4-3 統合推進者に求められる「心」
統合推進者に求められるスキルとしては「心」が大切である。ここでいう心とはビジネスにおいてリーダーとして求められる心構えである。ビジネスは幾多の課題を、数多の人と協働しながら解決していく活動である。その時にリーダーが果たすべき役割の重要性は古今東西様々な書物で語られている。今回は特にPMIにおいてリーダーが注意すべき心構えを「徹する心」と「信じる心」の2つに分けてお伝えしたい。
徹する「心」
まずは「徹する心」である。PMI活動においては矢継ぎ早に様々な意思決定が求められる。人事制度の統合をどのように進めるか、クライアントの契約約款の更新、システム統合の規模とタイミング、新たなポジションへの人材の登用などセンシティブかつ影響が大きい意思決定を、一定の判断軸をもって調整もしくは実施していかなければならない。その際には買収サイドと売却サイドにおいて判断基準がすり合わないことも多い。例えば売却サイドから提出される売上利益計画と、買収サイドから要望される売上利益計画において乖離がある場合は、統合を推進するリーダーにおいては、どの水準で調整するにせよどちらのサイドにも説明責任を求められる。売却サイドには「親会社の要望です」と伝え、買収サイドには「ここまでしか売上を上げられないと言っています」とだけ伝えるだけの単なる伝書鳩の役割しか果たせないのであれば、ますます混乱や不満が膨らむ。誰に対しても一貫性ある回答をするためには、あるべき姿を実現するために今どこに負荷をかけるべきかを明確にし、ブレることなく自分の意見を主張していかなければならない。当然、嫌われたり疎まれたりすることもあるであろうが、自分の意思を徹する力が求められる。
事業や組織の新たな変化には、抵抗勢力とまでは言わないまでも抵抗心理が働くのが普通である。例えば、「この時期までに会計プロセスの基準を変更してほしい」という要求をしたとしても、これまでのやり方を変えることに面倒くささを覚えて、いったん受け入れたと見せかけて、変更実施を先延ばしに、結局うやむやにさせるなどの面従腹背もあり得る。それにより統合が進まない事態に陥っては誰の得にもならない。統合推進者は、明確なゴールと目標を設定し、その進捗に対して細かくモニタリングし、できていない場合はその理由と原因を突き止め、解決策を導き出しその実施を要望することを繰り返さなければならない。それも、これまで一蓮托生でやってきた相手ではなく、突貫で作られた組織内での人間関係に対してである。ここで、関係性に遠慮して目標設定や期日をうやむやにしたり、理由と問い詰めずに同じ指示を繰り返していては統合推進者失格である。言葉の厳しさは要らないが、要求の厳しさは必要である。配慮は当然に必要であるが、遠慮はいらないのである。
信じる「心」
社会人としてこれまで異なる環境で育ってきたのであるから価値観や求められるスキルレベルが異なるのは当たり前の話である。そもそも自分と他人は違う存在であるが、その中で至らない部分や違う部分に目を向け続けていては信頼関係の醸成など生まれない。ただでさえ統合推進者は売却サイドからは好奇の眼で見られて、お手並み拝見とばかりにその発言や一挙手一投足を評価される存在である。その時に、「私と君たちは違う」という態度で接していては、メンバーの心が離れていくのも当然である。最後は、自分たちの活動に影響が及ぼされないようにうまく忖度されながら役割任期が終わるまで穏便に接せられるようになるのが関の山だろう。今の組織を形作っている歴史をリスペクトし、今いるメンバーがジョインしてくれたこと、そして働いてくれていることに感謝する心を本音レベルで持つことが信頼関係構築の一丁目一番地であり、統合推進をスムーズに果たすための必要条件である。
最後に
この「徹する心」と「信じる心」は一見矛盾するようであるが、共通するのは「共に」あるべき姿を作っていこうという姿勢を示すことであり、働いてくれている人に対する責任を果たすことであり、組織内で交わされるすべての対話に一貫性を持つことである。PMIというのは突発的に発生した組織が、これまでとは異なる仕組みを、短期間で構築するプロセスであるからこそ、統合推進者の心構えが大変重要になってくると思う。
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