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【創作童話】コバンザメのようじんぼう

「うまい、うまい。」

ペータは しょくじを していました。
おおきな サメの おなかに くっつきながら。

あたまの うえが きゅうばんに なっていて、
ぴったりと はなれません。

サメが さかなを おいかけて、たべます。

すると、サメの くちもとから たべかすが、
ゆらゆらと こぼれてきます。

ペータは、それを ぱくり。

つぎつぎ、おちてきます。ぱくり、ぱくり。

「くった、くった。」

まんぞくして、サメから はなれました。

ペータは コバンザメなのです。

コバンザメというのは、サメの ような かたちの 
からだを しています。でも、サメより ずっと ちいさいです。

このように、ごちそうの おこぼれを ちょうだいします。
だから、えものを さがしたり おいかけたりは しません。

 ら くをして、ちゃっかりと しょくじに ありつくという わけです。


ペータは いわばに むかいました。ふねが おとした コンテナが
あって、しょくごに そのなかで ひるねを するのです。

でも、コンテナが ぐらりと ゆれました。
いわの うえで すわりが わるくなって いるようです。

ペータは、あたまの きゅうばんを コンテナに くっつけて
ひっぱりました。

でも、コンテナは びくともせず……したの ほうへ ごろんごろん。

ペータは、およいで おりました。

「あーあ。ねどこが……。」

そのときです。こえが しました。

「す、すごすぎる……!」

みると、とても ちいさな さかなの すがた。
オレンジいろで、しろい しまもようの……クマノミです。

「これを うえから おとしたんですか? ちからもちですねえ……。」

かんちがいを しているようです。

でも、ペータは、むねを はって、

「まあな。これくらい、あさめしまえだ。」

と いばりました。

「そうですかあ。さすがは、サメですね。
みちゆく さかなにききました。この いわばに サメが いると。」

(サメは サメでも、おれは コバンザメだ。クマノミは、せけんしらず だからな。いつも イソギンチャクの なかにいて。)

クマノミは あたまを さげました。

「わたくし、クマノミの ティムと いいます。
となりの うみから きました。」

「ペータだ。この うみの ボスだ。」

「ぜひ、ペータさまに たのみたいことが。」

「なんだ?」

「わたしたちの うみを おそう ばけものを
たいじして もらえないでしょうか?」

「ばけもの……?」

「はい。それはそれは おおきくて、
さかなを どんどん のみこんで しまうのです。」

「ふーん……。」

「わたしたちは、イソギンチャクに かくれていますが。
つぎは、もう あぶないかと。」

ティムは こごえで はなしつづけます。

「たたかっても かないません。
つよい おかたの ちからを かりるしか……。」

ペータは、すこし かんがえて、にやりと えみを うかべました。

「わかった。ようじんぼうに なってやる。」

「ほ、ほんとう ですかっ?」

「ただ、ひとつだけ じょうけんが ある。」

「なんでしょう?」

「まあ、それは あとで いう。
とりあえず、おまえの すむ うみに あんないしな。」

「はいっ! わかりました。」

ペータは ティムの あとに ついて およいで いきました。


しばらく すすむと、さかなが だんだん すくなく なって きました。

「このへんは、さびしい ところだな。」

「いえ、ほんとうは たくさん さかながいたんです。
でも、みんな、ばけものに たべられたり、にげていったりで……。」

「ふーん……。」

「ほら。あそこが わたしの すみかです。」

いわばに たくさんの イソギンチャクが はえているのが みえます。

「おーい、みなさん! サメを、せんしを つれてきましたーっ!」

ティムが さけぶと、イソギンチャクから
クマノミたちが ぞろぞろ でてきました。

「ティム、おかえりーっ!」
「よくやった!」
「けがは ない?」

みんな、ティムに こえを かけました。

「で、サメは どこだ?」

いっぴきの クマノミが ききました。

「めの まえに いるじゃないですか。」

ティムが こたえました。

「え? おもってたよりも、ちいさい……。」

「こうみえても、この ペータさまは、
となりの うみの ボスなのです。」

クマノミたちは めを まるくして、
「へえー。」と こえを あげました。

「ほんとうの つよさとは、からだの おおきさで
きまるものじゃない。」

ペータは えらそうに いいました。

みんな、かがやいた めで うなずきます。

「ばけものは いつくるか わかりません。」

「わかった。じゃあ、はやいうちに さっきいった 
じょうけんを かなえてもらう。ごちそうを よういしてくれ。」

「なるほど。はらが へっては いくさが できぬ、
という わけですね。」

「うむ。ちからを つけないとな。」

ティムたちは うなずきあい、ちりぢりに およいで いきました。

ペータは さんごの かげで ねて まつことに しました。


しばらく、うとうとして いると、ティムの こえが しました。

「ペータさま。ペータさま。」

 ペータは めを さましました。

めの まえには、なんと てんこもりの エビが。

「おおっ。うまそうだ!」

「みんなで、てわけして、とってきました。
どうぞ、めしあがって ください。」

「ははっ、いただくぜ!」

ペータは、パクパク たべはじめました。

「ちからが わいてきましたか?」

ティムが ききました。

「ああ。これなら ばけものを たおせる。」

「そうですかあ。きたいしています! ありがとうございます。」

ティムは、あたまを さげました。

ほかの クマノミたちも、

「いやあ、たすかります。」
「かんしゃ、かんしゃ。」
 と、ことばを かけてきました。

ペータは、ほほえんで、こたえました。

「ふう~。くった、くった。」

もう、おなかは パンパンです。

「よし、ウォーミングアップでも するか。
ティム、ひとまわり およいでくるぞ。」

「はい、わかりました。」

ペータは およぎはじめ、かいそうの はやしの
うらへと まわりました。

そのまま そーっと、かくれながら はなれて いきます。

(ふん、まんまと ひっかかった。)

そうです。ペータは、はじめから ばけものと たたかうつもりなど
なかったのです。

ちゃっかり、らくをして、ごちそうに ありつきたかっただけ。

(おそらく、ばけものってのは、クジラだ。
サメだって かなわないだろうさ。)

ペータは、ゆうゆうと およいでいきます。

でも……。

むねの あたりが、もやもや します。

(なんだ、このかんじは……?)

もやもやは、おおきく なってきます。

おもわず、たちどまりました。

(……あいつら、だいじょうぶかな。)

ティムたちが あたまに うかびます。

(カモにしか おもってなかったのに。なんで、こんな きもちに……?)

ペータは、あれこれ かんがえました。

そして、ふと きが つきました。

(ありがとうって、はじめて いわれたな。)

ずうずうしく いきてきた じんせい。じゃまもの あつかいは
されても、かんしゃされた ことなど、なかったのです。

(……このままだと なんだか きぶんが わるい。
たすけに いくか? いや、もどった ところで かてるわけない。)

でも、ペータは もう ティムたちの もとへ およいでいました。

すすみながら、さくせんを かんがえます。

(クジラは あたまの てっぺんに はなのあなが ある。
くっついて ふさいで、いきを とめてやる。それなら、もしかすれば。)

そのとき、とおくの ほうから、
「にげろーっ!」
「きゃーっ! たすけてーっ!」
と さけびごえが きこえました。

クマノミたちが、にげまどっています。

「ティム! みんな!」

さけぶと、ティムが ふりかえりました。

「ペータさま! そこに いたんですね。」

「だいじょうぶかっ!」

「で、でで、でました!」

ティムが むなびれで さすほうを ペータは みあげました。

とてつもなく おおきな どうたい。

ギラリと ひかる ぶきみな め。

にゅるりと ながくて おおきな あし。しかも はっぽん。

ペータは ぜんしんが ふるえました。

「だ、だいおうイカだ……!」

「だいおうイカ……?」

ティムが ききかえしました。

「……ああ。うみの ふかくに すむ きょだいな イカだ。
しかも、こんな サイズは めったに いないぞ。」

だいおうイカが うなりごえを あげて せまって きました。

「オォォォォ……!」

クマノミたちが いっせいに にげます。

「わあーっ!」
「た、たすけてーっ!」

ティムが、ペータを ちからづよく みつめました。

「ペータさま! おねがいします!」

「お、おう……。」

だいおうイカの あしが ものすごい いきおいで のびてきました。

「うわっ!」

ペータは なんとか よけました。

つづけて、きょだいな あしが のびてきます。
ペータは よけるので せいいっぱい。

「ひええ……!」

にげながら、なみだが でてきます。

「なんだ、あいつ。」
「ぜんぜん、ダメじゃないか。」

クマノミたちが、まゆを ひそめました。

ティムは、それでも、こえを かけます。

「ペータさま! しっかり!」

(すなおに かえれば よかった……!)

 ペータが、こころで さけんだとき、
ティムに だいおうイカの あしが のびました。

ペータは、ハッとして、

「ティム!」

すばやく つっこんで、ティムを はなさきで おしとばしました。

かわりに、だいおうイカの あしが ペータの からだを つかみました。

「うっ!」

ペータは、こえを あげました。

「ペータさま!」

ペータは ひっしで ちかくの いわばに あたまの きゅうばんを
くっつけました。

だいおうイカが、ペータの からだを ひっぱります。

「ぐぐっ……!」

 ものすごい ちからで、ペータの からだは ひきちぎれん ばかり。

でも、きゅうばんを はなしたら、
まっているのはだいおうイカの おおきな くち。

「オォォォォ……!」

イカが、さらに ちからを こめてきます。

いわばに ひびが はいりました。

ペータは きが とおのいて きました。

(……もう、ダメかも。おれなんて たべても、おいしく ないのにな。)

ひびわれた ところから いわが バコっと はずれました。

いきおいよく いわごと ひっぱられます。

おおきく あいた くちが せまります。

そのときです。ペータは カッと めを みひらいて、
きゅうばんを いわから はなしました。

「ほらよ。これを くえ!」

おおきな いわが だいおうイカの くちに むかっていって……。

ズボリ!

イカは、めを しろくろさせました。

「グ、グフ……!」

くるしそうに からだも くねらせます。

しばらく うなって にげて いきました。

「ペータさま! やりました!」

ティムたちが よってきました。

でも、ペータは、あまりに つかれて、きを うしなって、しまいました。


すうじつが たち……。

ペータは からだも かいふくしました。クマノミたちが みおくります。

「ペータさま。ありがとうございました。」

 ティムが あたまを さげました。

「いいって ことよ。じゃ、たっしゃでな。」

「あのう……。おねがいが あるんです。これからも ずっと 
わたしたちの ようじんぼうに なって もらえないでしょうか?」

「ん? それは、むりだ。」

「そうですか……。」

「うむ。それじゃあな。」

ペータは、そのばを あとに しました。

(じょうだんじゃない! ようじんぼうなんて、もう こりごりだ……。)

でも、うしろのほうから、ティムたちが ついてきました。

「おまえたち。どうした?」

「どうしても、ようじんぼうに なってもらいたくて。」

「え……?」

「ひきうけてもらうまで、くっついて いきます。
ペータさまの ように あきらめず。」

「かんべんしてくれー。」

 ペータは こえをあげて にげました。
                             (おわり)

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