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人付き合いについて

 ちょうど1週間前、1か月間の海外旅行から帰ってきた。もともと海外旅行が好きだったが、前職の制限や新型コロナウイルスでプライベートでは4年以上ご無沙汰であった。転職先が決まったのは1月末だった。入社までの間、少なくとも1か月ほどは旅がしたいと思い、ダメ元で入社時期の後ろ倒しを転職先に掛け合ってみたところ快諾を得た。

 私は一人旅が好きだ。一人で動くのだから予定を固める必要がなければ、同行者と自分の希望を調整する必要もない。だがなんと言っても一番の魅力は、旅先での人との出会いだ。一人旅が好きと言っても、常に一人でいることが好きなわけではない。私はむしろ話好きだ。旅先や移動先で現地の人やほかの旅行者との会話を楽しむ。「どうして旅をしているのか」「どこがよかったか」など旅行の話から、出身国の政治や私生活の悩みなど込み入ったことまで話が及ぶ場合もある。どのようなバックグラウンドの人が何を考えてどう生きているのか直接対話することによって知る。私にとってはこれが旅行の醍醐味である。

 今回の旅行も多くの出会いに恵まれた。その中でも特に馬が合うと感じたのが、ワルシャワのゲストハウスで出会ったベルギーのAure。ゲストハウスのフリースペースでコンビニで買ったパスタをほおばっていたとき、金髪の彼が話しかけてきた。“Have a nice meal”。出身地を尋ねあうと会話が始まった。

 彼はライター業で生計を立てつつ、旅をしている。ベルギーの田舎出身である彼は広い世界に出ることを常に夢見ていた。ベルギーの大学を出て、数年前から欧州を中心に世界の各都市を転々としている。ワルシャワに半年ほど住んでいたという彼は、ヴィスワ川河川敷でビールを飲もうと誘った。

 自分の好きな仕事をしながら旅をする。そんな自由な生き方に彼は満足していた。その一方で定住地がないために孤独を感じることも多いという。「この生き方を続けている限り、家に帰れば大切な家族や友人がいるという安心感は得られない。その意味で俺は孤独だ」。

 帰国して落ち着いたころ、ふとAureのブログを開いた。「旅行ライターの人生における3つの後悔」というシンプルなタイトルが目に留まった。彼が挙げている2つ目の後悔は「交友・恋愛関係を無駄にしたこと」。彼は自分の他者への態度を「曇っていた」と表現し、いくつもの交友関係を無駄にしてしまったと悔いている。また、学生のうちは新たな友人を見つけることに苦労しないが、年を重ねるにつれて人々は自分の生活や人間関係に落ち着き、新たな出会いに心を開かないという。そしてついには自分の過去の人間関係を振り返り、自分の行動を後悔するとしている。

 人間関係についての後悔は誰しもあるだろう。私も例外ではない。地元の小学校から中学受験を経て私立に進学したため、小学校時代の友人とのかかわりはない。中学で新しい友達がいるから、と彼らとの関係を維持しようと努力しなかった。中高で笑いの趣味があった友人は、私の不注意が原因で卒業時から私と口をきいてくれなくなった。こんな例、挙げるときりがない。
 
 自分の過去の人付き合いを後悔しているわけでもない。自分が人に対して特別誤った態度をとったわけでもないし(一部そういうこともあった)、自分が人から離れたこと、自分から人が離れていったことは自然なことだったと思う。

 その一方、4年勤めた前職での人間関係は割と良好だったように思う。同年代の職員が少なく、大人たちとのかかわり方に困難を覚える部分もあったが、素晴らしい人間性の持ち主が多く、多くの時間を快適に勤務することができた。退職の際には私の進路を応援してくれる声も多く、餞別もいただいた。彼らとは今後もお付き合いさせていただきたいと思う。

 前職の人たちと良好な関係を築くことができたのは、自分が人との関わりの大切さを次第に認識するようになったからかもしれない。新卒の就活時に40歳年齢が離れた某総合商社のOBを訪ねたことがあった。OB訪問を終えた私は、普段なら徹底していたはずのお礼メールを送ることを失念していた。すると、先方からお礼のメールをするのが社会人のマナーですよ、というご指導のメールが送られてきた。その際のメールに書いてあった「この年になると、小生は周りの人々のおかげで生かされていることをよく理解するようになりました」という文言を今でもよく覚えている。その時、なんとなく、自分と関わってくれる人々に対して誠意を尽くす必要を認識した気がする。

 大学時代の友人の一人が、当時こんなことを言っていた。「コミュニティなんて探せばいくらでも見つかるよ」。頭の切れる彼の言葉に、私はそうだよな、とうなづくことしかできなかったが、今の私はその言葉を受け容れないだろう。今の私の人間関係に対する態度は「あらゆる出会いは偶然ではない」という表現に近いだろう。

 私は年齢を重ねても人との関係を築くことに躊躇したくはない。一方でAureの言葉は自覚しつつ、今、自分の周りにいてくれる人たちを大切にしたい。

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