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300字小説

『台風バキューム』

台風が差し迫った島に白い袋を提げた若者がやって来た。船は全て運休している。何処から来たのだろう。不思議そうに彼を見た島民も、避難が先と過ぎて行った。
やがて台風が来た。マンモス級の風が大木を薙ぎ倒し、岩を吹き飛ばした。波を両手と操り、岬を削る。若者はその只中、杭打ちされた白旗だ。袋を宙に広げ、風を吸い取り始める。きゅるるぅ …無念の悲鳴を雲に引っ掛け、台風は白い袋に収まった。若者は袋の口を紐で三重に縛り、頬を弛めた。
地下の避難壕から顔を覗かせた島民は真昼の土竜だ。目を瞬かせる一人に
「お騒がせしました。風は全て回収しました」
若者は言い残し、白い袋をアドバルーンに雲に消えて行った。

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