見出し画像

これまでの自民党政治に希望を見出せない人ほど自民党員になるべき理由

※アイキャッチ画像は自民党公式ウェブサイトからの引用です

 この文章を書き始めた時は、菅義偉内閣が退陣し、次の自民党総裁=首相を決める総裁選が行われている最中だった。あれよあれよという間に総裁選は終わって、岸田文雄が次の自民党総裁に選ばれ、衆院選が行われた。結果は周知の通りである。日本の政治が自民党主導で進められる状況は変わらない。

 もちろん、政治を変えるため野党に投票した人や、自分の票に意義を見出せなくて投票しなかったという人もいるだろう。だが、そういう人たちこそ、いっそ自民党員になるべきだ。総裁選の選挙権を得るために。

 自民党=与党の総裁選は、事実上、日本のトップを選ぶ選挙だ。が、その選挙権を持つのは日本の全国民ではなく、自民党所属の国会議員と自民党員である。

 この記事によれば、自民党員は全国に約110万人いる。全人口の1%にも満たない“限られた”人たちだ。残りの99%の国民は、自分の国の首相を選ぶ選挙に直接参加できない。そんな制度となっている。普通の人は、そういうものだから仕方ないとここで諦めてしまうだろう。

 だが、ここで自民党の公式ウェブサイトより、入党資格を見てみよう。


入党資格
1. わが党の綱領、主義、政策等に賛同される方
2. 満18歳以上で日本国籍を有する方
3. 他の政党の党籍を持たない方

 資格はこれだけだ。党費は年額4000円。2年党費を払えば、自民党総裁選の有権者になれると書いてある。申込には紹介党員が必要とあるが、この記事


によれば、実際は、ウェブで申し込むだけで簡単に党員になれるらしい。ちなみにこのブログ記事を書かれた方はアンチ自民党だが、

「日本を最短で良くするには、自民党総裁選で”よりマシ”な候補に一票を投じることが最善の策と考えるに至った」とのことである。われわれの主張と同様である。

 重要なのは、党費さえ払えば、あとは年齢制限と日本国籍を持つという条件をクリアするだけで自民党員になれるということである。資格1「わが党の綱領、主義、政策等に賛同される方」については事実上意味がない。国政で自民党以外の政党に票を入れる意義は薄くなるが、地方選挙では好きな政党・政治家を応援すればいい。

 ところで、ほかの政党についても、これほど簡単に党員になれるのだろうか。


 こちらは2013年の記事だが、現存する政党について各ウェブサイトを確認したところ、現在も入党資格は変わらないようだ。載っていない政党のうち、立憲民主党や国民民主党については、入党資格はおおむね自民党と同じで、党費も4000円である。日本維新の会は2000円に値下げしたようだ。れいわ新選組やN国党については、自民党員のような形での党員制度はなさそうだ。

 ほかに特徴的な政党を見てみると、入党資格に国籍を問わないのは公明党のみである。ただし、上のリンクの記事によれば、社民党は3年日本に住めば入党資格を得られるようだ。事実上、外国籍の人が日本の政党員になるためには公明党と社民党しか選択肢がないというのはどうなのだろう。また、多くの政党の党費が年額数千円というなかで、日本共産党は「実年収の1%」という強気な価格設定である。生活困窮者などには減免措置もあるようだが、これでは「日本共産党員になろう」と気軽に言うことは難しい。

 自民党に話を戻す。割と気軽に自民党員になれる、ということを前提とすれば、たとえば他党の政治家が、自分に有利な党勢を作るために、自分の息のかかった人を大量に自民党に送り込むということも可能かもしれない。あるいは、先述の日本共産党の入党資格の厳しさは、こうしたハックを防ぐためのものなのかもしれない。

 仮に全国民が自民党員になった日本が実現したとしよう。その場合、この国では、全国民が自分の国のトップを直接指定する権利を持つことになる。事実上、直接選挙に基づくタイプの大統領制とも呼べるような国となっているだろう。


 総務省の資料によれば、日本の女性有権者は約5400万人いる。今回選挙に行かなかった人も含めて女性全員が自民党員となれば、既存の党員数110万人をはるかに超える勢力となる。彼女たちが自分たちに有利になるような政治を訴えれば、自民党はそれに答えざるをえない。単に国政選挙に行くよりも、ずっと効率よく自分たちの声を政治に反映させられるのだ。

 めちゃくちゃなことを言っているように聞こえるだろうか。しかしこの記事を見てほしい。


 自民党総裁選直前のアンケートである。「次の総理にふさわしい人」を聞いた結果を支持政党別にまとめたもので、自民党支持者だけでなく、立憲民主党支持者も、アンケート時の党首である枝野幸男ではなく、自民党の河野太郎を一位に選んでいるのである。ちなみに、公明党と日本維新の会の一位も河野太郎で、枝野幸男を一位に選んでいるのは日本共産党と社民党のみ。国民民主党の一位は岸田文雄である。支持政党と誰を総理に支持するかについてねじれが生じているのである。

 多様な背景や考え方を持つ新しい自民党員たちが集まって議論すれば、自民党の政治はこうすべきだというようなアイデアがどんどん出てくるだろう。それはハックされた自民党の反映としての「ミラー自民党」に過ぎないが、その規模が大きくなれば、現実の自民党も無視できなくなっていく。

 この発想はわれわれがかつて考えた「ミラーバジェット」が元となっている。


 ミラーバジェットとは、国民一人ひとりが自分なりの予算配分を考えて、それをリアルタイムに集計する仕組みである。ブロックチェーンを用いて自動的に集計することで、ある時点、ある時点での予算案を、誰の手も介さずに決定する。あくまで「ミラー」なので、現実の予算案とは乖離があるし、なんら強制力を持たない。が、それが全国民の意見を集めた結果である以上、現実の政府が無視するのは難しい。詳しくは上の記事を参照してほしい。

 さて、読者を煽るようなエッセイをここまで書いてきた。実際の総裁選の結果を見ると、党員の意見すら100%反映したものにはなっていない。

 一回目の投票は、議員票382票と党員・党友票382票の計764票で争われた。110万の党員票(投票率は

  https://www.news24.jp/articles/2021/10/01/04948966.html

によれば約7割らしい)はドント方式で382票まで圧縮される。そして、候補者が過半数をとらなかったために行われた決選投票においては、国会議員が改めて投票したのに対して、党員票は47票までさらに圧縮された。このように、総裁選は議員票が圧倒的に優位な選挙なのである。党員票では河野太郎が一位であるが、議員票の結果から、岸田文雄が総裁選の勝者となった。議員らの票の行方は、まさに政治的な力学に左右されたものだろう。この制度が変わらない限り、(たとえ国民全員が自民党員になったとしても)首相の直接選挙が真に実現されることはない。

 いささかお茶を濁す結びとなってしまったが、どうだろう。自民党勝利の結果に不服な人たちは、4000円×2年分を支払って自民党員となり、日本の政治を変える気になっただろうか。ぜひ、友達や職場の同僚と議論してみてほしい。

※本原稿は特定の政党を支持するものではありません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?