懺悔:不憫なとうふ
◇登場人物◇
・私
・ちきち
・豆腐(絹ごし)
今冬は鍋を一度も食べていないことに気づいた。春が来る前に寄せ鍋を食べよう。ちきちと一緒に台所に立った。
私は冷蔵庫からせっせと具材を取り出し、ちきちは携帯電話ですいすいとレシピを調べる。つゆの分量はどうだろうかと覗いてみると、パックに入った豆腐が携帯電話の下敷きになっていた。なんとまあ、わざわざ豆腐の上にモノを置くとは…。案の定、
「オモイ…ニガオモイ」
と豆腐がか細く訴えていた。ちきちは,
「大丈夫,君ならできるよ」
と取り合わない。
過重労働だ。かわいそうにと思いつつ、流れ作業で鍋の準備をした。
すっかり野菜を切り終えて,私は無心で具材を鍋に放る。つゆが煮だってきた。どれどれ、菜箸で無造作にかき混ぜる。
あ。
豆腐が崩れてしまった。
ごめんよと、すぐに謝ったがもう遅い。沸騰するつゆの中で豆腐はふるふる震えていた。
不憫な豆腐よ、すべて平らげるから許しておくれ。
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