見出し画像

ユラユラぶんぶん

 もういくつ寝るとお正月。2022年もあと少し。
今日の帰りの電車の中は忘年会の帰りだろうと思われる人達が多かった。もつ鍋のにおいや、お酒のにおいが電車の中に充満していた。飲んでない時の自分の嗅覚はとても鋭く嫌になるほどだった。そして、飲んだ時の自分から発しているにおいはこんなにするんだと気付いて、また嫌になった。
 酔っぱらいのおじさんが乗り込んで来たのは、そんな時だった。おじさんはご機嫌だけどフラフラ、いや、フラフラだからご機嫌なのか。どちらでもいいが、そのおじさんは座席に座るスペースがあるのにも関わらず座ろうとしない。フラフラなのに。電車ユラユラゆれてるのに。つり革に捕まり千鳥足。回りの人達はおじさんから避難し始めた。それもそうだ。フラフラなのに座ろうとせず電車が揺れる度に大きくユラユラ、ドタドタ千鳥足。感心なのは、つり革から一度も手が離れない。私はもうおじさんから目が離せなくなっていた。もう夢中。転けないの?座らないの?そんな状態でなんでつり革から手が離れないの??
 そんな時だった。全く別の方向から「なんやお前!」「お前なんばしよーとや!」と、その酔っぱらいのおじさんに向かって怒り叫ぶ人が現れた。酔っぱらいのおじさん2人目登場だ。何もされてない、何も害がおよんでない所にいた酔っぱらいのおじさんが、急につり革フラフラ酔っぱらいおじさんに向かって怒鳴り付けた!え!?どうなるの?何が何だか!私は目をまんまるにして驚いていた。すると、急に怒鳴られた、つり革フラフラ酔っぱらいおじさんも私と同じように目をまんまるにさせて驚いていた。
 怒鳴り付けた酔っぱらいおじさんは、怒鳴り付けた事が嘘のようにすぐに着いた駅に静かに降りていった。周りの乗客も私も静かに見守った。
 その後も、つり革フラフラ酔っぱらいおじさんは、座ろうとはせず、ずっとつり革を持ちながら踊るように電車のリズムでフラフラユラユラしていた。
 時が経つのはあっという間。自分の降りる駅についてしまった。フラフラユラユラおじさん名残惜しいがサヨナラ。そのリズムで家まで無事に帰りついておくれよと心の中で思いながら、年末のにおいに満ちた電車を降りた。外の空気もすっかり年末。2022年もあと少し。

ユラユラぶんぶん
2022.12.16

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?