【歌詞考察】ザ・スターリン「ロマンチスト」-それじゃあテメェは何主義者?
はじめに
「わたしは○○主義者です」「俺は☆☆イストだからさ~」。こんなこと言う人、見たことありませんか? SNSでちょっと探してみると、すぐにそういう人たちが見つかります。流行りの思想(たとえば菜食主義、反外見重視主義、マスキュリズムなど)であればあるほど、主義者の数も増えていきます。でも、本当に彼ら全員が全員「主義者」なのでしょうか? 彼らは本当にその考えを重んじているのか? ただ格好つけたいだけじゃない? ただ流行りに乗っかっているだけじゃない? そんな疑問を持ったことありませんか。
今回紹介するのは、日本のパンクロックバンド ザ・スターリンの「ロマンチスト」です。日本屈指の過激なバンドとして知られる彼らが世に放った、一見危険ですが鋭利に輝くナンバーを、個人的に考察していこうと思います!
「ロマンチスト」とは
「ロマンチスト」概要
「ロマンチスト」は1982年に徳間ジャパンからリリースされた楽曲で、ザ・スターリンのメジャー・デビュー・シングルとして発表されました。後にアルバム『STOP JAP』に収録されました。作詞は遠藤ミチロウ(みちろう)、作曲はザ・スターリン。その過激でセンセーショナルな曲は当時の音楽界に衝撃を与え、今ではザ・スターリンの最高傑作ともみなされています。
インディーズ時代には「主義者(イスト)」のタイトルで演奏されており、1981年のアルバム『trash』に収録されてもいました。
ザ・スターリンというバンド
ザ・スターリン(ビデオ・スターリン、スターリン)は日本のロックバンドで、1980年に結成して以降、頻繁なメンバーチェンジや二度の解散を経て1992年まで活動を続けました。日本のパンク・ロックを代表するバンドとして知られており、とくにボーカルの遠藤ミチロウがライブで行なった数々の過激な行動(動物の死体を投げつける、全裸でステージから放尿する、拡声器や爆竹を鳴らす、など)は、バンドの伝説として語り継がれました。あまりの暴れようにザ・スターリンを出禁にしたライブハウスも多かったようです。過激性の一方、その音楽性や歌詞の独自性は高く評価されており、ミュージシャンだけでなく、脚本家の宮藤官九郎や思想家の吉本隆明、作家の高橋源一郎らもファンでした。
「ロマンチスト」考察
アナーキストとオポチュニスト
さあ、考察のほうに入っていきましょう!
どうですか、この鋭すぎる歌詞! これだけでもうザ・スターリンがどんなバンドかわかるくらい見事な歌詞ですよね。
まずは単語の解説からいきましょう。「アナーキスト」は日本語で「無政府主義者」、国家や政府による統治は国民の自由な行動を阻害しているという考えのもと、政府のいらない社会を目指す人のことです。オポチュニストとは、自分の考えを持たずに周りの都合に合わせて行動をする人のことで、「日和見主義者」とも呼ばれます。
語り手は言います。「アナーキスト」と呼ばれる人々は名前ばかりカッコよくて、実際はただ古い体制を壊したいだけ。壊せればそれでいい。あとのことなんか知らない。そんな考えでは当然上手く行くわけがなく、政府を壊すどころかアナーキストたちのほうが壊れてしまう。糠味噌のようにぐちゃぐちゃになって、挙句の果てにはただの日和見主義者になってしまう。それじゃだめじゃん。
やい、アナーキスト。おまえらは政府を壊すという考えに浮かれているばっかりじゃないかい? 現実離れしたことしか考えないで、現実をしっかり見ていないんじゃないかい? 俺から言わせてみれば、おまえらの行動は「吐き気がする程ロマンチック」だぜ!
完膚なきまでにこき下ろす語り手。しかし語り手の言葉はたしかに芯を突いています。
コミュニストとスターリニスト
「コミュニスト」とは「共産主義者」のこと。一部の資本家が利益を貪るのではなく、人民がみんなで富を分配するべきだという考えです。「スターリニストは「スターリン主義者」。スターリン主義は何かというと、指導者を崇拝したり、秘密警察を用いた情報統制をしたり、軍事行動を中心とした対外政策をする考えのことです。これはソ連の指導者スターリンが実際に行なったために「スターリニズム」の名が付きました。
最初はみんなで手を取り合う平和で平等な世界を目指していたはずなのに、次第に内部での争いが増えていく。そして誕生した独裁者が自分を中心とした国家の建設を目指し、国民に手拍子を取らせる体制が出来てしまう。それじゃだめじゃん。
やいコミュニスト。本当の平等なんて存在するのかい? 「平等平等」って叫ぶあまり、とんでもなく不平等で息苦しい世界になりはしないかい? 俺からしてみればてめえらは「吐き気がする程ロマンチック」だぜ!
ここで気になるのは、「ザ・スターリン」というバンド名です。「ロマンチスト」で散々批判しているスターリンを、どうして彼らはバンド名に使ったでしょうか。遠藤ミチロウは以下のように語っています。
ワオ。なんてパンクな理由……。
お前は――
お前は主義者! ここで敢えて「主義者もどき」や「えせ主義者」ではなくストレートに「主義者」と呼ぶのが語り手らしいですよね。「主義者」と言い切ってしまうことで、逆に相手をあおっているようにも感じます。
モラリストとヒューマニスト
「モラリスト」は道徳者。本当の意味は、人間を観察しその本質を考える人らしいのですが、ここでは単純に道徳的な人物としておきましょう。「ヒューマニスト」は人間性を尊重し人間愛を重視する人のことです。
しかしそんな道徳者たちも、「ロマンチスト」ではとんだ悪人。モラリストは「助けてあげるよ」と優しく手を差し伸べると見せかけ、その内心では何やら企んでいる様子。一方でヒューマニストは人の前に出ることができずに「臭いで犯」している。これはどういうことでしょう?
そう、両者とも女の子の体目当てで近寄っているんですね。前者は道徳的なフリをして、それは女の子を誘うため。後者は女の子をナンパできず、仕方なくその子の残り香で興奮している惨めさを「自分は人間愛があるからそんなひどいことはしない」という言い訳で誤魔化しているのです。それじゃダメじゃん。
道徳者に見せかけ本心では下心がいっぱい。まったくどいつもこいつも聖人の真似して中身は獣。俺からしてみればてめえらは「ロマンチスト」だぜ。
ナチュラリストとジャパニスト
「ナチュラリスト」とは自然主義者。この世のあらゆる事象は自然や環境に理由があるという考えです。「ジャパニスト」は日本主義者。日本的な物事を愛する人の意。
ナチュラリストはあらゆる物事を「天気のせいだぜ」と自然のせいにし、根本的な原因である公害(人間の行動)に見向きもしない。ジャパニストはというと、夕焼けを見ながらカッコつけて自慰行為に耽りながら「天のお告げだ」とほざいている。あたかも日本的な精神に浸っているような様子で。
両者とも口では「ナチュラリスト」だの「ジャパニスト」だの言ってはいるが、それは自分の都合のいいように解釈をしているだけ。中身なんて関係なし。俺から言わせれば、おまえらなんてただの「ロマンチスト」だぜ。
そう語り手は叫んでいるのでしょう。
どいつもこいつも偽物だ
語り手の毒はとどまるところを知りません。私も、もう一々用語を解説することはしません。語り手はこの世のあらゆる主義者(イスト)たちに叫んでいるのです。歌詞に登場していない、無数の主義者たちへ彼は叫びます。
てめえら全員、暢気に夢を見ているだけの「ロマンチスト」だぜ!
と。
おわりに
「ロマンチスト」、いかがだったでしょうか。これぞザ・スターリンのスタイル、これぞパンクロックといった歌詞でした。この曲はずいぶん前に発表されたものではありますが、SNSを通じて気軽に自分の考えや思想を発信できるようになった現代でいっそうそのメッセージ性が光るのではないかと思います。しかし、人間はやっぱり目立ちたがり屋。こうして「歌詞考察」なんてしている私自身も、自然と知ったかぶりをしちゃっている「ロマンチスト」なのかもしれません。私の記事は百科事典の1ページじゃありませんから、何か間違いがあったらちょっと小ばかにしてに笑ってやってください。
それではまたいつかお会いしましょう。
ありがとうございました!
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