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#2 Phở(フォー)食べていますか?

ホーチミン市で暮らしていると、仕事関係や友人・知人などの出張や旅行の際の案内役を承る機会が少なからずございます。
そのような時に話す内容といえば、やはりベトナムについてのことであったり、ホーチミン市の話題が中心となり、いくつもの質問を投げつけられてはヘトヘトになることもままあります。
またそういった際に、ベトナムに詳しい方と話しをさせていただくと、その知見に感心させられることも多々ありますが、反面、あまり詳しくない方からは的外れな意見をいただくこともあり、いろいろと勘違いもあるものだなあ、などと思うこともしばしばです。

今回はその勘違いの中の一つではないかと私が思っている、ベトナムの国民食とも形容される麺料理、Phở(フォー)について、私見を書き留めたいと思います。

ベトナム北部で生まれた、米粉から作られる Phở(フォー)

まずは、あらためてフォーについて。
説明するまでもない方もいらっしゃるかとは思いますが、念のために軽く説明をいたします。
必要のない方は読み飛ばしてください。

フォーは牛や鶏の出汁で作られたスープで、米粉で作られた麺を牛肉や鶏肉の具でいただく料理になります。
以前に読んだり聞いた話しによりますと、その起源は、港湾で働く労働者が朝に身体を温めるために食したのが始まりだとか、元々は水牛の肉を使っていたなど、さまざまな説があるようです。
そもそも、初期に使用されていた麺はフォーではなかったなんて話しや、麺料理ではなく、牛肉を食べるための鍋に近い料理である、なんて意見も聞いたことがあります。

最近では、インターネット上のニュースや SNS などで、日本各地にベトナム料理店があることを知る機会が増えており、日本におけるベトナム料理の認知度が上がっていると感じております。
また、食料品メーカーからも、フォーのインスタント麺が発売されていることについても聞き及んでおります。
そういった背景もあり、フォーは多くの日本の方々に膾炙したベトナム料理の一つではないかと思います。

こちらも米粉から作られた麺、Bún(ブン)

話しは戻りまして、ベトナムにお越しの方を案内する際に、「ベトナムに住んでいると、しょっちゅうフォーを食べるんでしょ?」「どのくらいの頻度で食べるの?」と質問されるのは一つの行事のようなものとなっております。
これにはいくつかのバージョンがあるのですが、その一例として、こちらもベトナムの国民食と称される、Bánh Mì(バンミー)がフォーに置き換わる場合もございますし、場合によってはアオザイ姿の女性に…。

話を戻しまして、バンミーについての質問にたいしては、「はい、週に二、三回は食べています。主に朝食ですね」と相手が望む受け答えができ、「やはりそうなんだ」と質問者をしたり顔にさせることができるのですが、ことフォーについては実情を赤裸々にお伝えすると、「年に数回ぐらいしか食べません」と回答せざるをえず、質問者の期待に添えないことがございます。

Phở(フォー)と並び、ベトナムの国民食と評されるBánh Mì(バンミー)。北部の発音(標準語)だとバインミーと発音されます

ベトナム北部にお住まいの方々についてはわかりませんが、私の住むベトナムは南部のホーチミン市においては、フォーはそれほど頻繁に食べられていないように見受けられます。
特にお店が少ないわけではないと思うのですが、南部の方々はフォーより米粉で作られた Bún(ブン)という麺や、Hủ Tiếu(フーティウ)というこちらも米原料の半生麺をより多く食されているように感じます。

半生麺でコシが感じられる Hủ Tiếu(フーティウ)。汁無しも美味しいです

これは当地にお住まいの日本の方々も同様で、SNS などに投稿された食事の写真などを拝見させていただくに、やはりフォーは少ないように見受けられます。
とはいえ、ホーチミン市においても局地的に北部出身者が多い地域などはフォーのお店も多いので、そういった地域にお住まいの方々は頻繁に食べていらっしゃるかもしれません。

次に、この私の見解を正当化するのではないかと思えるエピソードがございますので、ここで紹介したいと思います。

Miến(ミェン)という春雨麺。お酒を飲みすぎた翌朝の朝食に最適です

ある日、私が行きつけの居酒屋でビールと貝料理でいい気分になっていたところ、隣席の酒を嗜むといったレベルをはるかに超えた飲み方をされていたご一行から話しかけられました。
それまで話しをしたことはなかったのですが、お互いに常連客のため見知った顔であり、また、私のような外国人が珍しい店でもあったことも手伝い、いろいろと話をさせていただいた上に、ビールも何本か奢っていただきました。

ひとしきり日本についての話しや、ベトナムの女性についてどう思うかなど、このような状況においてよく交わされる会話が終わった後、「Phở を食べている?」や「Phở 好き?」なんて質問が、ニタニタした顔をした数人から矢継ぎ早に飛んできました。
ちなみに、「日本の女性とベトナムの女性のどっちがいい?」という会話は、このような場面において鉄板ネタであり、質問者に得心していただく模範解答もいくつかございます。

小麦粉から作られる Mì(ミー)という中華麺もあります

話しを戻しまして、それまでどちらかというと猥談が中心であった会話からなぜそんな質問をするのかな、などと訝しみもしましたが、すなおに「ときどき食べます」と返答しました。
すると、酔客ご一行にドッと笑いが起こり、なかなかに猥雑な笑顔で、「ときどきだけ?俺は週に一回だ」とか「どこに食べに行くんだ?」「どんな Phở だ?」とさらに質問してきます。

私はわけがわからずに、適当に相槌を打っていたのですが、私の横で仕事をサボってビールを飲んでいた店主が、赤ら顔で教えてくれたところによると、「Phở を食べている?」の意味は「浮気をしている?」や「エロマッサージに行ってる?」の意味でもあるというのです。
なぜ Phở がそのような意味になるのか理解できずに、店主に理由を聞いてみると、「フォーは頻繁に食べるものではないだろ?、フォーは家で食べるものではないだろ?、つまり "Phở を食べる" というのは、普段にはない行動をするという意味があるのだ」とのことでした。
また、後から聞いた話では 、旦那さんが浮気相手に会いに行く時に「Phở を食べに行く」と奥様に言い訳していたことから生まれた、との説もあると教えていただきました。

もちろんホーチミン市にもフォーの人気店は少なからずあります

このことから、少なくとも南部の方々はフォーはそんなに食べる料理ではないため、このような隠語にも使われるのだろうと、あらためて確認することができました。
余談ですが、こちらは日本においては問題発言になりかねませんので深掘りはしませんが、同様の意味で「猫を飼っている?」という言葉もあるらしいので、本当に猫を飼っていらっしゃる方は、ベトナム南部でのこの質問に気をつけてください。

このような経緯で " ベトナム南部、少なくともホーチミン市においては、フォーは頻繁に食べられる料理ではない " という私の見解と、私自身滅多に食べないことの正当性が証明された次第であります。

タピオカ粉から作られた Bánh canh(バンカン)。のどごしのいい麺です。ちなみに北部の発音だとバインカンになります

ところで、そもそも私は独身のため Phở を食べることについては問題はないわけでして、できれば「猫を飼っているうえに、週に二、三回は Phở を食べに行きますよ」などと言える立場になってみたいものです。

余談ですが、ベトナムの干支には猫が入っています

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