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葬儀屋さんがデッカイ箱で送ってくれた不揃いの柿

「じさを荘」ときたま日誌④

柿の季節です。
父がのこした家を家族が集える葬儀ホールにしています。
その「じさを荘」の庭にも、柿の木が1本あります。気まぐれに隔年くらいに実をつけることがあり、「家族葬ハウス」として使ってもらっている川原さんが「収穫しました」と送ってこられたことがありました。


なんとも川原さんらしいのは、宅配便を使い、大きなダンボールの箱が届いたので、これ何?とびっくりしながら開けてみたら、山盛りのクッション材。中を掘り起こすと不揃いの柿が7、8個。宝さがしのようでした。
スーパーで1個百円未満で買えた頃で、柿自体はただの家の柿です。大きさもバラバラ。元値は無料だけど送料を考えればえらく高価な柿になってしまっていて、もう川原さんやなあと笑って、お礼の電話してしまいました。

「あ、届きましたあ?   今年こそはとずっと思ってたんですけど、それで本当に今年こそというので送りました。毎年忙しくてこれまでできなかったんですけどね、今年のは数は少ないですけどイイ感じに色づいていて、これは送らなきゃとダンボールを買い出しに行ったら、その大きなサイズしかなかったんですよね」

そのサイズしかなかったんで、というのが川原さんだなあ。
わたしはケチなんで料金を下げるためには中身に合うサイズを必死に探すだろうけど、その時間が惜しいほど忙しいらしい。数が中途半端なのも実った数がすくなかったらしい。何しろ1本だけだし。
それでも、忙しいなか人任せにせず自分で荷造りしている様子を想像すると、やさしいひとだなぁと思った。

川原さんの葬儀社のHPを覗いてみると、これといった「個性」はない。ありきたりというか。唯一差別化されたポイントは会社のイメージキャラクターです。関西の人気タレントの円広志さんにお願いしている。

川原さんは、関西ローカルのテレビ番組で円さんがリポーターをしている「となりの人間国宝さん」に出るのが長年の夢らしく、いつかうちの会社にひょっこり円さんがやって来ないかと心ひそかに待ち続けてきたそうです。
しかし待っても待っても片思い。ならばダメもとでうちのイメージキャラクターになってもらえませんか。ある日おもいきって談判してみたそうです。

仲介してくれるひとがあり、いろいろあってイメージキャラクターを引き受けてもらえることに。そのときの喜びようといったら、子供が初めてのクリスマスプレゼントを自慢するかのようなはしゃぎようで、へらへら声で「聞いてくれますう」と電話があった。

大手の葬儀社ならともかく、社員10人未満の町の小さな葬儀社のイメージキャラクターを、円さんが引き受けたのか謎です。円さん、不思議なひとやなあ。

後日「出来たんですよ。見てくれますう」と川原さんがインタビューされている動画の案内があった。
川原さんは、円さんを前にしてカチンコチンになっている。黒いスーツにスキンヘッド。一見するとコワモテだからそのギャップがおかしかった。
手慣れた円さんがもみほぐすように話しかけていく。さすが。インタビュー、うまいなあ!
それまで意識したことはなかったが、ちょっと円さんを好きになりました。

https://youtu.be/L05jR0b1FIM


だけど、川原さんの会社のHPを見ると、円さんの顔写真はさりげなく隅っこにあるだけ。それも小さい。町の葬儀社としたらかなりおもいきった出費だろうに。目立ってない。押しが弱い。
大手の葬儀社ならまだしも、まさか町の小さな葬儀社のイメージキャラクターを人気タレントが引き受けているなんて、近所のおっちゃんおばあちゃんは想わないんじゃないか。ドーン!と円さんを前面に立てるのがフツーだとおもうのだけど。でも、控えめというのか、そういうところがまた川原さんなのだろう。

紹介されている葬儀のプランも良心的な価格だとはおもうが、格安ではない。パッと見、ネットでよく見かける他社とそれとかわりはない印象だ。
むしろ細かな説明がなされた他社のHPと見比べていくと、誠実さはあるものの、ありふれた感が気にかかりもする(数年前にHPの改良で社員一人一人の似顔絵をデザイナーに依頼したりもしたことがあったけれど、コロナ禍もあって頓挫している)。
あれなんとかしないの?
お節介で聞いてみた。
近頃「直葬」のお葬式が急増し人手が足りず大変で、落ち着いてそのあたりに手をつけている余裕がないらしい。

そういえば、円さんが、すごいすごいと言っていたあのレクサスのリムジン(動画に出てくる)、前回書いたけど、手放したんだよなあ。動画をあらためて見ると、人生の最期にこれに乗れるのか。贅沢なことだとおもった。いまさらだが。


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