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漫画原作『奪われてもいい、君になら。』第2話

◇第2話◇


◆学校・正門の前(夕方)

椿の肩から手を離し向き合うような形で立つ栢。

栢「昨日はどうも」

椿「と、どうしてここに」

栢「血の匂いをたどった」

椿「そういうことを聞いてるんじゃなくて!」

自分から出た大きな声にはっとする椿。

周りの生徒たちは栢と椿の会話を聞いてコソコソと話す。

女子生徒「あの人、今、血の匂いって言わなかった?」

女子生徒「吸血鬼ってこと?」

女子生徒「匂いをたどってきたって、雪平さんの血を飲んだの?」

女子生徒「でも、雪平さんの血ってFランじゃ……」

栢「騒がしい奴らだな。お前、雪平の人間なのにこんなところに通っているのか」

年季の入った校舎に視線を向ける栢。

椿「あ、あなたには関係ないでしょう」

栢「つれないな。人間の活動時間に合わせて会いに来たっていうのに」

栢が一歩前に踏み出し、ふたりの距離は30センチほどになる。

椿「近寄らないで」

椿の乱れた髪を耳にかける栢。

椿「さ、触らないで!」

栢の手を払いのけた椿を見て、周りの生徒たちが青ざめた。

そして、巻き込まれるのを避けるかのように立ち去った。

栢「人間はつるむ生き物だろう。お前を助けてくれる人はいないのか?」

椿「……ばかり、」

栢「ん?」

椿「さっきから勝手なことばかり言わないで。私に友達がいないのは……全部あなたたちのせいでしょう!」

栢「そんなに吸血鬼を憎んでいるなら、どうして昨日俺を助けた。お前の血からは吸血鬼を憎む味がした」

血の味を思い出すかのように、栢は親指で唇を拭う。

栢の妖艶な姿に視線を逸らす椿。

栢「俺に殺してほしかったからか?」

椿「……っ。そ、そうよ! わざわざ会いに来たってことは私の望みを叶えてくれるの?」

栢「ああ。約束したからな」

栢「殺してやるよ」

栢が椿の首筋に触れる。
椿はきつく瞼を閉じた。

栢「そうだな……100年後ぐらいに」

椿「……え?」

栢の言葉に瞼を開ける椿。

椿(100年後?)

椿「や、約束が違う」

栢「約束? 日付の指定をされた覚えはない」

椿「今日、殺してくれないならどうして私に会いに来たの」

栢「お前、俺のものになる気はないか?」

椿(お……れのもの?)

椿「どういうこと?」

栢「楔学園に来い。そして、俺と一緒に寮に入れ」

椿「楔学園? 寮?」

栢の話についていけない椿。

栢「楔学園。お前も名前くらい聞いたことがあるだろう」

椿(名前は聞いたことがあるけど、楔学園は吸血鬼の通う高校じゃないの?)

椿「吸血鬼の通う高校にどうして私が」

栢「楔学園には一部だが人間もいる。寮はパートナーが一緒じゃないと入寮できない決まりだからお前に声をかけた」

椿「パートナー?」

男「簡単に言うと餌だな。吸血鬼が暴走しないための餌」

椿(餌……)

椿「む、無理です。急にそんなこと言われても」

椿(吸血鬼なんかと一緒に生活できるわけない)

栢「この学校に未練なんかないだろう。それに家にも」

椿(この人はどこまで私の感情を読み取ったの?)

栢「俺と来い。椿」

名前を呼ばれて胸がどくんと跳ねる椿。

椿(こうして名前を呼ばれるのは、いつぶりだろうか)

栢「このまま人生を終えてもいいのか」

椿「吸血鬼にそんなこと言われたくない」

椿(私の人生が真っ暗なのは、あなたたちがいるから)

栢「いらない命なら俺に預けろ。俺が変わりに大事にしてやる」

その言葉に胸を打たれる椿。

でも、憎んでいた相手の提案を素直に受け入れることはできない。

そんな椿の様子に気づいた栢は新たに提案する。

栢「わかった。今から3秒以内に断らないと了承したと取る」

返事をしない椿に栢がゆっくりとカウントダウンを始める。

椿(断らなきゃ。いきなり会いに来て、俺のものになれだなんてあまりにも勝手だ。しかも、相手は私がずっと憎んでいた吸血鬼。そう思うのに──)

栢「さん、にー、いちー。決まりだな」

椿が言葉を発することはなかった。

栢「じゃあ、今からお前の家に向かう」

椿「い、今から?」

栢は椿の体をまるで米俵のように担ぎ上げる。

椿「ちょっと待って」

栢は椿を担ぎ上げたまま屋根伝いに空を飛んだ。

椿「お、降ろして」

椿がそう懇願している間に椿の家へと到着する。

椿(し、死ぬかと思った)

ドアの前で壁に手をつきながら呼吸を整える椿。

栢「両親は?」

椿「父は赤蜜を調べる研究機関にいて不在です。母は2階にいると思います。でも、別に親の許可なんて」

栢「そうはいかない。お前は雪平の人間だからな」

栢が引かないのを見て、ふたりで母の部屋へと向かう。

部屋をドアをノックする。

椿「お、お母様。椿です。今、お時間よろしいでしょうか」

早苗「どうしてあの子が2階に。追い払いなさい」

部屋の中で書類に目を通していた早苗が使用人に言う。

使用人「かしこまりました」

使用人が椿を追い払おうとドアを開けると、その隙に中へと足を踏み入れる栢。

使用人「止まりなさい」

椿「ちょ、なにをして!」

栢を止めようと腕を掴む椿。

周の背中越しに、早苗が驚いた顔をして立ち上がる様子が目に入った。

早苗「ど、どうして藺月様がここへ……」

早苗は動揺した様子で栢の元へとやってくると、深々と頭を下げた。

早苗「使用人の無礼をどうかお許しください」

早苗の態度に驚く椿。

椿(こんなお母様、今まで一度も見たことがない。この男は一体、何者なの?)

使用人「い、藺月様だとは知らず。申し訳ございませんでした」

使用人も深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にする。

栢「そんなことはどうだっていい」

早苗「寛大なお心に感謝いたします。あの、本日はどのようなご要件で」

栢の隣に立つ椿に冷ややかな視線を向ける早苗。

目が合った椿はびくりと体を震わせた。

栢「今日はただ許可をもらいに来ただけだ」

早苗「許可とおっしゃいますと?」

栢「椿にはこの家を出て、俺と一緒に楔学園の寮に入ってもらう」 

早苗「楔学園の寮へ? そのお話は椿をパートナーに選ばれたということでしょうか。藺月様、次女の椿は雪平の血を持たない者で」

栢「だから不当に扱うのか?」

早苗「い、いえ。そんなつもりは」

早苗が慌てて笑顔を作る。 

栢「血を飲めばその人間の感情が手に取るようにわかる。今までどう過ごしてきたのかもな」

早苗「椿の血を口にされたのですか?」

早苗は驚いた様子で、口元に手をやる。

栢「なにか問題でもあるのか。お前らにとっていらない娘だろう?」

早苗「そ、そういうわけでは」

栢「俺には椿が必要なんだ」

椿(この人はどうしてそこまで私のことを……?)

早苗「藺月様がそこまでおっしゃるなら椿のことはお任せします。しかし、本当によろしいのでしょうか。赤蜜を持つ長女の藍ではなく次女の椿で」

栢「赤蜜に興味はない。ほしいのは椿だけだ。……逆に問おう。二度と返すつもりはないがいいんだな?」

早苗「藺月様がそこまでおっしゃるなら。娘を送り出す覚悟です」

栢「そうか。そしたら、ここに好きな金額を書け」

栢はそう言うと胸元のポケットから取り出した小切手を早苗に渡す。

早苗「ま、まぁ!」

満悦した表情を栢に見られていると気づいた早苗はコホンと咳払いをして、気持ちを落ち着かせる。

早苗「お心遣いありがとうございます」

栢「親からの許しも出た。あとは荷物をまとめるだけだな」

早苗「藺月様。その前に少し娘とふたりだけの時間をいただけませんか?」

椿(お母様?)

栢「わかった。俺は外で待っていよう」

部屋には椿と早苗ふたりになる。

椿「お、お母様」

別れの言葉でもかけてくれるのかと思った椿。

しかし、早苗からは笑顔が消える。

早苗「どうやって藺月の人間に取り入ったの?」

椿「私はただ倒れていたところを助けただけで」

早苗「嘘をおっしゃい」

早苗が机を叩き、椿は肩を震わせた。

早苗「それだけであなたのような価値のない人間が気に入られるわけがないでしょう。……まぁ、いいわ。よくやったわね。椿」

早苗は小切手を大事に机の引き出しへとしまうと椿を抱きしめた。

早苗「さようなら」

椿には見えていないが、早苗は椿を抱きしめながら邪魔な娘がいなくなることに笑顔を浮かべていた。 

◆椿の部屋(夜)

栢「準備はできたか?」

栢は窓枠に腰掛けながら、リュックに荷物をまとめた椿へと声をかける。

椿「はい」

椿の返事に栢は椿を抱きかかえる。お姫様抱っこのポーズで。

椿「えっ、あの」

栢「寮へ向かう。夜の散歩は悪くないぞ」

栢が椿を抱き窓枠に足をかける。

その時、勢いよくドアが開いた。

藍「ちょっと! お母様から話は聞いたわ」

早苗から話を聞いた藍が椿の部屋へとやって来たのだ。

藍「あ、あなた妹をどうする気?」

栢「話してくるか?」

椿「大丈夫です。行きましょう」

椿は藍との会話を拒んだ。

藍「椿!」

栢が飛び立つ寸前、藍の目に光るものが見えて目を見張る椿。

椿(どうして今更そんな顔──)

栢「泣いてるのか?」

屋根伝いに飛びながら椿に話しかける栢。

椿「……街があまりにも綺麗だから」

栢「そうか」

栢はそれ以上なにも聞かなかった。

椿(私は今日、15年育った家を出た)


◆楔学園(夜)

楔学園は森の奥にあり、遠くからでも建物を確認できた。

まるでお城のような学校。
東京ドーム10個分の敷地内に初等部〜大学、寮がある。

椿「すごい。ここが楔学園」

栢「ここが今日から椿が暮らす部屋だ」

栢はバルコニーに降り立つと、ガラスのドアを開けた。

その先にはまるで高級ホテルのような部屋が。家具はどれも高価なものばかりで、頭上には大きなシャンデリア。

椿「これが……部屋?」

あまりの広さ、そして豪華な内装に言葉を失う椿。

栢「ここにあるものはすべて好きに使うといい」

椿「あ、あの。ちょっと待ってください。もしかして一緒の部屋で生活するんですか」

栢「当たり前だろう。俺と椿はパートナーなんだから。なにか問題でもあるか?」

椿(同部屋なんて聞いてない…!!)

▶2話終了


▼第3話

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