祖母とサイダー
炭酸飲料と聞くと、サイダーを思い浮かべる。
250mlの、あの細い缶の、三ツ矢サイダーだ。
そして、祖母を思い出す。
子どもの頃、サイダーはおろか、清涼飲料水自体、あまり飲ませてもらえなかった。母が、糖分の取りすぎを心配したためである。
しかし、僕は、家にサイダーがあることを知っていた。
小さな物置のような離れに古い冷蔵庫があり、その中には常に何本か三ツ矢サイダーの缶が入っていたのだ。
そのサイダーは、祖母が買ったものだった。
「離れから、サイダーとってこいよ」
夏になると、夜、祖母はよく僕にサイダー調達を命じた。
僕は、母に見つからないように網戸のサッシを開け、くつのかかとを踏みながら、暗闇の庭を横切る。
缶を祖母に渡すと、祖母は、音を立ててプルタブを引き、うまそうに、ぐびりと、ひと口だけサイダーを飲む。
そして、缶を僕に渡す。
「あと、やるよ」
最初は驚いたが、祖母に言わせれば、
「ちびっとでいいんだよなあ」
ということらしい。
「ばあちゃん、サイダーとってくる?」
それを知ってからというもの、僕は、進んで離れにサイダーを調達しにいくようになった。
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