【連載小説】恋愛 #7
翌日、マジカは珍しく土曜日に休みだった。
前日は静岡から戻った後に、都内で深夜収録があったからだ。
自宅には始発の電車で帰ってきた。
いつもなら、マジカは家で酒を飲んでから寝て、夕方に起きる。しかし、今日は酒も飲まずに寝て、昼前には起きていた。そして、今はちょうど12時になろうとしていた。
腹が減った。しかし、それよりも大事な事があり、空腹を満たす行動がなかなかとれずにいた。
信じられるかどうか?
そして、
熱を感じたかどうか?
昨日、浜岡と別れてからもマジカはその事ばかりを考えていた。
深夜にパチスロ新台を打ちながらも、ボーっとしていいタイミングでは、やっぱりその事を考えた。
正直、信じられるかどうかは、やっぱり分からなかった。というか、信じるに足るエビデンスがなさ過ぎた。
結局、あの子が可愛かったため、信じたい気持ちでいっぱいになるというのが精一杯だった。
しかし、熱は違う。確かにあの時、マジカはアミと話をした。手を前に出せば、触れ合えるような距離で話をした。
アミは訛りがあった。それをも可愛いと思えるようだった事をマジカは思い出していた。
アミは訛りながらも一生懸命にマジカに話しかけてきた。
あれを熱と言わずして、何を熱と言うのか?
イヤイヤ、そんなのに惑わされて失敗する男は山ほどいるだろう。お前もその仲間に入りたいと言うのか?
いや、そんな風に穿った見方をするべきではないんじゃないか?あの子は「マジカがやるぞ!マジか?」を9年分全部見たと言ってたではないか。そんなに熱心に応援してくれる子が他にどこにいる?
確かに…でもな、それだって、本当かどうかは分からない。お前を陥れるために周到に準備してきたかもしれないんだぜ。
そこまでして、俺を陥れて何になるって言うんだ?俺は金持ちじゃないし、誰でも知ってると言うほどの有名人でもない。その俺をそこまでして、陥れたいかね?
分からん。分からんが、一応警戒するのが得策ではないか?
まあ確かに…分からないものを分からないままで、勝手に動くのは良くない。
ええーい!しゃらくせええ!
俺はあの子を信じられるのか?
ああ、信じられる。
あの子に熱を感じたか?
必死で話してくる姿に熱を感じたさ。
じゃあ何で話しかけない?折角向こうから話してくれって、番号までもらってるのに。
全く男らしくないヤツだ!最低だよお前は!
何を?これでも俺は九州男児だぞ!男らしくないなんて事はない!断じて!絶対!
マジカは、アミがくれた番号にショートメールを送った。
マジカです。昨日はありがとうございました。
とだけ。
中々間抜けな文章だが、それ以上の言葉が見つからなかった。
最後に送信ボタンを押す時には相当な勇気が必要だったが、後悔するのがイヤで勢いで押した。
押した後で、送ってしまった後悔もある事に気づいたが、それは時遅しだし、大体それを言い出すとまたも堂々巡りになってしまうので、考えないようにした。
そして、二週間ぶりに部屋を掃除し、窓ガラスを磨いた。そして、半年ぶりに布団を干した。
返信はなかった。
台所のシンクをピカピカにし、トイレ掃除をしたが、まだ返信がない。
風呂掃除をして、浴槽もピカピカにした。まだスマホは鳴らないので、玄関も掃除した。
それでもまだ返信がない。
マジカは干した布団をしまい、夕食をとるために外出した。
いつ鳴っても良いように、スマホは手に持ったままで。
駅前の居酒屋チェーンでビールを飲み、飯を食べた。TVではジャイアンツ戦が流れてた。
マジカは自分のスマホで西武戦を見たかったのだが、充電切れになるのが怖くてやめた。
スマホは鳴らなかった。
マジカはだんだん本当に騙されてるんじゃなかろうかと心配し始めていた。
それを忘れるために、ビールを大ジョッキで3杯も飲むと、流石に酔っぱらってしまった。
それでもスマホは鳴らない。
仕方なく、マジカは店を出た。
部屋に帰ると、予想以上にキレイになっているので少々ビックリした。
シャワーを浴びた。
その最中にスマホが鳴った!
マジカは慌てて浴室から出て、脱衣所に置いてあったスマホを見た。
返信があった。
アミです。返信が遅くなってごめんなさい。
今日は午後からずっとバイトだったので、スマホを見れませんでした。
今日は遅いのでもう寝ます。
明日、話しましょうね。おやすみ♡
確かにアミからの返信だ!
すぐに返したいところだが、もう寝ると言ってる。
ここはガマンガマン、ガマンのしどころだ。
マジカは今までの杞憂がいっぺんに吹き飛んだ気がした。
そして、焼酎の水割りを作り、独り祝勝会を始めた。
そして、意識がなくなるまで飲んだ。
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