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おもい通りの


#創作大賞2023

咳をした、
ような、気がしただけだった。

実際には、喉の奥に、

じーん

とした、酸っぱい液体がみるみるうちに

逆戻りしてきただけだった。


その液体が、口から飛び出さないように、


急いで上体を起こした。

午前2時12分。


反射的に、酸っぱい液体を、むりやり飲み込んだら、

今度は、子宮と卵巣の境目くらいのところが、激痛だった。


それには気づかないふりをして、立ち上がろうと、


右に目をやると、8歳の長男が、ぐっすりと眠っている。


左側には、5歳の次男が、すやすやと幸せな寝息を立てていた。


二人の子を起こさないよう、細心の注意を払い、


布団から、そうっと、抜け出る11月。


ダイニングへ行き、

胃腸薬を探す。

この、酸っぱい液体をまずは、鎮める必要がある。


ここ、何日も、酸っぱい液体のせいで、


こうして夜中に目覚めることになり、


そのまま朝を迎えたことも。

完全に寝不足だし、それは、仕事のミスに連鎖していた。


自分は何者なのか、忘れかけている。



妻であり、母親。


そして、教師という仕事。


朝7時になるその時は、何者なのか、思い出す。


上の子を小学校へ送り届け、


下の子を保育園に送り届け、


仕事に行く毎日は、


気力と体力、

エネルギーとパワー、


カルシウムとセロトニン、


すべてを奪っていく。


いつしか、髪の毛が、抜けて、抜けて、


地肌がやけに目立っていた。


瞼は、窪み、周りに、べっとりと

クマができていた。



『死のう。』


そのアイディアが思い浮かぶのは、いとも簡単なことだった。


踏み切り、川、屋上。


何をみても、取り憑かれていた。


青い顔で廊下を歩いていた時、


校長が、後ろから、


『あなた、病気だよ。


鏡を見てごらん。』




これは、



これは、



すべて、夫のせいなのではないかと、


思い続けていた。



自分という人間が、少しADHD気味で、不器用で、


要領悪く、スローペースな人間だという事実も


どこかで頷いていた。



自己肯定感が、失われていた。


駄目な母親。

何も出来ない愚かな女。

愚妻。


口に出して言うような夫では無いが、


行動に現れていた。





『死のう。』


私は、


決めた。

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🍊真小柴雅美🍎マコシバミヤビ🍊
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