調達金額はどのように決めるか

スタートアップが新たに株式を発行して資金調達を実施する場合、どのような考え方で調達金額を決めればよいでしょうか。

調達金額を決める際に考慮していることとして、主だったものとしては、事業のマイルストン調達環境が挙げられるでしょうか。

事業のマイルストン

調達した金額で、事業が次のステップに進むまでの資金を賄えるか。

もしそうでなければ、次回資金調達の際にそれまでの活動を評価されない(=バリュエーションが上がらない)可能性があります。

既存株主の中には、会社は事業を進捗させているのに、自分たちより後に投資する人が同じ条件/良い条件で投資するのは受け入れられないという考えの方もいるかもしれません。

一方で、新たに投資を検討している投資家としては、前回調達時から事業が次のステップに進んでいない中で評価を上げることはできないとなってしまいます。

そのような状況になってしまうと、既存株主が追加出資すればまだ良いですが、追加出資に応じない場合は資金調達が非常に難航します。

誰が見ても事業が次のステップに進んだと評価できるようなマイルストンを設定し、調達した金額で次のマイルストンを達成できるかを確認する必要があります。

調達環境

今の調達環境がどうか、次回調達時の調達環境がどうなっているかを考慮します。

調達しやすい環境、例えば、金余りでVCが続々と立ち上がり、ファンドが組成されたり、事業会社がベンチャー投資を積極的に行っているような環境であれば、調達は比較的容易ですし、資金の供給>需要となりバリュエーションも高くなりやすいです。

逆に、不況下など調達しにくい環境であった場合は、資金の供給<需要となり、投資家の選別色が強くなります。バリュエーションや希薄化を気にするよりも、とにかく必要な金額を調達し切ることが最優先となります。

実際に、コロナウイルスの感染者が日に日に増加していた際は、動きの速いスタートアップは資金を厚めに確保しているところも多く見られました。

ベンチャーファイナンスの世界でよく言われることですが、何よりも重要なのは必要な資金を調達し切ることであり、「集められるうちに集めておく」ことが鉄則とされています。

今の調達環境がどうなのか、次回調達時の環境はどうなっているのかを考慮しながら調達額を決めていく必要があります。



次に、調達金額をどのようにして決めているか、ですが、これはどれくらい先までの資金を確保するかという考え方ができ、一般的には1.5~2年先まで必要な資金を集めることが多いように思います。

何故、1.5年~2年先なのか

調達金額が多いと、その分株式が希薄化してしまう一方で、調達金額が少ないとすぐに資金調達活動を始めなければならず、また、その際の調達環境によっては必要な金額を調達できないリスクがあります。それらを考慮した結果、1.5年~2年先までの資金を確保するようになっているように思います。

希薄化に関して、例えば、今後3年で4億円が必要な場合、(A)一度に4億円調達する場合、(B)まず今後1.5年で必要な1億円を調達して、1.5年後に残りの3億円を調達する場合を考えてみましょう。以下の2つの図では、3年後の評価が共に36億円となっていますが(事業の進捗が同じであることを前提にしています)、(A)の場合は、現在の4億円の価値は3年後に18億円となるのに対して、(B)の場合は、1.5年後にマイルストンの達成が確認できる場合、バリュエーションを上げて調達することができ、現在の4億円の3年後の価値は24億円となり希薄化を和らげることができます。

(A) 一度に4億円調達

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(B) まず向こう1.5年で必要な1億円を調達して、1.5年後に残りの3億円を調達

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しかし、1.5年後に評価される事業の進捗(マイルストンの達成)が見られなかった場合、資金調達活動をする必要がある上に、評価が変わらないといったことになる可能性があることには注意が必要です(下の図を参照)。

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また、1.5年後の資金調達が思い通りに進まず長引いた場合、事業活動に十分な時間を割くことができず事業の進捗が遅れてしまうリスクがあります。加えて、1.5年後の資金調達環境がどうなっているかもリスク要因です。非常に厳しい環境であった場合は調達できず資金が尽きてしまう可能性もあります。

資金調達のプロセスは大まかに、ピッチデックをつくる、投資家周りをする、面談を重ねながら投資家からの質問事項に対応する、投資してくれる投資家が決まる、となりますが、早くても3か月、一般的には4,5か月程度はかかっているように思います。

本格的な資金調達活動を始める前に投資してくれそうな投資家を見つけ、関係を築いておく、投資家が気にするポイントを抑えたピッチデックをつくる、といったことで、いくらか期間を短縮、または負担を軽減することはできますが、それでもなかなか労力がかかります。

資金調達の間は事業に100%のリソースを割けないので、事業の進捗が計画から遅れてしまうリスクがあり、高頻度になるほどそのリスクが高くなることを頭に入れておく必要があります。


まとめ

以上、資金調達額を決める際に考えていることについてまとめてみました。唯一の正解はなく、様々なことを検討しながら適切な解を見つけていくことが大切だと思います。

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