アオハルVチューバー+YouTube公式動画〜第21回配信 野球選手のプライベート
「今回の視聴者数はどうだった?」
「67人」
「え?」
前回のライブ配信中の視聴者は、120人だった。その続きをやって67人ということは……
「なにかマズかったのかな。あんなにオールスターが出演して、人気の清原選手も出ずっぱりだったのに、半分に減っちゃうなんて」
「難しいわよね。別になにが悪いってわけでもないんじゃない?」
「やっぱり野球選手を出すなら、試合をしたほうが良かった。ロッカールームでヤクを射つだのなんだのって、ゲーム実況の好きな視聴者からしたら、ちっとも面白くなかったんだよ、きっと」
「ユメオが投げたら豪速球、打ったら場外ホームランなら、観ているほうもスカッとするかもね」
「それでいこう。試しに次は、ビギナーモードにしてみて。そしたらたぶん楽勝で打てるだろうから」
そんな会話をした翌日、僕はセーブデータの続きを、ビギナーモードで始めてみた。
* * * * *
「熱いね、お二人さん」
清原選手が、僕とエリウサを囃し立てるように言った。
「よっ、美男美女! ここでチューしたれ!」
エリウサが顔を赤くし、逃げるようにロッカールームから出て行った。
「ハハーン、モナのやつ、やっぱり二岡が忘れられんのやな。ユメオ、フラれたで。飲みに行くか?」
「いえ、明日の試合に備えたいので」
僕は清原選手の誘いを断わって、ロッカールームから、駐車場に向かった。
「さて、みなさん。僕は一晩寝て、明日の試合では、4番ピッチャーで出場しようと思います。ビギナーモードなら、きっとオールスター相手でも楽勝でしょう。転ゲーは、そんな夢を叶えることもできるのです。どうぞみなさん、僕の活躍を観てスカッとしてください」
♢ぐーぐー:試合楽しみです!
♠︎仮面人:二刀流ですか。ぜひ大谷選手との対戦を!
♣︎風雲降り龍:キヨの夜の街での様子も観たいな。
♡糸車:清原さんの後を尾行して!
♣︎顔しゃもじ:モナ、モナ、モナ、モナ!!!!
チャットを読むと、清原選手や山本アナウンサーのプライベートに関心がある人が多いらしい。しかしその要求を聞いてしまうと、ますますゲーム実況らしくなくなってしまう。
「風雲降り龍さん、糸車さん、いつもチャットをありがとうございます。清原さんには試合で活躍してもらいますので、プライベートの様子はご想像にお任せします」
♣︎風雲降り龍:了解。きっと元木と飲んでますね。
♡糸車:六本木かしら? 悪いやつと関わってないといいけど。
♣︎顔しゃもじ:モナが気になって眠れません。
さて、駐車場へ来たはいいが、僕の帰る家はどこだろう? そういうことは、なにもわからないのだ。
「ユメオ」
声をかけられて、振り返った。ラフなジャージ姿の落合選手が、見るからに高級そうな外車に手を置き、
「乗ってくか。モナにフラれて、行くところないんだろ? うちに泊まってけ」
スーパースターの、なんと気さくなこと! 僕は感動して、何度も礼を言いながら外車の助手席に坐った。
「すごい車ですね。なんていうんですか?」
「アストンマーティン。007も乗ってたやつだ。運転してみるか?」
「いえ、僕、免許ないんです。まだ高校生ですから」
「なに遠慮してんだ。馬と車には乗ってみろだ。アクセルとブレーキさえまちがえなきゃいい」
三冠王に言われると、なんだか簡単にできそうな気がしてきた。どうせゲームの中の異世界である。せっかくだから、ジェームズ・ボンドも乗っていたというアストンマーティンを運転してみることにした。
「では失礼して。レッツゴー!」
エンジンをかけて思い切りアクセルを踏み込むと、助手席に移っていた落合選手が飛びあがり、天井に頭をぶつけた。
「うわー、スゲー、スゲー!」
夜の街に飛び出したアストンマーティンは、まるで都会に解き放たれた野生のチーターだった。前を行く車は、あたかも足をケガした草食動物のよう。あっという間にひょいひょいと抜き去っていく。
「超気持ちいいー。落合さん、最高っす!」
「バカタレ。今抜いたのはパトカーだ。追いかけてきたぞ」
「しまった。僕たち、スピード違反で捕まりますか?」
「お前は無免許だから、捕まったら重罪だ。逃げ切れ」
僕は必死でアクセルをベタ踏みにした。落合さんはその横で、ケータイを取り出し、信子、風呂を沸かしといてくれと呑気に話していた。
「落合さん」
「なんだ?」
「家には、奥さんと息子さんがいるんですか?」
「ああ」
「僕は、奥さんは決してブスじゃないし、息子さんも決してバカじゃないと思います」
「そんなこと、俺だって思っちゃいない」
「信子夫人は、見方によっては、ひょっとして美人なんじゃないかと、そんな気さえしたこともあるのです」
「元ナンバーワンホステスだからな」
「昭和の美意識は、正直僕にはわかりません。しかし息子さんについても、あれはバカなんかじゃなく、一つまちがえば天才なんじゃないかと、感心を通り越して呆れているくらいなのです」
「そんなことはいいから、そこを右に曲がれ。そしたらうちだ」
なんとか警察を撒くことに成功した僕は、落合邸に着いて、感動を新たにした。
「わあ、お城みたいな家ですね。いくらしたんですか?」
「そんなの忘れた。家は6軒あるから」
さすがミスター三冠王。僕も早く異世界で成功して、豪邸をジャンジャン建てたかった。
「あら、いらっしゃい、ユメオさん。サヨナラ勝ちの立役者ね」
僕は落合夫人に歓待され、光栄なことに、高名な息子さんと一緒に風呂に入ることもできた。その息子さんは、僕にとても心を許し、風呂場でおしっこをして見せてくれた。
「今回はいささか、配信時間が長くなってしまいました。続きは明日の配信で。では落合邸の風呂場より失礼いたします。あっ、またおしっこ!」
あらすじ(第1〜3回配信のリンク有り)
第20回配信 禁断のクスリ
第22回配信 激突、二刀流!
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