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短編小説 これからもよろしくね

    これからもよろしくね
                             森本和子

私は舞台の上でスポットライトを浴びている。舞台の中央で倒れ伏し、息も絶え絶えの姿。
早く幕を下ろして。私は心の中で願う。私は、このままでは死んでしまう。私の意識が遠の
ていく。
 ようやく幕がおりた。客席からは拍手が起こる。私は両手を舞台の床についてようやく上半身を起こした。演出家の夫とスタッフが駆け寄ってきて、私を助け起こしてくれた。
「死ぬかと思ったわ」
「死なないでよかった。ほら、すごい拍手が聞こえるだろう。君の迫真の演技に対してだよ」
 夫はにこりと微笑み舞台袖まで運んでくれた。スタッフがコップに水を入れて誇んできた。私は一口ごくりと飲んだ。
「もうプリマバレリーナはおしまいだわ」
「そうだね。君は体力の限界までよく頑張ったよ。プリマバレリーナは、おしまいでも、人生はこれからまだ続いていくよ」
「そうね。これからもよろしくね」
 しばらくして、舞台の幕が上がった。
 年老いたプリマバレリーナは、背筋をしゃんと伸ばして舞台中央まで歩いていき、深々とお辞儀をした。

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