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アオハルVチューバー+YouTube公式動画〜第27回配信 小学生の闇

 巨大チュンチュンは、最後に飴をガリガリと噛むと、ようやく満足したのか、腰を振りながらバックネット裏に戻っていった。

 僕は気を取り直して、バッターに集中した。

 スーパースターズの4番は、松井選手だった。

 実況席のエリウサも、気を取り直した様子で声を張り上げた。

「出ました! 世界の4番。ゴーゴー、ゴリラ。ゴリラ松井選手です!」

 実のところ、エリスは野球に詳しくない。だから松井選手の仇名もまちがって憶えていた。

 しかし松井選手も、プロである。

「ウホッ、ウホッ、ウホッ」

 ちゃんと実況に合わせてゴリラの真似をし、胸を叩いたり、お尻を触った手の匂いを嗅いでひっくり返ったりしてくれた。

 僕は松井選手を3球三振に仕留めた。

 5番は野村捕手。沙知代夫人に先立たれた野村捕手は、バッターボックスでも元気がなかった。僕はこれも3球三振に切ってとった。

 スリーアウトで、ようやくチェンジになった。結局、大谷選手にはエラーでランニングホームランを許し、新庄選手にもバックスクリーンにホームランを打たれて、1回表から2点も失ってしまった。

 失意の僕が、とぼとぼとオールスターズのベンチに戻ると、ファーストを守っていた清原選手が、代打要員の元木選手を殴っていた。

「キヨさん、痛いって!」

「当たり前や。ワイは人が痛がるのが好きでやっとるんや」

「マジで痛いってば! やめろや、おい!」

「またまた。痛いの好きなくせに」

 僕は、デカい大人2人が嬉しそうにじゃれてるのをぼんやりと眺めていたが、ふと、

「あれ、そういえば、ファーストって落合選手じゃなかったのかな?」

 と思って、ベンチを探した。

 すると、

「あれ? なんで?」

 ベンチのど真ん中に腕組みして坐っていたのは、よく見ると、落合選手ではなくて信子夫人だった。

「信子さん、さきほどはごちそうさまでした」

「いえいえ、ユメオさん。お粗末さまでした」

「あのー、落合選手はどこですか?」

「それが、誰かが落合の車を盗んで暴走して、事故を起こしたそうなの。その事情聴取で警察に呼ばれちゃって。それで落合が、かあちゃん、俺が行くまでベンチを温めてといてくれって言うから来たのよ」

 なるほど。落合選手が来れなくなったのは、僕のせいだった。その分の穴埋めは、キチンと僕がしないと。

「コラ、スネ夫っ!」

 信子夫人が、オールスターズの1番バッターのスネ夫にハッパをかけた。

「バットが寝てるよ。グーグーってね。もっと神主がお祓いするときみたいに立てる。そうじゃないってば! その前髪がジャマなんだよ! 花形満の真似か、このバカ!」

 スネ夫は三振して帰ってきた。信子夫人がその頭をポカリとやると、ワーンと泣いて裏に引っ込んでしまった。

「無理もないで。スネ夫じゃ今の大谷は打てん。やっぱり薬が必要やな」

 清原選手がそう言って、スネ夫のあとを追った。どうやら親切に、ロッカールームでニンニク注射をスネ夫に射ってあげるようだ。

 2番バッターはジャイアンだった。確かアニメでは小学5年生の設定だが、なかなか堂々たる体格である。バッターボックスで構えている姿を見ると、和製バリーボンズと呼びたくなるような風格があった。

 だかやはり小学生では大谷投手の敵ではなく、これまた三振で帰ってきた。

「チキショウ。まだ薬が足りねえや」

 ベンチに坐るなり、ジャイアンは自分で腕に注射した。

「あ、ジャイアンも、ニンニク注射するんだ」

 と僕が言うと、

「はあ? ニンニク注射ってなんだ? 俺様のは正真正銘のステロイドだ」

 と、バリーボンズとはちがって、禁止薬物の使用を堂々と公言した。

「クスリなしで、小学生がこの体格になると思うか? 俺様の歌声も、ステロイドの影響でボエーっと太くなったのさ。ノーステロイド、ノーライフ。偉そうにステロイドの使用を批判するやつは、片っ端からぶっとばしてやる!」

 禁止薬物の影響からか、無駄に闘争心を溢れさせて、ジャイアンが狂ったように笑った。

 すると清原選手が走ってベンチに戻ってきて、そのままバッターボックスに向かった。一緒にベンチに戻ってきたスネ夫は、僕とジャイアンのあいだに坐った。

 その顔を見て、僕はハッとした。

 スネ夫の目は、とんでいた。

「いやー、愉快だねー、ジャイアン。この世はパラダイスだねえ」

「ぶっとばす、ぶっとばす、ぶっとばす」

「僕は金。ジャイアンは暴力。しずかちゃんは○○○○。金と暴力と○○○○だけが、この世における真実なのさ」

 まちがいない。スネ夫が射ってきたのはニンニク注射などではない。小学5年生にして、スネ夫は危険なクスリの常習者だったのだ!

「ユメオ、キミも射つ〜?」

「スネ夫、良くないぞ。死ぬぞ」

「え? クスリをやめて、長生きするの? そんな人生のどこが面白い?」

「面白いとか面白くないの問題じゃない。悲惨な結果になるのがわからないのか?」

「だって僕、金ならあるしさ。売人もやってるからね。金があったら、快楽を追求するのが人間でしょ?」

「……スネ夫、売人もやってたのか。じゃあ、キヨさんにクスリを売ったのもおまえか?」

「この世界、誰に売ったかは、口が裂けても言わないのが鉄の掟さ。ほら、キヨさん、センター前にヒットを打ったよ。ちゃーんと実力でね」

 次のバッターは僕だった。どうも転ゲーでは意外なことが多すぎて、バタバタしてしまう。僕はネクストバッターズサークルには行かずに、直にバッターボックスに立った。

 ここは4番として、キッチリとホームランを打ち、2対2の同点にしたかった。

 が、しかし。

 ベンチで知ってしまったプロ野球の闇の深さに、僕の気持ちは、すっかり重く沈んでしまっていた。


あらすじ(第1〜3回配信のリンク有り)

第26回配信 ASMRの世界

第28回配信 妄想爆発!


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