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夏目漱石「三四郎」考察

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夏目漱石「三四郎」考察です。女に征服された男
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2024年3月の記事一覧

夏目漱石「三四郎」⑨ 女に征服された男(3)

1、女より「偉く」なれない男
「―― 二十前後の同じ年の男女を二人並べてみろ。女の方が万事上手だわね。男は馬鹿にされるばかりだ。女だって、自分の軽蔑する男の所へ嫁に行く気は出ないやね。―― そういう点で君だの僕だのは、あの女の夫になる資格はないんだよ」
(略)
「そりゃ君だって、僕だって、あの女より遥かに偉いさ。御互にこれでも、なあ。けれども、もう五六年経たなくっちゃ、その偉さ加減が彼の女の眼に映

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夏目漱石「三四郎」⑧ 女に征服された男(2)

1、「女」、「女」、「女」
小説「三四郎」はこう始まる

 うとうととして目が覚めると女は何時の間にか、隣の爺さんと話を始めている。

(「一」)
(※ 著作権切れにより引用自由です。)

これは主人公・三四郎が上京する汽車の中の描写である。
「三四郎」はいきなり、主人公の「女」に対する目線・しかも盗み見のような視線から始まっている。

さらにここで「爺さん」は年齢と性別を含めた名称だが、女のほう

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夏目漱石「三四郎」⑦ 女に征服された男(1)

1、女はずるい
夏目漱石が「三四郎」の前に書いた「坊っちゃん」には、次の一節がある。

元来女のような性分で、ずるいから、仲がよくなかった。

(「坊っちゃん」・「一」)
(※ 著作権切れにより引用自由です)

これは坊っちゃんが少年時代の回想をしつつ、自身の兄について評した言葉である。
「女のような性分で、ずるい」― 私がこれを書いてる令和6年はおろか、平成時代でも現役の男性作家がこんなフレーズ

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夏目漱石「三四郎」⑥ 女は絶対的な他者である

1、謎のヒロイン・里見美禰子
夏目漱石作品の特徴に

・ヒロイン女性が内心でなにを考えていたのか不明なまま話が終わる

との点がある。
ヒロイン女性の内面に、小説の語り手は一切入り込まないのである。
小説の語り手が主人公男性にせよ客観描写であるにせよ、主人公の内面、主人公がなにを見てどう思ったのかについてはしっかりと描写されるが、ヒロイン女性の内心については、不明なのである。

かつ、それが終盤で

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夏目漱石「三四郎」⑤ モテない男達、美しく(3)

1、ヒロインからなにも告げられない主人公繰り返すが、「三四郎」の主人公・三四郎は、女にフラれた男である。

・ヒロイン・里見美禰子に思い切って告白するも、聞かなかったことにされ、溜息をつかれてしまう。
・さらに美禰子は三四郎にはなにも告げずに、三四郎の知らない男と婚約している。
・三四郎はそれを知人から伝えられる。

この後段、
・結婚等の重大事項を片思いしてる女性本人からは告げられずに、事後的に

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夏目漱石「三四郎」④ モテない男達、美しく(2)

1、フラれた主人公・三四郎前回も書いたように、「三四郎」の最大の特徴は、

・モテない男達を、美しく描いている

ここにある。
前回は広田先生についての描写にふれた。

今回は主人公・三四郎についてふれる。

再言するが、主人公・三四郎は女にあっさりフラれた男である。
しかもそのフラれ方が、「モテない男あるある」なのである。以下説明

・好きになった女と一時期は仲良い感じだったが、最近なんか冷えた

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夏目漱石「三四郎」③ モテない男達、美しく(1)

1、モテない男達を美しく描く夏目漱石「三四郎」の、他の物語にない最大の特徴は、

「モテない男達を、美しく描いた」

これである。
笑われ役でも憎まれ役でも、最初から異常者のような設定でモテない男を描いたのではない。
真面目なお話で、モテない男達を美しく描いたのだ。

その場面は二つ。
一つは、広田先生の回想
もう一つは、三四郎の回想+末尾 である。

まずは広田先生を語ります。

2、二十年も美

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夏目漱石「三四郎」② 「モテない迷える子羊」のまま終わる

1、恋愛マニュアルのお説教「三四郎」に対する読者の反応として、恋愛マニュアルの指摘、悪く言えば相手をモテない男と見下した上でのお説教がたまにある。

確かに、ヒロインの美女・里見美禰子のほうから三四郎にアプローチかけてるように思える場面が途中あるので、その時に告白するなりもっと仲をつめるなりすればうまくいったのでは? との想像はできる。また小説の語り手も、時おり三四郎を批判的に描写することもある。

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夏目漱石「三四郎」① 主人公がフラれる話

1、主人公がヒロインにフラれる夏目漱石「三四郎」
明治41年(1908年)発表

この「三四郎」が一体どんな話なのかといえば、
・主人公がヒロインにフラれる話
である。

一行であるが、これがこの話の最大の特徴である。
ヒロイン側になにか事情があって仕方なく交際できないとか離れなければならない、とかではない。
単純にフラれるのである。

「坊っちゃん」の記事でもふれたが、基本的にお話の男性主人公と

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