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友達との思い出 1

夜の海。
仲がいい友達2人と椎名林檎の曲を流してエモいエモい言いながら、海岸沿いを歩いた。
遠くに見える工場の夜景が、果てのない暗闇の中にぽつりぽつりと浮かんでいる。
足元に海が迫ってきて、闇と私との境があやふやになる。
引いては押し寄せてくる規則的な波の音になんだか酔ってしまって、「なんだか沈みたくなる」と言葉がポロッと口からこぼれ出た。
友達はちょっと小馬鹿にしたように「でも結局は押し返されて戻ってくるよ」と笑った。
私もそうかなと笑った。

友達がポケットから煙草の箱を取り出して、一本抜いた。
私もポケットから小さい箱をを取り出す。箱のビニールを慣れない手つきで剥がしていく。
普段、私は喫煙をしないのでこれは海に来る直前にコンビニに寄って買った。
シガーキスを試してみるために。
ドラマや映画で見るあの官能的なシーンは本当にできるのか。
色気のかけらもない笑い声を発しながら、友達が煙草の先に火をつける。

「吸って」

そう言った友達の顔がとても近くなる。
友達のタバコの先が私の煙草の先に触れる。
相手の呼吸が煙草を伝って私の咥内を満たす。
それを私は上手に呑み込むことができず、咳き込んだ。

だけど、小さくて白いその一本の先に小さな熱が宿る。

私はきっとこの先煙草を吸うことはない。
だけど、この夜の海を忘れることはないだろうと、苦味に潤んだ視界の中で笑ってる友達を見つけてそう思った。

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