緊急事態宣言下で今、検討すべきこと

緊急事態宣言下の日本で今何を考えるべきか?について書かせて頂きます。長文をご容赦下さい。

LINEを通じて全国8300万人にプッシュ通知を出し、発熱などの症状の有無と職業や住所などの属性を聞きました。第1回(3月31日~4月1日)は約2453万人の方々から協力を得ることができました。第1回調査の結果では、4日以上発熱していると答えた人が全体の0.11%に上りました。もちろん4日間発熱が出たからといって、新型コロナウイルスに感染している訳ではありません。本来はより多くの方にPCR検査を行うことや、抗体検査を実施することが感染実態を把握するための、より正確なアプローチです。しかしながら、PCRを多くの人に実施するにはまだ体制が整っていない上に時間がかかる。また抗体検査についても精度の課題とともに、同様に時間・コストがかかります。このような中で、出来る限り早く日本の実態を把握し、対策を打つために用意したのが今回の調査です。

先行する神奈川のプロジェクトでもインフルエンザが収束した後の3月以降は、今後の感染リスクを予測する上で一定程度信頼できる間接指標であることを確認しています。3月5日に開始した同プロジェクトでは、発熱の症状を訴えた方の割合は、3月中旬にかけていったん下がったあとに、下旬から上昇しています。

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これは何を意味しているかというと、2月27日に休校要請し、3月2日から実施したことで、社会全体で自粛が行われて、活動が下がったものの、桜が開花した三月中旬とその後の三連休で自粛が緩んだ、という社会活動の量と連動していると考えています。陽性患者数、新型コロナ外来(帰国者・接触者外来)の件数も同様に推移しています。

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だいたい熱が出てから、何日か経ってから相談して、その後に外来で検査を受けるという流れなので、一定期間のタイムラグがあります(初期は10日、3月時点では5日くらい)。調査で発熱の症状がある人を把握すれば、各都道府県に発生する医療需要を予測して、準備を行うことができます。

この調査を実施したもう一つの背景としては、その時点で政府は感染が確認された患者(PCR検査の陽性者)を軸にした限られたデータで判断していたため、「その外側」の状況が分かるデータを補完する必要があったということです。日本は当初の方針でPCR検査の実施を一定の基準で絞っていたこともあり、基準の中で陽性と判定された方以外で、どれほどの人に、関連症状があるのか分かっていませんでした。

これまで厚労省のクラスター対策班が感染者の経路を追いかけて、感染をコントロールしてきました。感染が小規模な段階では有効なアプローチですが、規模が大きくなり経路が追えなくなると、打ち手が限定されてしまう。それ以外のアプローチで状況を把握するための手段を作っておこうと、クラスター班とも相談して神奈川県で先行の取り組みを実施しました。全国調査の実施にあたってLINEは3月30日に厚労省と協定を結び、調査に協力してくれました。LINEから提供されたデータは厚労省が分析します。個人情報保護法に従った取り扱いをすることはもちろんですが、公表されている利用目的を超えた活用はできません。また、一定期間が過ぎたら削除することにもなっています。今回の調査は公的な目的以外には使わないということです。

今後調査からは様々な報告がありますが、現状で強調したいのは職業・職種別グループの発熱リスクです。

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グループ別の発熱者の割合における都道府県ごとの分布が下の図です。

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その県の発熱者が一番多い(リスクが高い)順と、それぞれの職業ごとの発熱割合を追ってみると、グループ間で大きな違いが見られます。まず大事なのはグループ5の3密や社会的距離を取ることができるグループです。

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これは「専業主ふ」の方々ですが、テレワークを導入することができた人達も今後このグループに入るでしょう。家にいることができる人たちは、地域全体の発熱リスクが上がっていっても、横ばいのまま。つまり、特に緊急事態宣言下にあるような状況では、「不要不急の外出を避けること」、「家にいること」が、感染リスクを下げ、社会を守ることに重要であることがデータからも示されました。

一方で、他の職種と比べて人と接触する頻度が高いグループ1「長時間の接客を伴う対人サービス業や、外回りの営業職」は高い割合でリスクが上昇しています。

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後述するgoogle分析でも示されていますが、3月の段階で日本が行っていた自粛は、レジャーや遊びを目的とした外出を控えるが仕事は一生懸命を行う、というものでした。しかし新型コロナウイルスの感染という側面においては、3密回避や社会的距離の確保が難しいこうした職種が一生懸命働いてしまうことで、その人々が健康リスクにさらされ、感染が広がってしまうのです。東京の感染者の多い地域に絞って検討すると、こうした職種の人々の発熱割合は全国平均の5倍近くなっています。より高いリスクに晒されている方々をリスクから守り、社会全体に感染を広げないようにする対策を行わなければ、感染爆発を抑えることは難しいといえます。

別のデータを改めて見てみましょう。グーグルがスマホのログを使って人流データを出しており、その国の人がどこで活動しているのかがわかります。飲食店を含む娯楽施設、生活必需品の薬局・スーパー、公園、公共交通機関、自宅、職場などの場所別の人出のデータです。例えば、フランスでは厳しい外出制限をかけていて、証明書を持たずに出歩いたら最大135ユーロの罰金です。そうすると強力に活動量が落ちる。ここまでやって8割届くかどうかというところです。

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ドイツ・ベルリンとアメリカはそこまで強力な外出制限はかけていません。娯楽施設は閉まっていますが、生活必需品の買い出しなどは行うことができ、外でのエクササイズもある程度できる。こうした現状はグーグルのデータからも確認できています。公園やスーパーはあまり落ちていないのですが、娯楽施設や交通量や、職場での活動は大幅に減少しています。

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かたや3月の日本はどうかというと交通量は減っていますが、飲食を含む娯楽施設への外出はあまり減っていません。休日の活動量は全体的に下がっているのですが、平日の活動はそれほど減少していなかった。特に娯楽施設の利用は、木金にかけて上がっている。多くの企業関係者にも状況を聞いたのですが、3月の時点では、仕事の一環で人と会うことにそれほど制限はかかっていませんでした。こうした穴が空いた状態での対策とならないように、日々データで実態を把握する必要があります。現在(4月12日時点)では、yahooやドコモのデータを活用しながら、日々の活動実態の把握が行われています。データを多角的に組み合わせて、対策の実施状況と効果を確認し続けることが重要です。

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ワクチンができるのは早くて1年から1年半後と考えられています。忌避すべきは、日本がオーバーシュートして医療崩壊となっても、それで終わりではないということです。その後も何度も第3波、第4波が到来し、医療と経済が打撃を受けつづけることです。あれだけ大きな被害を受けたイタリアでは、次の波の徴候が始まり、ロックダウンを3週間延長しました。日本はいま第2波で危機的な状況ですが、その先は長いのです。世界恐慌以来の最悪の経済危機といわれています。

仕事の中で、3密を避け社会的距離をとることが難しい業種は、特に大きな影響に晒されてしまいます。例えば飲食業について、日本の食は世界で高く評価され、多くの訪日観光客が食を目当てにやってきています。日本の食文化は、国の宝として守るべきだと思います。しかしながらこうした業種が、感染リスクをコントロールできない状況で営業を続け、感染爆発を起こしてしまうとこれらの業種も再開の目処が立たなくなり、全産業が大きな影響をうける状況になってしまいます。これは海外の事例をみれば明らかです。

今回の調査で働き方や過ごし方によって感染症に対するリスクが大きく違うことがわかりました。リスクに対してすごく脆弱な働き方については、ただちに対策が必要です。長期戦が予想される新型コロナウイルスとの対峙においては、国は休業補償などのサポートを行うことで従業者と顧客の健康を守り、休業期間中に新しい営業の形を考えることが1つの方法だと考えています。また、多くの業種では当面の間、今までと同じ業態で仕事を行うことは難しくなります。それぞれの産業が「感染症に対応しながらどう働くのか」をデザインする必要があります。それこそ「リモートワークはできない」ではなくて、リモートワーク以外は働く許可が出ない、というレベルで考える必要があります。

米国の飲食店は、これまでイートインだけで行ってきたお店が、デリバリーやテイクアウトで生き残りを図っています。本当に苦しい時期ですが、日本でもこれまでイートインだけで勝負をしてきた高級店でも検討する必要があります。もう既にこの数日で最高峰のお店が、いままで行っていなかったテイクアウトのサービスを始めました。また3密を避けた席の配置や、お客さんの入れ方などオペレーションを工夫することも必要です。また行政側は、公園や、社会的距離を管理できる屋内施設を、提供スペースとして開放する、テイクアウトへの対応をサポートするなどの対策を行うことも重要です。

生活必需品を扱う小売りや運送業、医療・介護職の人々へのサポートも重要です。専門知識による防御行動をとることができる、あるいは労働環境をある程度コントロールできる、とはいえエリアリスクの上昇とともに、そこで働く人達のリスクも上昇しています。この仕事に携わる人達は、例え感染爆発が発生したとしても、休業することができないため、リスクを下げるための対策を打ち続けることが重要です。マスクや防護服を優先的に供給すること、体調不良時に休むことができるようなサポート体制、あるいは特別手当などです。3密を避けてお互いを危険に晒さないような働き方を作っていかないといけない。既にレジ前で密集しないように距離を空けて並ぶということや、レジ前にビニールシートを掛ける、対面の受け渡しではなく玄関前に置く、などの取り組みがなされています。サービスの受け手も含めて、理解と工夫を重ねていく必要があります。こうした社会的距離を確保した、働き方・過ごし方の取り組みは、全ての産業に対して重要になります。

学校も同じです。教育職・学生は休校などの制限がかかっているので現時点ではリスクの高いグループには入っていませんが、通常通りの活動では明らかに3密を高頻度で作ってしまいます。この1年はこれまで通りの授業を行うことができないことを想定して取り組みを考える必要があります。オンライン授業の導入、学年毎に登校日を決め社会的距離をコントロールする、3密が避けられないカリキュラムの振替、毎日検温による体調管理などを導入していくことです。効果は確認していませんが、台湾のように机の周りに衝立をつけることも一案かもしれません。

緊急事態宣言に基づいた対策により、今後感染者数を抑制できたとしても、油断すればすぐに感染拡大に至ります。中国も全く警戒を緩めていませんし、小康状態に入っていたシンガポールもセミロックダウン状況に入りました。感染症に対応した働き方や過ごし方をデザインしたうえで、さまざまなデータやアプローチを組み合わせて動向を見ながら、社会活動の取り戻し方や広げ方を考えていかなくてはなりません。緊急事態宣言の期間は、各産業がどう立ち上がるかを考える重要な時期でもあるのです。

__________________________________この文章はForbes JAPANのお力を借りて作成したものです。
迅速性が必要であることを鑑みて、承諾の下、記事が掲載される前に一部抜粋してお伝えしました。続きの内容については下記ページをご覧下さい。

第1回インタビュー https://forbesjapan.com/articles/detail/33711
第2回インタビュー https://forbesjapan.com/articles/detail/33713
編集、構成= 成相通子(Forbes JAPAN 編集部)


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