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golden line

golden lineというタイトルの曲を書くことにした。
通常、作曲においてはメロディ先行や歌詞先行が定石となっている中で、タイトル先行というのはだいぶ
異例だ。(僕自身はたまにやるけど)

それでも作ることを決めた。作るのだ!!
非常に強い思いに動かされている。
一度こうなった衝動型人間を止めることなど誰にもできない。
なんて事をカッコつけて書いているが、これから先の話はめちゃくちゃカッコ悪い。
バケモンがなんか書いてると思って読んでください

数ヶ月前まで、日雇いのスポット勤務でよく行っていた現場があった。
その現場は物流倉庫で、我々派遣・パート勢を指揮
する社員さんの中に一人、一際印象に残る方がいた。
とにかく作業の指示や説明が丁寧でわかりやすく、
ちょっと澄ましたような落ち着いた表情でスタスタと歩く様も相まって、きわめて仕事のできる人だった。

反面、時々素になる瞬間もあって、イレギュラーが
発生したりすると突然スイッチが切り替わるのか
素っ頓狂な声で驚いたり
誰かの冗談で割と頻繁に破顔して快活な笑い声をあげたりと、
優秀さの中に親近感を抱けるたくさんのギャップさえ持ち合わせていた。

見た目は小柄で華奢、一見大人しそうな雰囲気を漂わせながらも
暗めブラウンのサラサラヘアーに入った金のメッシュが良いアクセントになってイカしてた。
少し大袈裟かもしれないけど
清廉な世界の中にある密やかな反骨心、みたいな彼女のイメージをそのまま象徴してるかのようでシックリ
くるお似合いのヘアスタイルだと感じた。

つまり素敵な女性だった

「作業でわからないことがあれば何でも聞いてくださいね」と彼女はよく言っていた。
事実、他の社員に比べても質問に行ける気安さが段違いだったし、自分と同じ派遣の人間はそうしていた。(分をわきまえろ。分を)
が、僕はわからない事に直面しても次の指示を仰ぐ際も絶対に別の社員に声をかけるようにしていたし、
作業場まで向かうエレベーターでたまたま乗り合わせそうになった時もわざわざ階段を使うようにしていたほどに避けていた。

僕にとっては、同じ空間にいるというだけで幸福感と希死念慮が同時に襲いかかってくるような恐ろしく厄介な存在だったからだ。
(厄介なのは間違いなく僕の方だろう)
その人の存在が尊ければ尊いほど、近くにいると自分の惨めさが透けて見えるようで自己否定に押し潰されるのだ。
レディオヘッドのcreepを地で行く人間が僕である。
というよりここだけの話、
creepはトムヨークが僕をモデルに歌詞を書いた曲だ

にも関わらず、彼女は僕の名前も覚えていた。
スポット勤務あるあるとして、社員は余程のベテランを除き派遣に対しては基本「お兄さん」「お姉さん」呼びである。
そんな中、彼女は指示出しにおいても必ず派遣を名前で呼んでいた。派遣の中でも末端中の末端だった杉本さえ。
さりげないながらも徹底した優秀ぶりだ、、、、、
かなわん、、、

死にたいとは思いながらも、そんな人と一緒に働けることに人並みの喜びを享受していたことも事実である。
めちゃくちゃザックリわかりやすくまとめると
「楽しかった」ということになる。
とにかく感情の起伏をバグらされてしまった。
自分自身は徹底的に避けておきながら、話しかけられる事があれば狂喜乱舞などという一連の茶番を勝手に一人で繰り広げていたのだ。

例えば
「杉本さんって○日入ってますか?」と
直接聞かれた一幕があったのだが、
その日の仕事の熱の入れようは、同じ派遣の人から
「めっちゃテンション上がってるじゃないですか」と笑われるほどわかりやすいものだったらしい。

ある日、無情な現実が、本人からではなく
又聞きという形で突きつけられることになった。
「来月で○○さん(その人)東京転勤するらしいで!」
……………その一日の僕の落胆ぶりは想像に難くないはずだ。
ありとあらゆる自分に向けられた会話という会話は
脳に届かず、作業では鬼の如くミスを連発し
帰宅後も、リフレインする
「来月で東京転勤するらしいで!」という一言の前には創作意欲さえ無に帰されるほど、その何気ない
お知らせは強烈な邪気を放っていた。

僕は心の支えにすらなっていた存在が日常から消える無慈悲な運命を呪った。
なんて事をカッコつけて書いているが、その日以降も前述した避け癖は変わらず続いていたので、何がしたいのか我ながら理解に苦しむ。
この病を世間一般にうまく説明する言葉が見当たらない。

来月のその「Xデイ」までには幸か不幸かまだ時間が残されていたので、限界を迎えた朧げな頭の中で
とりとめのない考え事をする。
行き着いた結論として、僕はなんとかその現実を受け入れ前を向いて生きていくことを決めた。
なんて事をカッコつけて書いているが、たかが数ヶ月程度働いた現場から社員が一人転勤するだけのことなのだ。

ある程度頭もハッキリしてきたタイミングでふと気付いた。
最後の挨拶くらいしてもいいんじゃないか??と。「お世話になりました」の一言くらいなら、
状況的に何一つ不自然ではない。いくら派遣の立場とはいえ、現場の作業においてお世話になっていたことは公然の事実だし、今生の別れなのは確実だ。
赤の他人以上知り合い未満の関係性を加味してみても、この挨拶プランは紛れもない正当性を持っている。

しかし、僕はその何気ない(しかも妥当な)一言を、
全く言い出せずにいた。それどころか、相も変わらず
近づくことを避け続けた。
一方で、東京転勤という厳しい処置への詫びであろうか、運命はこの一件に関して終始僕の味方をしていたようだった。

現場ではいくつかのフロアがあり、出勤時に各フロアに振り分けられる。それぞれのフロアに担当の社員がいて、作業内容も微妙に異なる。要するに毎回同じ
フロアに行けるわけではないのだ。
最後の挨拶(一言)ができるチャンスも、タイミングも限られているのは明らかだった。

にも関わらず、その時期は恐ろしいほど連続で彼女のいるフロアに振り分けられた。なんなら話しかけられる暇そうなタイミングも、少なく見積もって7,8回はあったと思われる。
そんな天からのお膳立てを、悉く無駄にした愚かな
人間がいるのだ。
(注:混乱を招く仰々しい書き方をしているが目的は
あくまでもお世話になった旨を伝えるだけである。
告白などといった大層なミッションでは一切ない。)

帰宅のたびに沈んだ。沈みまくった。僕は本来
後悔というものは未来から仮にタイムスリップした際、違う選択をとるかどうかで生まれる感情だと考えている。
こんな体たらくではどうせ未来から舞い戻ったとしても結果は同じだろう、と高を括っていたら、案の定
大後悔の波が押し寄せてきた。まったく自己矛盾も
甚だしい。

お世話になった人にお世話になりましたと伝えることが、こんなに難しいわけがない、、、
よくわからない出自のフラストレーションは
自分を呪う事にエネルギーを費やし続け、
精神を蝕んでいった。(何度も言うが客観的にみれば何一つ大層なミッションは無い。)

そして迎えた、本当に最後の日。またしても僕は彼女のいるフロアを引き当てた。そしてまたしても
「今だ!」と思えるタイミングに数回さしかかった。いつものルーティンであるかのようにそれを見送り、棒に振った。そして自己嫌悪。負の感情の無限ループだ。
(注:最初から最後に至るまで、彼女自身は僕に何一つ望んでいない)

見かねた天が、とうとう最終手段に出た。
なんと仕事終わりのタイミングで、
派遣・パートたちが、彼女に詰めかけ一人一人お別れの挨拶をしているのだ。(普通のことか)
ここで大勢の中の一部と化して、目的を達成してしまえということだろう。

となると話は早い、これまでの回避&自己嫌悪行動はどこへやら。いけしゃあしゃあとその場に躍り出て、杉本ではなく「最後の挨拶をする集団の一部」として声をかけることに成功した。なんだか微妙に反則な
気もするが、とにかく成功したのである、、、!
少なくともこれで、長年(1ヶ月)僕を苦しめていた
自己嫌悪と激しい後悔から解き放たれ、晴れやかに
お別れをすることができた。

仮に最後のお別れの挨拶ができた暁には、と
ついでに自分のやってるバンドの宣伝に至るまでの
会話ルートを事細かに記した狡猾なメモも残していたのだが、
「僕の立場で言えることでもないですが、向こうでも頑張ってくださいね!」を噛みながら言うのが関の山であった。

一つだけ悲しいのは、段々と彼女の顔を思い出せなくなっていることだ。
ほんの数ミリの厚みしかない綱のように頼りない、
とはいえ持っていた接点で辛うじて繋がっていた記憶からもやがて消失していき、その尊さは僕の人生から跡形もなく消え去ってしまうのだ。時間と共に何も思い出せなくなってしまう。。。

もう二度と会えなくなる程度のことが悲しいのではなく、このプレシャスなモーメントを人生に刻んでおく手段がないのが悲しかった。

………いや、あった!!!
曲にしよう!!!!!

そう思い立った矢先、久々の友人達と呑みに行く機会があった。
酔いにまかせて、この一連の流れを話す。

(彼女の見た目のことを尋ねられた時は、
「近畿圏に生息してる動物の中で一番可愛い」と答えた。リスや子猫なども入ってしまう、、、
言い過ぎたか、、、)

すると思う事は同じなのか、やはり曲にすることを
提案してきた。僕は冗談半分で
「金のメッシュがめちゃくちゃ似合っててイカしてたから、タイトルはgolden lineにする!」と宣言した

一同大爆笑。それはもう、ウケにウケた。
人生でこれほどウケたことはないレベルで笑ってもらった。さすがにそれはないやろ!!!
という意味合いの笑いであり、僕自身そういう意図のボケのつもりだったが、ここで僕の中の天邪鬼精神に火がついた。
そんなに笑うのなら、逆に本当にタイトルに採用してやろうじゃないか!!!!と。

いうわけで、これから作る新曲のタイトルは、
冒頭でも述べたようにgolden lineに決定しました。最高の一曲にする予定なのでお楽しみに!
(もし出来なかった場合は、察して触れずにいてあげてください)


最新曲のサブスク
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