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群れの決めごと

このテキストは、某所からの依頼でブログ用に何本か作成したものの一つです。
当該ブログが停止となったため、これからいくつかこちらに転載します。
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法律と言うと専門家の領域と思われがちです。でも法律は、不特定多数の個人や団体に対して平等に適用されるものですから、誰もが理解できなければ困ります。

「何条何項に該当」とか「何々法施行規則附則何条何項に基づく告示」とか言われると、それだけで調べるのが嫌になってしまいがちです。これでは、法律をうまく利用する人と、法律に利用される人との格差が広がる一方です。
多くの法律では第一条に「目的」が設定されています。これを読むだけでも、この社会が何を目指しているのか、その一端を知ることができます。

例えば、先日の国会で成立した「特定複合観光施設区域整備法案(いわゆるIR実施法とかカジノ法と呼称されているものです)」はどうでしょう。
(長いので、読み飛ばしていただいても構いません)

「(目的)第一条 この法律は、我が国における人口の減少、国際的な交流の増大その他の我が国を取り巻く経済社会情勢の変化に対応して我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展を図るためには、国内外からの観光旅客の来訪及び滞在を促進することが一層重要となっていることに鑑み、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(平成二十八年法律第百十五号。以下「推進法」という。)第五条の規定に基づく法制上の措置として、適切な国の監視及び管理の下で運営される健全なカジノ事業の収益を活用して地域の創意工夫及び民間の活力を生かした特定複合観光施設区域の整備を推進することにより、我が国において国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現するため、特定複合観光施設区域に関し、国土交通大臣による基本方針の作成、都道府県等による区域整備計画の作成、国土交通大臣による当該区域整備計画の認定等の制度を定めるほか、カジノ事業の免許その他のカジノ事業者の業務に関する規制措置、カジノ施設への入場等の制限及び入場料等に関する事項、カジノ事業者が納付すべき国庫納付金等に関する事項、カジノ事業等を監督するカジノ管理委員会の設置、その任務及び所掌事務等に関する事項その他必要な事項を定め、もって観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資することを目的とする。」

要するに目的は「財政の改善」であることが理解できます。その前提として、人口の減少と国際的な交流の増大は抗いがたい変化であるとの認識があります。そして、具体的なやり方は地域の創意工夫と民間の活力に任せるからよろしく、という内容と読めます。

やはり新しい法律である、「住宅宿泊事業法案(いわゆる民泊法)」はどうでしょうか。

「(目的)第一条 この法律は、我が国における観光旅客の宿泊をめぐる状況に鑑み、住宅宿泊事業を営む者に係る届出制度並びに住宅宿泊管理業を営む者及び住宅宿泊仲介業を営む者に係る登録制度を設ける等の措置を講ずることにより、これらの事業を営む者の業務の適正な運営を確保しつつ、国内外からの観光旅客の宿泊に対する需要に的確に対応してこれらの者の来訪及び滞在を促進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の発展に寄与することを目的とする。」

国民経済の発展というのは決まり文句として、「国民生活の安定向上」とは何でしょうか。どうやら単なる成長や改善とは違うようです。
実は、オイルショックの時に制定されたそのものずばりの「国民生活安定緊急措置法」という法律があります。第一条を見てみましょう。

「(目的)第一条 この法律は、物価の高騰その他の我が国経済の異常な事態に対処するため、国民生活との関連性が高い物資及び国民経済上重要な物資の価格及び需給の調整等に関する緊急措置を定め、もつて国民生活の安定と国民経済の円滑な運営を確保することを目的とする。」

需給の調整に関する法律ですね。
これによって、いわゆる民泊法についても、需給の調整を目的にしていることが推測できました。
要するに観光客の数と宿泊施設の数との間の需要と供給を調整するからね、という法律です。

最後に、改憲の議論で特定の条項が取り沙汰されることが多い日本国憲法を見てみましょう。憲法の場合は第一条ではなく、前文に目的が記載されております。

「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」

これの冒頭の部分を読むだけで、なるほど日本国憲法の目的は、国民が政府の行為を制限することだったのか、と理解することができます。

いろいろな思いつきや新規事業や起業を行う際、法律の理解は避けて通れないところです。
所詮、群れで決めた決めごとであり、ただ使われるだけでなく、このように法律制定の目的を読みながらうまく利用したいところです。

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