備とはいえないのかもしれないが、自分がなんとかしなければならない、という強い意志が垣間見えたシーンではあった。

 
 次いで山形戦で記憶しているのは、後半に見せた前線からのプレスバックである。危険を感じるや、最前線から全速力で自陣へと戻り、山形の選手の前進を止め、ピンチの芽を着実に摘んだ。その高いレベルの守備意識や危機察知能力、チームプレーを全うする姿は見ていて非常に頼もしく、中島の選手としての優秀さを改めて知った思いだった。

 
 攻守ともに敢闘し、チームに貢献している中島。第20節終了時点で警告、退場は0とクリーンにプレーできているのも特徴的である。また、被ファール率はリーグ5位と、FWとして体を張っているのが数字的にも判断できる。2トップを組む郷家とともに、仙台というチームを前線から支える欠かせない選手となっている。


チームの中心である「7番」


 チームの公式YouTubeチャンネル内の音声コンテンツ「VEGALTA CHANNEL☆RADIO」の2024vol.28において、中島のインタビューが公開されている。そのインタビュー内で「前線からのディフェンスを頑張っていると思うが、体力が続かないのでは?」といった趣旨の質問がなされているのだが、その問いに対する中島の発言に、責任感であったりチームを牽引する意志が感じられたので、以下に引用したい。

「体力を持たせようとは思っていなくて、自分であったり、友太(郷家)が前線で必死に追いかけてる姿をベンチに入ってる龍(菅原)だったり、そういう選手に自分たちでも走ってるんだぞ、というのを見せてあげると、やる気に繋がるかなと」

 
 前述したように、森山監督が選手に求めているのは球際の強度や諦めずに走る意識、味方をカバーする姿勢であり、それは中島や郷家、長澤らといった優れた技量の持ち主であっても、実行しなければ試合に出ることは難しい。個人で状況を一変させるようなアスリート能力に長けた選手が現状はチーム内に現れていない以上、全員で走り、体を張り、意思の疎通を明確にして丹念に戦わなければ、仙台というチームが勝ち点3を得るのは容易なことではない。現在までの仙台は、対戦相手とのチーム力の差や各試合の出来不出来はあれど、そうしたコンセプトだけは崩すことなく戦いに挑んでいるように思われる。その結果が現状の順位や、サポーターの心を熱くさせるゲーム内容に繋がっているのではないだろうか。

 
 そのように戦う姿勢や、監督が掲げるゲームプランを忠実にこなしたうえで、中島はFWとして得点を奪い、出場機会を得られていない若手にも道を示している。仙台の将来を担うであろう若手を言動で、背中で引っ張る姿。最前線から守備のスイッチを入れ、中盤にスペースが生まれれば的確に埋め、攻撃の際には適切な位置取りでパスの出し手や受け手となり、直接的に得点へも関与する。中島元彦は、昇格を目指すチームの紛うことなき中心選手となっている。

 
 2024シーズンは折り返し地点を過ぎ、後半戦へと突入している。昇格を争う熾烈な戦いが繰り広げられるなか、前半戦と同様に中島が仙台のキーパーソンとして躍動してくれることと信じている。中島個人にも、初の2桁得点を期待したい。同時に、千葉直樹、奥埜博亮、関口訓充といった歴代の「7番」のように、今後もチームの顔として活躍してほしいと強く願っている。

 黄金をまとう元彦、お前となら、どこまでも!

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