宛先は君に 2021年7月16日

2021年7月16日

 つまるところ、僕らはどんな答えを導いたとしてもそれは正解だと、断定できるものはなく、現時点で導き出した答えというだけに過ぎない。だが、どこかに本当のものがあるはずで、それを追い求めることが人生なのだ。
 魔法のような夕暮れ時に、外へと飛び出し、ただ目的もなく歩いていく。今日はりかと佐和子さんと、三人で散歩をした。それはとても有意義な時間だったが、しかし、その後部屋に戻り、りかと二人になるとある現実が僕らに重く圧し掛かった。
「ねえ、私たちはいつまでここにいられるのかな?」
 僕はずっと、考えたくない。つまり、頭の中にずっと滞在し続けている問題だ。僕はいつまでここにいられるのだろうか。
「分からない。りかはいつまでいるつもりなの?」
「私も分からない。ここは居心地がいいし、いつまでもいたいって思うけど。でもそういうわけにはいかないじゃない?」
「僕はどうだろう。特に期限を決めているわけじゃないけど。でも、いつまでもここにいられるわけじゃないとは分かってる。りかは来る時、何か言われたりしなかったの?ほら、両親に」
「言われたのは、少し休んできなってことだったから、それがいつまでなのかは分からない。でも、そんなに長くはいられないと思う。佐和子さんたちは優しいからいつまでもいてくれたら嬉しいと言ってくれるけどね」
「戻ったら何をするの?」
「一旦大学に行くのかな。卒業しなくちゃいけないしね。その後はどうだろう。ちゃんと就職とするのかな」とりかはそれがまるで自分とはかけ離れた世界の話であるかのように笑って言った。
「どんな仕事がしたいの?」と僕は尋ねた。
「やりたいことはあるけど、それが私を受け入れるかは分からないから」
「そうか」と僕は消え入るような語尾で言った。
「あなたはどうするの?小説が書き終わったとしても、それが生活の軸になるかは時の運しだいだし」
「確かにね」
 将来のことを考えだすと憂鬱が止まらない。それは常に頭の隅を占領していて油断を見せると、中心に居座る。そうなると、もう駄目なんだ。それしか考えられない。すると、あの頃を思い出す。面接に行く電車の中で、指先は震えだし、僕は何処にも受け入れられないという強迫観念、しかしそれは事実だったのだけど、吐き気によって途中下車をして、ホームのベンチに座って、冷たい水を何度も口に含んだことを思いだす。あの頃は自分の存在意義が揺らぎ、何か強い心、それは未来を想像する力でもあるが、それが欲しくてたまらなかった。それがあれば、生きている自分を見捨てなく済むと思ったからだ。
 ああ、夜の闇の深さが僕を飲み込み、更に憂鬱へと誘っていく。駄目だ。外へ出て、何かこの気分を快復させる鍵がないかと、彷徨ってみたものも、結局は元の木阿弥だ。ただ足を疲れさせただけで終わってしまう。そうやって夜を使い果たしてしまうんだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?