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【連載小説】恋愛 #6

翌朝、マジカは4時半に起きて、始発の新幹線ひかりに乗った。
今日は静岡のパチンコホールでの実戦番組の収録だ。
この番組は、マジカの一年先輩である浜岡まあまあとの掛け合いの番組で、そういう意味では若干心が軽かった。
しかも、今日はノリ打ちだから、もしかして自分がダメでも浜さんが出してくれれば、負けてもチョット負けで済むかもしれないし、ひょっとしたら勝ちだってあるかもしれない。

そんな事を考えながら、マジカは席に座り、スマホのアラームをセットして、爆睡した。


パチスロ実戦番組を簡単に説明すると…
色んな媒体(チャンネル)が、全国のパチンコホールへ番組提供の営業をかける。
提供が決まったお店に、番組収録に出かける。
その時、出演者であるパチスロライターは自腹でパチスロを実戦する。
演者が高設定の台を見抜き、その台で大勝する。
見ている方々に「あの店は出る」と思ってもらえる。
そして、店の客が増える。


すごくザックリだが、こんな感じで経済循環が行われ、番組が成立している。


なのにだ。
今のマジカは、勝ててない。兎に角勝てない。
という事は、提供するお店のメリットも少なくなる。
勿論、これまでの人気や人柄やお店との相性などもあるので、一概には言えないのだが、うまく立ち回らないと番組が自然消滅してしまう。
You tubeの番組は、何の告知もなく、ある日突然フェードアウトしてしまいがちだ。

マジカは今、それを焦っているのだ。



静岡駅に着くと、ロータリーに迎えの車が来てた。
その車には浜岡が既に乗っていた。
浜岡は昨日は名古屋だったらしく上りの新幹線で来たらしい。

「マジカ、おはよう」
「浜さん、おはようございます」

車はホールへ向かった。

ホールに着くと、チャンネルの運営サイドは店長等への挨拶に忙しかった。
制作陣は、カメラのセッティングやオープニングを撮る場所取りなどをしていた。

マジカと浜岡はその作業を見ていた。
マジカが浜岡に言った。

「浜さん、今日は東京に帰りますか?」
「帰るよ、何で?」
「なら、新幹線、一緒でもいいっすか?」
「だから何よ?何なんだよ?」
「いや、ちょっと、話、聞いてもらいたくって…」
「真面目な話?」
「そうっすね」
「分かったよ、聞くよ。一緒に帰ろう」
「ありがとうございまーす」


オープニングをサッと撮り、さっさと実戦に向かった。


浜岡まあまあは、マジカの一年先輩である事は前述した。
が、彼はそれだけではなかった。

フリーライターになったばかりのマジカに、色んな業界の作法を教えてくれたし、マジカが上手くいかなくて辛い時苦しい時は悩みを聞いてくれた、言わば「アニキ」のような存在だった。

だから、今回も誰にでもなく浜岡に相談しようとマジカは決めていた。


夕方4時きっかりに実戦を終えた。

珍しく二人ともプラスで終わったので、満面の笑みを称えながらのエンディングとなった。
収録が全部終わると、二人はタクシーで静岡駅に向かった。

5時台だが、ひかりは流石に空いていて、余裕で二人席に座った。
浜岡は酒を飲まないし、マジカは夜に別現場で仕事があるため、二人ともコンビニで買ったアイスコーヒーを飲んでいた。

動き出してすぐに、浜岡が切り出した。
「で、話って何だい?ややこし目な事?」

「ああ、まあ」
マジカはそう答えながら、マジカが話しずらいだろうなと察すると、浜岡はいつも先に助け舟を出してくれる。
お陰で話しやすくなると思った。

「で何さあ?あれだぜ、静岡から品川って、時間があるようで、意外にないぜ。早く話しちまえよ」

「えっええ、実は…」

マジカは昨日高松で会った激カワの女の子の事を話した。そして、手紙の事も、携帯番号が書いてあった事も、全部話した。

「で何よ。俺、ノロケ聞かされてるの?マジカがモテてる話、俺が聞いて何になる?」

「いや、そうじゃないっすよ。俺だって、こんなダイレクトなアプローチされたのは今回が初めてなんすから…慌てちゃってて」

「慌ててるの?お前らしいねえ。お前、根が真面目だからな。で、どうしたいんだい?」

「いやそれが、自分でも分かんねえっすよ。どうしたいかが…悩ましいのが、携帯番号なんすよねえ…」

「いいじゃん、かけてみりゃあ。それで全部分かるだろう?」

「いやでも、かけてそれが詐欺とかだったらイヤじゃないっすか…」

「そんなん、やってみないと分かんないだろう?要は、お前が信じられるかどうかっていう問題だよ。その子の事をな」

「信じるって、たった一回、たった一回、ちょっと会ったぐらいですよ。それで判断するのは難しいって言うか…」

「でも、ちょっとだけでもその子と話したんだろう。目、見なかったのかよ?」

「すんません、見てません」

「何でだよ?」

「何でって、俺、そんな事になるなんて思ってなかったし、その子が若くて、ビックリするほど美人だったんで…俺、怯んじゃって」

「ダメだよねえ、ホント、そういう事、お前、ホントダメだねえ…で、女の子から熱を感じなかったのかよ?」

「熱?分かんねえっす…」

「それじゃダメだ。来月まで待ったら…店に来るって、その子言ってたんだろう?そこで会って話しして、判断したらいいよ。もういいかい?昨夜遅くまでホテルで配信やってたから、あんま寝てねえんだ。ちょっと寝かしてくれ」

「OKです。ありがとうございました」

浜岡は寝た。マジカは、今浜岡が言った事を頭の中で反芻した。



要は信じられるかどうかだ


それだけがずっと頭の中でリピート再生されていた。


それに、熱だ。


熱?



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