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ネットニュースが終わらせたライブ

 少し前のことだが、オードリーのオールナイトニッポンin東京ドームのイベントに、星野源さんが出演し話題になったことがあった。ファンなら皆知るところだが、その経緯を簡単にまとめると以下のようになる。
 
 若林さんと星野さんには元々つながりがあった上に、星野さんがイベントの主題歌を手掛けることになり、ファンの間では「星野源のイベント出演があるかも」と期待されていた。しかし星野さんは自身のラジオで、スケジュールの関係で出演が叶わないことを事前に明かしていた。にもかかわらずのサプライズ出演。会場は沸きに沸いた。後日、星野さんはラジオで最終的な出演に至る経緯まで、楽しく語ってくれた。

 僕は、その瞬間をライブビューイングで体験した。星野源登場の瞬間、ライブビューイング会場用に収録された映像が流れた時には誰一人春日さんと一緒にトゥースをしなかった映画館のリトルトゥース達から、大歓声が巻き起こる。歓声の意味は皆同じだ。皆が同じ驚きと感動と興奮を共有している。これぞライブの醍醐味。ファンにしか味わえない喜び。オードリーのラジオを愛する人見知りで「こっち側」の人々が、お互いを気にして目も合わせずにつながる奇妙で暖かな感覚。ライブだけど「ラジオ」だと感じる。そんな感動。

 僕は余韻に浸りながら意気揚々と自宅に帰った。自宅では妻が待っている。妻は、ファンというわけではないが、オードリーや星野源に興味がなくはない、というくらいの人間だ。僕がオードリーのラジオの話をすると笑ってくれるし、結婚式には星野さんの曲も挿入させてもらった。妻も驚くだろう。そして詳しく話を聞きたがるだろう。僕の東京ドームライブは、まだ終わらない。

「いやあ、よかったわ」
 僕はリビングのドアを開けながら、感情たっぷりに言った。いきなりあれこれと喋り出すことはない。妻の反応を見ながら、最高のタイミングで鮮やかにパンチを放とう。オードリーの二人のトークのように振りもちゃんと効かせなくては。そんなことをにやにやしながら考える。しかしその時、妻から信じられない一発が飛んできた。

「星野源も出たんでしょー。すごいねー」

 ん。なんで?
僕は言葉を失い、覚まされた頭は妙な冷静さを取り戻す。
やがて、もらった一撃の正体に思い当たる。
 待てよ。これは、あいつか。あいつの仕業じゃないか。
妻の傍らにはスマートフォン。確信に至る。
 やはり奴だ。奴がやったんだ。

「うわあ。もしかしてもうなってんの? ネットニュース」
 
 こうして、僕の東京ドームライブは終わった。

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