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日本的経営

 こんにちは。今回は、戦後の日本経済を支えた独特の経営手法である日本的経営について書いてみます。

1.日本的経営 
 日本的経営とは日本特有の経営慣行のことで、終身雇用、年功序列賃金、企業別労働組合、メインバンク制、株式持ち合いといった日本企業の経営手法です。特に、終身雇用、年功序列賃金、企業別労働組合の3つを、アベグレン(J. C. Abegglen)の著書 『日本の経営』(1958)で「三種の神器」と呼んでいます。これが1970~80年代の日本企業の競争優位性の源泉として指摘されています。

2.終身雇用
 終身雇用とは、特別な解雇理由がなければ、従業員が定年まで正社員として同じ企業で働き続けられるシステムです。定年まで働くことができるので、人生設計を行いやすく、将来に対する心配事を減らし、安心して仕事に励むことができます。パナソニックの創業者である松下幸之助が、1929年の世界恐慌による工場稼働率の低下に対しても、全従業員の雇用を維持しました。これが終身雇用のはじまりとされており、この経営思想の下で、経営者は従業員からの信頼を獲得することができました。
 終身雇用を前提に、企業は、総合職として多くの新卒者を採用して、転勤や異動などのジョブローテーションを行いながら、長期にわたる正社員のキャリアを形成することを、日本型雇用(メンバーシップ型雇用)と言います。
 これに対して、採用時に職務内容や労働時間等の契約を行う雇用システムを、ジョブ型雇用といいます。これは、終身雇用に比べて、雇用の流動性や従業員の労働意欲が高まります。これは、他国で主流な雇用システムであり、今の日本でもニーズが高まっています。

3.年功序列制
 年功序列制とは、勤め先の勤続年数が長くなるにつれて、役職が上がり、給料も上昇していく制度です。これにより、従業員の会社への帰属意識や忠誠心が高まり、企業は人事評価を簡素化できます。また、終身雇用と同様、従業員が人生設計を行いやすいです。この背景には年長者を敬う日本の国民性があります。多くの従業員が、年長者が役職に就くことに何の疑問を抱かず、これを受け入れて働いてきました。

4.企業別労働組合
 企業別労働組合とは企業ごとに労働組合をつくることで、日本的経営の特徴として挙げられます。企業内組合とも呼ばれ、企業や事業所ごとの労働組合であるため、企業が労働組合ともに生産性の向上や労働環境の改善に取り組み、協調的な労使関係を構築することができます。これに対して、欧米諸国では職業別・産業別に労働組合を形成することが多く、社会的影響力を持ちます。

5. メインバンク制
 メインバンク制とは、企業が資金調達を間接金融で行う際に、特定の銀行から借り入れ、密接な関係を保つことです。通常は、企業は複数の金融機関から融資を受けて取引関係を成立しますが、メインバンク制により、銀行は企業へ経営関与や長期的な融資を行うことで利益の安定化を図り、企業は厳密な審査を求められず融資を受けることができます。特定銀行の行員が融資先企業の役員や監査役に就任するのも、この制度の特徴として挙げられます。

6.株式持ち合い 
 株式持ち合いとは、2つ以上の企業がお互いの株式を保有することであり、戦後の財閥解体後から始まりました。その目的は、企業間の関係維持、安定株主の形成、敵対的買収の防止、経営権の取得、企業のグループ化、外資による企業買収の回避などです。
 しかし、バブル経済の崩壊により、株式持ち合いによる資金繰りが悪化しました。1992年度(平成4年度)末から、国際業務に携わる銀行間の競争上の不平等の軽減を目的として、日本でも自己資本比率規制(バーゼル I )を導入しました。当時、自己資本比率8%以上を維持できない銀行は、国際業務からの事実状の撤退を余儀なくされました。これをBIS規制(バーゼル合意)といい、これにより、銀行は株式持ち合いを解消しました。

7.まとめ
 日本的経営は、従業員の安定的な雇用を図り、企業の成長と利益を高める経営手法でした。人の存在や価値を優先した日本的経営に魅力を感じるはずです。実際、雇用の安定を望む会社員も多いです。
 しかし、経済のグローバル化や人材の流動化により、日本的経営の強みを生かすことが難しく、組織への忠誠心に基づく長時間労働も社会的に認められなくなりました。さらに、コロナ禍の影響を受け、現在、早期・希望退職者を募る有名企業が広く報じられています。東京商工リサーチ(2022年7月20日)によれば、2022年上半期に早期・希望退職者を募集した上場企業数は25社でした。25社のうち黒字企業は12社(構成比48.0%)で、業種別でみると、アパレル・繊維製品、電気機器、機械が各3社で最多でした。
 これからは、日本的経営という経営手法では、企業は変化の激しい時代に即応できません。社会に対して新しい価値観を主体的に生み出すアントレプレナーシップを育み、リスクに対しても積極的に挑戦していく人材育成を進めていかなけばなりません。アントレプレナーシップへの注目度は高いように思います。私の勤務先の名称(英語表記)にも「アントレプレナーシップ」が含まれています。最近、名称を変更したようです。

上の画像は、東京駅丸の内駅舎(2022年7月11日撮影)です。
ありがとうございました。


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