毛見河先生は天才科学者の霊に聞く 1話

あらすじ

 彩苑高校に通う女子高生、富士笠理乃はある悩みを抱えていた。それは幽霊に憑かれている事。
 そんな理乃はある噂を聞きつけ、ある人物の下へ向かう。その人物とは霊を祓う力を持つ理科教諭、毛見河工介だった。
 理乃は霊を祓ってもらうように頼むが、工介はある条件を出す。それは、理乃に憑りつく科学者の霊に憑依されインタビューを受ける事だった!
 歴史に名を刻んだ科学者の人生を直に聞きたい工介の条件を呑んだ理乃は、歴史上の科学者を体に乗り移らせる。
 理乃に乗り移った科学者は皆、奇人、変人、ダメ人間!?
 天才科学者から出てくる知られざるエピソードはいったいどんなものなのか!?
 あなたは歴史の目撃者になる(ためになるとは言ってない)!?

登場人物

富士笠理乃

 彩苑高校一年生。十五歳女子。
 いたって普通の女子高生だったが、ある時、悪霊に憑りつかれて不運が重なる。
 噂で同じ彩苑高校に勤務する理科教諭で、除霊師の家系である毛見河工介を知り除霊を頼む。
 憑りつく霊が今は亡き天才科学者と判明すると、霊となった天才科学者に憑依されてインタビューを受ける事を報酬として、工介に除霊を依頼する。


毛見河工介

 彩苑高校理科教諭。二十九歳男性。
 一見するとどこにでもいそうな男性教諭。
 実は代々除霊師の家系の生まれ。
 霊に憑かれて困っている富士笠理乃に除霊を頼まれる。
 理乃に憑りつく霊が歴史上の天才科学者と判明すると、除霊の報酬として、憑依させた後、インタビューをして記録する事を条件に出す。

第1話

理乃「毛見河先生」「頼みたい事があるんです」
工介「いきなりどうしたんですか」「富士笠さん?」

 理科準備室に入ってすぐ、富士笠理乃は毛見河工介に相談を持ち掛ける。
 神妙な面持ちの理乃を一瞥した工介は、すぐに授業に用いる備品確認を再開した。

理乃「毛見河先生」「私の話を——」
工介「富士笠さんのすぐ後ろにいる悪霊のことですか?」
理乃「!?」「見えてるんですか!?」

 理乃は目を見張る。
 最近、彼女が困り果てていた事。それは心霊現象。

 スマホの画面に悍ましい影が映ったり。
 暗がり場所で、恐ろしい悲鳴が聞こえたり。
 誰もいないところで物が勝手に動いたり。

 普通ではありえない現象に、理乃は恐怖で精神が疲弊していた。
 厄除けの神社で祈祷したり、除災グッズも試した。
 それでも効果がなかった。

 すぐにでも厄払いしたかった理乃は、ある噂を聞きつけた。
 霊を祓う事を生業としてきた家系に生まれた人物が、彩苑高校に勤めていると。

 そして理乃はその人物——毛見河工介の下にたどり着いたのだ。

工介「見えますよ」「これでも除霊師の家系の生まれですので」

 備品確認を終えた工介は掛けている眼鏡をくいっと上げて、理乃と目を合わせた。
 今まで悩まされた心霊現象を相談しても、誰も相手にしてくれなかった。それが工介だけは否定しなかった。
 しかも、背後に霊がいると言っていた。憑かれている悪霊も見えているのも本当だ。

理乃「毛見河先生!」「お願いです!」「憑りついてる霊を祓ってください!」
工介「それは構いませんが」「富士笠さんは除霊の報酬を支払えますか?」理乃「ほ、報酬…ですか?」

 工介の返事に理乃は困惑する。

工介「こちらも」「ただで除霊する慈善活動は承ってないので」
理乃「で、でも——」
工介「除霊してほしいなら」「それに見合う対価を支払うのが社会の常識です」

 ここで断られたままでは理乃も困る。
 やっと除霊ができる工介を見つけたのだ。引くわけにはいかない。

理乃「待ってください!」「私にできる事なら何でもします!」

 理乃は声を張って、工介のすぐ目の前に近づく。
 見上げれば目と鼻の先に工介の顔が見える。いつもの淡々とした表情で見下ろしていた。

工介「一高校生の子供の富士笠さんに何ができると——」

 理乃と重なっていた目線を外して視線を上げた途端、無表情だった工介が目を見張る。

理乃「?」「どうしたんですか」「毛見河先生?」

 目の前でおどおどしだした工介を理乃は首を傾げて尋ねる。
 すると、工介は口をパクパクさせていた。
 視線の先には、理乃に憑りつく霊がいる。

理乃「先生」「このしわくちゃのおじさんの霊を知ってるんですか?」
工介「誰に向かってしわくちゃなおじさん呼ばわりしてるんですか!?」
理乃「…え?」

 心の中で「なんでキレられたの?」と理乃は呟いた。
 どうして工介がキレたのか意味不明だった。

工介「富士笠さんに憑りついてるのは」「天才科学者アルベルト・アインシュタインです!!」
理乃「あるべると・あいんしゅたいんって」「あのアインシュタインですか!?」

 アルベルト・アインシュタイン。

 相対性理論を始め、数々の研究で名を轟かせた物理界の天才科学者。
 1879年ドイツ生まれ。

 48歳の時にノーベル物理学賞を受賞
 誰もが耳にした事のある相対性理論も『特殊相対性理論』と『一般相対性理論』の二種類で、二つとも別の研究内容である。

 ノーベル賞を受賞した際の研究も、『相対性理論』と思われがちだが、実は『光電効果の発見』という研究で受賞している。

工介「そうですよ!!」「そんな偉大な科学者に」「無礼な呼び方をしたか分かっているんですか!?」
理乃「い、いや…」「それはそうなんですけど…」「それより除霊の方を…」

 どれだけ偉大な科学者だろうと、理乃にとっては不吉な悪霊だ。
 直ちに除霊をしてもらわないと困るのだ。

 工介への報酬は何とかしないといけないけど、祓ってもらうためにここに来た。
 どうにかして除霊をしてもらうよう交渉しないと。

工介「何をそんなもったいないことを!!」「歴史に名を刻む研究者をそのまま祓うなんて‼」
理乃「で、でも」「悪霊は祓うのが除霊師の役目じゃ——」
工介「富士笠さんの不幸よりも」「アインシュタインに生前の話を聞く方が先決です!!」

 真剣な表情で言い切る姿に、『困ってる生徒に言うセリフ?』と理乃は内心思った。
 これ以上の説得は無意味だと感じ始めると、工介は理乃の両肩に手を置く。

工介「富士笠さんの除霊の依頼」「受けましょう」
理乃「え?」「で、でも私」「除霊の報酬を——」

工介「報酬はしっかりもらいますよ」「富士笠さんに一仕事してもらった後に」
理乃「ひ、一仕事って?」

 いきなり工介から除霊を了承され、その対価を説明されるのだった。

理乃「生前のアインシュタインのインタビューを記録する…ですか?」
工介「その通りです」

 工介から出された除霊の条件。

 それは、理乃に憑くアインシュタインの霊に肉体をゆだね、インタビューを受ける。
 今まで知る事のなかったアインシュタインの人生を直に話してもらい記録。
 工介の聞きたかったことを全部聞き出せた後、憑依した霊を祓う。

 それが工介に除霊を依頼承諾させる条件だ。

理乃「あ、あの」「意識まで霊にゆだねさせて」「私の体は大丈夫なんですか?」
工介「心配しないでください」「精神を奪われている間」「寝ている感覚と変わりません」

 落ち着いて憑依後の説明をする工介に。理乃も胸を撫で降ろす。

工介「富士笠さんに憑依した霊が急に暴れ出さない限りは」
理乃「私の安心を返してください」

 理乃は『信用できないな』と心の中で愚痴をこぼす。
 意識を奪われている間、理乃は何もできない。
 霊がこの体で動いて怪我でもすれば、理乃が困るだけというわけだ。

工介「憑依したアインシュタインが」「富士笠さんの体に危害を加えないよう」「善処はします」
理乃「絶対に止めるとは言わないんですね」
工介「物事に絶対はないのが世の常です」

 キメ顔で眼鏡をくいっと上げる工介に、理乃は怪訝な行状を浮かべる。
 内心、『この人に頼んで本当によかったのかな?』と思ってしまう。

 理乃の心配を一切していない。
 机を挟んで座っている工介は、カルテを持ってメモを取るモード。
 机の上にはレコーダーが置かれ、録音している。
 アインシュタインのインタビューに意識が向いていた。

工介「では始めますよ」「心の準備はいいですか」「富士笠さん?」
理乃「は、はい!」「お願いします!」

 ここまで来て悩んでも仕方ない。
 今は工介にすべてを任せるしかない。
 腹をくくった理乃は瞼を閉じる。

 すると工介は理乃の頭の上に手をかざした。
 かざした手元から突如、眩い光が溢れる。
 その直後、理乃の背後にいた霊が体へ吸い込まれるように理乃と一体になっていった。

工介「強制憑依は成功しました」

 理乃の頭の上から手を離し、工介はカルテを持ち直した。

理乃「…ここは」「どこだ…?」

 瞼を開けた理乃は突然、周囲を見回し始める。
 まるで急に知らない場所へ連れてこられたかのような反応をしている。

工介「落ち着いてください」「あなたはアルベルト・アインシュタインで間違いありませんか?」
アインシュタイン「そうだが、それがどうかしたのか?」

 先までの理乃とは口調も態度も違う。
 そんな理乃に乗り移ったアインシュタインに工介は感動を覚えた。

 科学において、量子論の発展に大きく貢献した天才科学者。
 そんな偉大な研究者から生前の話を聞けることは、全理系オタクにとって最大の報酬。
 もちろん、工介もその一人だ。

工介「今、あなたは日本人の少女の体に憑依してます」一時的に現世へ戻っています」

 まずは困惑しているだろうアインシュタインに現状を説明する。
 そんな工介の浮世離れした話を聞いている彼も自身の体を見回す。

アインシュタイン「真には信じがたい事象だが」「これは信じるしかないな」

 手鏡を使って自身の姿を確認する。
 死んだ後に霊となって、理乃に憑依した事実をアインシュタインは受け入れる。

工介「そう言う事なので」「あなたが悪霊として害をなす前に」「成仏させる必要があります」

 工介が真剣な面持ちでアインシュタインへ話し始める。

工介「ですが」「成仏させる前に」「生前のお話を記録したいと思ってます」

 そう言うと、机の上のレコーダーのスイッチを入れた。

アインシュタイン「仕方ない」「この状態を検証するのには興味がある」「できるならこのまま研究したいくらいだ」「それに」「若造がどうとでもできる以上、私に拒否権はないからな」

 不遜な態度で工介と話すアインシュタインは渋々納得した。
 工介の説明を聞く限り、霊である彼をいつでも強制的に成仏できる。

 つまり、理乃に憑依したまま不審な言動を見せた時点で消滅させられる。それはアインシュタインに拒否権はないことを意味していた。

工介「ご理解が早くて助かります」

 さすが天才。
 工介の説明を瞬時に理解し、口にしなかった拒否権の剥奪も把握していた。

工介「まずはお名前を教えてください」
アインシュタイン「アルベルト・アインシュタインだ」

 淡々と質問してくる工介に対して、アインシュタインは渋い表情で名前を口にする。

工介「それではまず、ご家族のお話をお聞かせてください」
アインシュタイン「けっ!」

 次の話題に移った直後、アインシュタインが唾を吐いた。
 とても嫌そうな表情を浮かべている。工介はすぐ『あ、地雷踏んだ』と察した。

工介「ま、まず」「家族構成を教えていただけますか?」
アインシュタイン「父と母、妹、妻と息子二人、娘二人だ」

工介「なるほど」「では幼少期のお話をお聞かせいただけますか?」
アインシュタイン「っち!」

 今度は舌打ちしたアインシュタイン。
 これ以上機嫌を悪くするわけにもいかない。この後深堀はしない方がいいと悟る。

アインシュタイン「私は幼い頃から」「『のろまな子』とか言われてきた」工介「そのお話は今も知られていますね」

アインシュタイン「成功を収めた私に対しての愚行は水に流してやるとして」「母はそんな私を厳しくしつけてきやがった」「父は温厚な人で母とは噛み合わなかった」「それもあって私を父のようにしたくなかったようだ」

工介「なるほど」「アインシュタインさんの父母はそのような方々だったのですね」
アインシュタイン「そんな母のしつけに鬱憤がたまってた」「だから私は妹に憂さ晴らししていたな」「いやぁ」「懐かしい思い出だ」

 思いをはせながら話をするアインシュタイン。

アインシュタイン「思い出すな」「腹が立ってた時」「妹をボウリングのボールを投げつけたり」「鋤で叩きのめしたな」「あの時はスカッとしたのをよく覚えている」
工介「それ今の時代だと殺人未遂で捕まってますね」

 懐かしそうに物騒な思い出を語る中、冷静にツッコむ工介。

アインシュタイン「妹なんて」「兄の鬱憤を晴らすための存在ではないのか?」
工介「その歪んだ倫理観でよく妹さんに復讐されませんでしたね」

 冷静にツッコむ工介。
 一方のアインシュタインは、何かおかしいことを言ったのかと不思議そうな顔をする。

工介「では次に」「学生時代のお話に移ろうを思います」「学生時代を振り返ってお話をお聞かせいただけませんか?」
アインシュタイン「幼少期の話でも言ったが」「『のろまな子』なんて不名誉なことを言われた」「たかが暗記科目が苦手だっただけの事でだ」

工介「なるほど」「その後の学生時代はどんな生活をしていましたか?」
アインシュタイン「私はドイツの生まれで」「途中両親がイタリアへ引っ越した」

工介「アインシュタインさんもご一緒に?」
アインシュタイン「いや」「学生だった私を勉学に努めさせるよう」「両親はドイツに置いていきやがった」

工介「そんな事があったのですね」
アインシュタイン「まあ」「学校は退学してやったがな」

 自慢げに語るアインシュタイン。そ言動子に工介は驚く。

工介「ど、どうして退学を?」
アインシュタイン「あのままドイツにいたら」「兵役されかねなかったからな」「すぐにでもドイツ国籍を捨てたかったのだ」

工介「な、なるほど」「そんな時代背景があったとは」「その後はどのような生活を?」
アインシュタイン「勝手に退学した手前」「親を安心させるために大学へ進学する事にした」「そこでスイス連邦工科大学を受験した」

工介「なるほど」「それで受験結果はいかがでしたか?」
アインシュタイン「不合格だった」「だが、二度目の受験で合格したがな」

工介「のちに天才と呼ばれたアインシュタインさんも」「そのような挫折を味わったのですね」
アインシュタイン「まあな」「ギムナジウムでは中退したし」「十八歳未満が受験資格を得られなかった」「まだ十六歳だったから落ちたのだ」「若気の至りというやつだ」
工介「それは落ちて当然ですよね」

 さっきまで失敗を糧にしたと思い込んでいた分、受験資格違反という単純なミスで不合格になった事で株がさらに下がる。

工介「で、では」「大学に無事合格した後」「どのような学生生活を送りましたか」
アインシュタイン「老いて死んでしまった私だが」「若い頃はいろんな女性に声をかけられたものだ」

 急に自慢げに語り出すアインシュタイン。額に手を当てて謎のポーズを取り出した。

アインシュタイン「その時だ」「私はある女学生と出会ったのだ」
工介「その女学生とは誰ですか?」

アインシュタイン「ミレヴァという女性だ」「彼女は物理学を学んでいた学徒の中で唯一の女性で」「この私と知性が噛み合った女性だった」「その時彼女に知的パートナーとしての運命を感じたのだ」

工介「そんな出会いがあったのですね」
アインシュタイン「ミレヴァとはその後結婚したのだ」

工介「そうなのですね」「そんな運命の出会いをした学生時代の後」「そのまま大学の助手になったのですか?」
アインシュタイン「そのポストは狙っていたが」「私の偉大さをわからなかった教授との反りが合わなくてな」「そのまま卒業しないといけなくなってしまった」
工介「これまでのお話を聞く限り」「何となく想像できますね」

 不満そうなアインシュタインに対して、工介は悟ったような顔になる。

工介「その後はどうなされたのですか?」
アインシュタイン「二年間は無職で困り果てたものだ」「なんとかスイスの特許局の就職審査の途中」「ミレヴァが子を授かってしまったのだ」

工介「まだご結婚はされてなかったのですか?」
アインシュタイン「あぁ」「就職の審査に響くから」「生まれた子はすぐ養子に出した」「就職の邪魔をされたくなかったからな」

工介「最低な育児放棄の理由ですね」
アインシュタイン「そのおかげもあって」「特許局に勤める事ができたのだ」「そこから私の人生は右肩上がりに変わっていった」

工介「何があったのですか?」
アインシュタイン「就職先は忙しくなかったから」「研究に時間をさけたのだ」

工介「なるほど。研究に打ち込める環境だったのですね」
アインシュタイン「あぁ」「おかげで『光電効果』や『ブラウン運動』『相対性理論』の論文を発表できた」「それが評価されたのというわけだ」

 アインシュタインは天を仰いで高らかに話す。
 それを聞いた工介も、彼の努力が実った瞬間を知れて感動していた。

工介「そこが人生のターニングポイントだったのですね」
アインシュタイン「その後にミレヴァと結婚し」「新たに子供も授かった」「それにノーベル賞候補に七回も上がった」「おまけにチューリッヒ大学の教授に就任できた」

工介「まさに人生の絶頂期ですね」
アインシュタイン「そう!」「私は一躍時の人になった!」「おかげでいろんな女性が私を求めてきたのだ!」「あの時は忙しかったさ!」

工介「…それって」「不倫では?」
アインシュタイン「私は世界的な発見をしたのだ」「そんな事など些末な事だろう?」
工介「世界中の女性を敵に回す発言ですね」

 肩を竦め、何がおかしいのかわからないアインシュタイン。それに工介は冷静にツッコむ。

アインシュタイン「だが」「アネリーに送った手紙の内容がミレヴァに見つかってな」
工介「手紙ですか?」

アインシュタイン「アネリーへの愛を綴った手紙がばれて」「ミレヴァの逆鱗に触れた」「その末に離婚の話題まで出された」「これだからヒステリックなブスは嫌いだ」
工介「ミレヴァさんには同情します」

アインシュタイン「だが」「離婚に必要な慰謝料がなかった私は」「次のノーベル賞を取ったら」「その賞金を慰謝料に回すと伝えた」
工介「せっかくの賞金を離婚の慰謝料に使うなんて」

アインシュタイン「そんな私の傷ついた心を」「後の妻となるエルザに癒してもらったのだ」
工介「エルザさん?」「その方は誰ですか?」

アインシュタイン「従姉だ」
工介「…」

 アインシュタインの返答に驚きが勝って工介は顎が外れそうになる。

アインシュタイン「しかも」「エルザにも二人の娘がいてな」「娘の一人のイルゼもいい女でな」「私の心を癒してくれたのだ」

 胸に手を当ててアインシュタインは安らかな表情になる。

工介「…異次元のクズですね」

 聞かされた事実に工介は素直に思った言葉が出た。ふと我に返ると、喉を鳴らして空気を切り替える。

工介「話を戻しましょう」「ノーベル賞を受賞して」「世界に名を刻んたアインシュタインさんにとって」「科学者にとって必要なものとは何ですか?」

 真面目な表情に戻った工介は、最後の締めの質問をする。
 最後くらい綺麗にしえてもらいたいと思う中、アインシュタインは真剣な表情に変わる。

アインシュタイン「科学者にとって」「自身を支えてくれる生涯のパートナーを見つける事」「だな」

 アインシュタインからの最後の質問の返答が返った後、工介はカルテを閉じる。

工介「ありがとうございます」「ご協力感謝します」

アインシュタイン「どうってことない」「話は変わるが」「新しいこの体の研究をしてみたい」「いいだ——」

 話しかけるアインシュタインは興味深く憑依している理乃の体を見る。
 すると工介は席を立って、彼の前に手をかざす。

工介「世界中の女性の敵が!!」「全ての女性に謝罪しながら成仏しろ!!」
アインシュタイン「ギャーーーー!!」

 工介の手から光が溢れ、アインシュタインを飲み込む。溢れる輝きを浴びて悲鳴を上げるアインシュタイン。そして理乃の体の中から離脱して強制成仏されるのだった。

理乃「…っ」
工介「目が覚めましたか」「富士笠さん」
理乃「…毛見河先生」

 目を開いた理乃は工介が目に入ると、はっとする。

理乃「れ、霊は!?」「アインシュタインの霊はどうなったんですか!?」
工介「落ち着いてください」「無事成仏しました」
理乃「そ、そうなんですね」

 除霊できたことを知り、理乃は胸を撫で降ろす。

理乃「あ、ありがとうございます」
工介「いえ、報酬は受け取っているので」「お気にせず」

理乃「報酬って」「そう言えば」「アインシュタインとのインタビューはどうでしたか?」
工介「……」
理乃「レコーダーで録音してたんですよね?」「私も少し興味あるんで」「聞かせてもらっても——」

 少し面白そうにする理乃はレコーダーに視線を向ける。直後、工介はレコーダーとカルテを回収して背中の後ろに隠す。

工介「子供が聞くものじゃありません!」
理乃「な、何を話してたんですか…?」

 焦る工介に、訝しそうな視線を向ける。

 これで理乃に憑りつく霊の一体が成仏されたのだった、


 毛見河工介的:アルベルト・ニュートンの人間性

 全女性の敵の傲慢男

参考文献
講談社+α文庫 著:内田麻理香
面白すぎる天才科学者たち 世界を変えた偉人たちの生き様
https://www.amazon.co.jp/%E9%9D%A2%E7%99%BD%E3%81%99%E3%81%8E%E3%82%8B%E5%A4%A9%E6%89%8D%E7%A7%91%E5%AD%A6%E8%80%85%E3%81%9F%E3%81%A1-%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%82%92%E5%A4%89%E3%81%88%E3%81%9F%E5%81%89%E4%BA%BA%E3%81%9F%E3%81%A1%E3%81%AE%E7%94%9F%E3%81%8D%E6%A7%98-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE-%CE%B1%E6%96%87%E5%BA%AB-%E9%BA%BB%E7%90%86%E9%A6%99/dp/4062816520

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