風詩

「かざうた」と読みます/23歳男性/趣味で物を書いています

風詩

「かざうた」と読みます/23歳男性/趣味で物を書いています

最近の記事

『淑子さん』

 2021年3月。僕が大学に入学する直前の春休み。暇を持て余していた僕と、同じ家に住む祖母が、台所で居合わせた。和室のベッドから起き上がり、洗い物をするために台所まで来た祖母が、僕に声をかけた。 「おばあちゃんの頼み事を一つだけ聞いてくれへん?」 頼み事の内容は、毎年祖母が参加している親戚の集まりに、孫である僕にも参加してほしいとのことだった。毎年春になると、長野県にある祖母の妹夫妻が持つ別荘に、祖母の親戚が集まる。祖母の親戚しか集まらないので、当然その場に集まるのはお年

    • 『短歌集 同性愛』

      彼女との惚気話を聞かす君 僕は君より彼女を妬む 「彼女いる?」心の中で「いらない」と答え 叶わぬ恋を悟った 本心が行方不明のかくれんぼ 呆れた僕が言う「もういいよ」 誰にでも優しい言葉を投げかける人に限って 「好き」に臆病 君の部屋 消えたテレビに影2つ 「カップルみたい」とボケるか迷う

      • 『コンプレックス』

         人間は、自分のことを語らずにはいられない生き物。自身の感情や過去の経験、不幸自慢やコンプレックス。それらの一つ一つが、たとえ壮絶でなくても、誰かに知ってほしい。感動的に伝える才能はないけれど、誰かに伝えたい。自分自身の内面を語らずにはいられないのは、それが抗いようのない人間の本能だからだと思う。  僕の人生の9割は、良くも悪くも兄に影響されている。両親よりも、兄が絶対的な存在で、それは今も昔も変わらない。話し方や価値観、趣味や服のセンス。兄が好きなものが好きだったし、兄が

        • 『夢七夜』

          第一夜 こんな夢をみた。親友の夢。親友は、よく空を仰ぐ人だった。この空に彼が何を見ているのか、私にはわからなかった。 「何もないんだ。この空にも、この地上にも」 彼は微笑んで、そう答えた。彼の訃報が届いたのは、その翌日。私はおぼつかない足取りで街を歩き、空を仰いだ。 第二夜 こんな夢をみた。僕が彼に告白をする夢。この一本を吸い終われば、僕は彼に告白をする。ゆらゆらと頼りない煙が、薄暗い闇の中へ吸い込まれていく。煙草が短くなるにつれ、手の震えが大きくなる。いつのまにか、灰が指

        『淑子さん』