見出し画像

さむらい

今しがた今日さっき
そこの角で辻斬りにあった
下手人登場からよける間もなく
袈裟掛けにばっさり やられっちまった

パックリと斬られた傷口から
すぐに真っ赤な血が噴き出した
これは終いだと嘆いてたら
横からぬるりと朝がやってきた

それは昨夜のたかが夢の話
されど全部が夢でもないらしい
毎晩一緒に眠ったはずの
男がひとりいなくなっていた

さて問題はシーツの整え方だ
いったい今までどんな風に?
さっぱりわからん
なにせアタマまできれーに袈裟に裂けてんだ

さわやかな朝
 指先の斑の赤が
 報われたいと泣き出した

さわやかな朝
 「愛されたい」がうずを巻いて
 コーヒーの上ですぐに腐った

さわやかな朝
 部屋の隅っこで火の粉が飛んだ
 うごけない体が燻っている

さわやかなあさ
 一晩燃えても墨にはならず
 奥からチリチリ声がした

チリチリ
「今だけは捨て置いてくれまいか」
チリチリ
「焦がして灰になるまで」

ハテ どこかで聞いたような声だ
「どうぞ お気のすむまで」
答える声もまた 同じ

あれから何度目かの さわやかな朝
明るい部屋で灰から腕が伸びてくる
禿散らかした赤の斑が
抜き身のままの己を掴んだ

袈裟掛けの大きな口が
さればでござると語りはじめる
奈落より語り部登場と
手を打つ音にはこたえもせずに

そう なにせ今から
本番なのさ

ついにきたのだ
己に報いよ

しょうがい
あいする

すがたを
みせるのよ

あァ
そんな
夢を見た

なんて贅沢
刺激しかない喜劇

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?