4-1 統合推進者の条件
統合推進者の重要性
M&Aとは異なるビジネスや文化を持つもの同士が統合していくことであるが、その統合の難易度は、子会社化による分散型統治なのか合併による完全一体化なのかなど、統合するレベル、統合する規模、またビジネスモデルや文化の違いなどによって大きく影響を受ける。ビジネス活動を継続させながらの統合であるため、極めて動的な作業であり、不測の事態等、常に新たな状況に直面するので、青写真を描いてその通りに実行すれば統合できる類のものではない。そこで統合を推進するために適宜判断行動していく統合推進者の存在が必要になるが、その人物の力量如何によって統合の成否は大きく分かれる。そして、ビジネスに対するマイナス影響は、統合の複雑度と推進者の力量のマトリクスによって左右される。
推進者の力量が高く、統合難易度が低い場合は、良好に物事は進む。シナジー効果を得るのは簡単である。推進者の力量が高く、統合難易度が高い場合は、物事は簡単に進まないが、粘り強く進めていけば、成功の確率は徐々に高まる。一方で推進者の力量が低く、統合難易度が低い場合は、ある程度放置の状態でも一定のビジネスは進んでいくが、M&Aの効果が狙った通りに発揮されるまでの時間はある程度かかるであろう。最後に推進者の力量が低く、統合難易度が高い場合は、M&Aにおける果実を得られないばかりか、互いに悪影響を及ぼす可能性もあるのでM&A前よりも悪くなる場合も考えられる。上記図のレーティングは、〇と△で差をつけているが、これはPMIが動的な活動であるため、長期レンジで見たときは統合難易度の問題より、その活動を推進している推進者の影響が大きいことを表している。いずれにせよ、統合を推進する者(一般的にはチェンジエージェントと呼ばれているが)の存在の有無はPMIに大きく影響を与えるものである。
鍛えるべき「眼」「心」「手」「脚」
それでは統合推進者にはどのような力量が求められるのであろうか。 弊社は、統合推進者の機能を人間の体に例えて人体図モデルで表現している。 具体的には、眼と心と手と脚の四つに機能を分類している。そしてそれぞれが左側と右側にさらに分類される。具体的には以下のとおりである。まず、左側と右側で大きく、組織統合サイドと事業推進サイドに分けている。組織統合においては論理よりも感情的や直感的側面が重要である、これはその人物と対峙した時に、向かって左側(推進者にとっては右側)の脳、つまり右脳の力が求められる。一方で事業推進においては、感情よりも論理性が求められ逆に左脳の力が求められることを意味している。それぞれに沿って機能を説明していく。
まずは組織統合サイドである。組織統合サイドの眼は「人を見る眼」である。買収先の社員の本音やモチベーション。人物レベルを表面的ではなく深層レベルで正しく見抜くための眼である。次に心は「信頼する心」である。未来のあるべき姿に向けて、ともに目標を追いかける同志として、 相手を信頼しまた信頼を得るための真摯な心である 次に「言葉を扱う手である」相手に不信感を抱かせるのではなく、幹部や社員の心に届き行動を促すために必要な言葉を選び操作する手である。最後に「現場に向かう脚」である。社員が実際にどのような思いで労働価値を感じているのか実態を五感で把握するために現場に赴く脚である。
事業推進サイドに入る。 事業推進サイドの眼は「事業を見る眼」である 買収先の事業において重要なキー指標を見抜く力や、競争優位性を生み出しているコアスキルを見抜くための力である。次に「徹底する心で」ある。様々な抵抗にあったとしても、組織にとって大切と思うことは怯むことなく主張し実行を推進する心である。次は「数字を扱う手」である。売上や利益を上げるための重要な数字情報を正しく把握することや、その変数を理解し操作するための手である。最後に「顧客に向かう脚」である。顧客が実際にどのような思いでサービス価値を感じているのか、実態を五感で把握するために顧客におもむく脚である。
統合推進者の希少性
一般的にビジネスパーソンは、事業推進サイドが強い人間と組織統合サイドが強い人間に分かれる。両方とも兼ね備えている人物は珍しい。M&Aを推進しているファンド系の人材などは、この事業推進サイドの力が大変強い一方で、組織統合においてはそこまで得意ではないという人も多い。また、事業会社において多くの人をマネジメントしている人の中には、組織統合サイドは強いが新たな事業モデル創出推進していく力に課題を感じている人も多い。また、この人体図モデルで表現すれば、上半身が強い人と、下半身が強い人にも二分される。上半身が強い人は沈思黙考型で様々なことを熟慮しながら本質をつかんでいく力は持ち合わせているが、いざというときに社員や顧客に前に立ち自らピンチを切り抜けることは得意ではないいわゆる文官型の人である。一方で下半身が強い人は、様々な状況に脚を運び自ら話しかけ多くの共感を得られるができるが、大局観を持ち強い信念をもって物事を推進していることが得意ではいいわゆる武官型の人である。
統合推進者の希少性が高いのは、上下と左右の両方を兼ね備えた人物があまり多くないからである。逆に言えば、PMIにおける統合推進者としての経験を積めれば、それは経営者にとって必要なスキルと直結するのである。私はPMIにおける統合推進者への任命は最大の経営者育成施策であると考える。
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