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漫才が無い台湾

◆漫才って何?
 今回は『漫才がない』というのがどういうことかのお話です。「笑いのツボってやっぱ違うの?」と聞かれることがありますが、もちろん『ツボ』の違いもありますがちゃんと理解し把握しないといけない違いは『文化』であり『常識』なんです。僕らが思っていた『当たり前』や『ベタ』は全部日本の中だけのものでした。

◆本番だよ
 A:「告白の練習がしたい」
 B:「じゃあちょっと練習してみようか」
よくあるベタな漫才の入りだと思います。漫才師がこんなこと言ってたら皆さんなら「あー告白がテーマの漫才するんだなー」とすぐに分かると思います。でも台湾ではそうはいきません。何故なら台湾には『漫才がない』んです。こんな入りをした時にお客さんから言われた事は「いやいやいや練習しなくていいよ!もう本番だから練習じゃなくてちゃんとパフォーマンスやって!」という考えもしなかった指摘でした。そうなんです。漫才師が「練習してみよう」と言って漫才が始まる。この『当たり前』、これこそが『漫才がある』から成立していたんです。

◆出囃子
 舞台に上がる時にかかる曲、それが『出囃子』です。若手のころは売れたらこの曲を自分たちの出囃子にしたいとかそんな夢を持ってたりもする、漫才をやるうえではとても大切な物なんですが、何度も言ってる通り台湾には『漫才はない』んです。MCの人が「次は漫才ボンボンて言う日本人がパフォーマンスをします!」と紹介してくれたらそれで終わり。何の音楽も流れずシーンとした中で舞台に上がらないといけません。めちゃくちゃ気まずいです。
 そこで曲をこっちで準備して流してもらおうと、MCの紹介後舞台に上がる時に流してくださいと音響さんに曲を渡し次のステージへ。MCの紹介の後ちゃんと大きな音量で曲を流してくれて「どーもー!」と気持ちよく舞台に上がりました。その後ネタを始める僕ら。しかしいつまでたってもガンガンと陽気に鳴り続ける音楽。そうです。舞台上がったら『出囃子はフェードアウトする』。これも漫才を知ってるから成立することなんです。

◆マイク
 漫才のいいところは何か。「センターマイク一本あれば出来るところ!」僕はそんなところに憧れて漫才を始めた人間です。でもサンパチマイクと呼ばれるあのマイクを漫才以外で見たこと無いと思います。そうなんです。あれは漫才専用のマイクなんです。つまり『漫才がない』台湾にあるわけがありません。なので大きな会場では基本ヘッドマイクを使うか、設備が整ってない場所だとお互いがマイクを持って漫才をしなければいけません。
 サンパチマイクが無いのはいいとして、やはり漫才をやるときはセンターにマイクが欲しくなります。実はセンターマイクは漫才をやる上で音を拾うだけではない色々な使い方があり、センターマイク無しで漫才やるのは気持ち悪いくらいなんです。
 ある時ヘッドマイクで漫才をやることになり、スタッフさんにスタンドマイクも置いて貰うようお願いしました。そうすると会場の人は「ヘッドマイクで声量は問題ないよ。安心して」と優しく言ってくれましたが、「スイッチはOFFでいいからマイクを置いてほしい」とお願いしました。  
 僕らからしたら当たり前のことだったんですがスタッフさんからしたら「スイッチOFFのマイクを何故置くんだ!?俺らが言ってること伝わってないのか!?」とパニックになってました。『漫才にはセンターマイク』これも『漫才がある』世界だけの常識でした。

 エピソードはまだまだありますが『漫才がない』のクリアしなきゃいけない部分は笑いのツボとかの遥か手前にあったのです。台湾の人に漫才を知っているか聞くときは「漫才って知ってますか?」と聞いてもダメなんです。『漫才』この言葉を聞いても食べ物なのか観光地なのか一体どんなジャンルの物か全く分からないので「漫画ですか?」とか言われて変な感じになります。なので「漫才っていうパフォーマンスを知っていますか?」と聞かないといけません。
 ネタでツッコんでも、「彼は敢えて冗談を言ってるんだからそんなに怒るな」と怒られたり『漫才がない』ということがどういうことかを台湾に来て数か月で知り絶望を覚えました。
 そこから一つずつ考え、漫才の説明をしてからネタを始めたり、あらかじめフェードアウトされるように編集した曲を渡したりするようになりました。マイクは今でも行き当たりばったりですがスタンドマイクがあったらラッキーくらいの気持ちで漫才出来るようになりました。

 未だに場所によって新たな問題は起こりますが、その場所で出来ることを今でも考えて一人でも多くの人に漫才を知ってもらえたらと思っています。
 次回は中国語のツッコミについて紹介したいと思います。


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