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はい、論破。


 都知事選で石丸伸二氏が健闘している。

 ちょっとした危機感を感じている。石丸氏本人にではない。石丸氏を見ている僕たちに対しての危機感だ。もっと言えば、石丸氏を偶像視している人々に対して。石丸氏の立ち振る舞いの上部だけを真似る人が出てこないと良いが…と懸念してしまう。

 数年前にひろゆきがYoutubeで世間を席巻し始めた時もそうだった。ああいった論理的思考を体現している人が注目されだすと、おかしなことが起こり始める。「論理的思考・ロジカルシンキング=カッコ良い」とする風潮ができる。そして「論破する人=強い」という思想が出てくる。そして「うぉお!俺も強くなりてぇ!誰かを論破してぇ…!」という輩が一定数出てくるのである。
 この欲求の矛先は我々サービス業にも向けられる。これ、2019年〜2020年までコールセンターでクレームの質を定量的に分析していた者として声を大にして言いたい。論理性を携えるモデルが出てきたら、理詰めして無理難題を要求してくる顧客が増えるのだ。

 既得権益に群がる輩に対して物怖じせずキレッキレの議論を仕掛けるのは側から見てて痛快である。偉そうなだけで思慮が浅い連中がド正論で論破される様は見てて気持ち良い。しかし論理性に全振りした連中を見たり、サービスの提供者として実際に接したりすると「なんだかなぁ…」と思うのだ。


 では、論理性やロジカルシンキングを駆使して誰かを論破することへのモヤモヤは何だろうか。とどのつまりは「相手の一部分しか見えてないくせに、なに偉そうに全否定してくれちゃってんの?」という疑問であり憤りである。

 例えば喫茶店で働くスタッフの例を出したい。そのスタッフはほとんど全ての顧客に対して愛想の良く接しているが、ある常連客に対しては塩対応をしている。スタッフは女性で常連客は男性である。釣り銭を渡す時も手渡しはしない、注文を伺うときも復唱せずにメモに書くだけ書いて黙って去る。
 これを見かねた上長がスタッフを呼び出し指導を行うが、全く反省する気がない。そこで上長は論破する。

・スタッフは全ての顧客に平等に接さなければならない
・これはスタッフ規約にも記載しているし、あなたは承諾している(サインあり)
・だから即刻改善すべし

 ここまでの話だけ聞くとスタッフが怠惰であると結論が出る。が、実はスタッフは常連客から日常的に嫌がらせを受けていて、それを上長に伝えられなかったとしたらどうだろうか。拒否しているのにしつこく電話番号やLINE交換を求められる。退勤時刻に合わせて出待ちされているなど、珍しい話ではない。要はストーキングだが、まかり間違って上長から顧客本人に伝わってしまったら逆恨みされるかもしれない。だから伝えられない。
 こうなったら↑の論破が頭ごなしの指導に映る。スタッフが怠惰であり是正するよう指導している。つまりはスタッフの人間性を否定しているようにも捉えられる。しかしそれはあくまで一部の事実だけに基づいてのことなのだ。だから論理性のみに特化した話は危険であり乱暴なのだ。

 以上、「論破を良しとする風潮」の盲点と思うものを伝えると…

・「人は考えを全て言語化できる」という大前提があるが、実際はそうではない
・「そもそも言語化できないのが悪い」という風潮もあるが、やむを得ない事情もある

 …と思うのだが、いかがだろうか?

 おそらく石丸氏は論破力を持ち合わせているのだろうが、この「キレッキレの論破力」のみに注目して真似しようとする輩が苦手なのだ。この気持ちを誰かわかってくれないだろうか?


 繰り返すが、論破力を携えたモデルが登場するとフォロワーが増える。コールセンターでは彼らの真似をする顧客が増える。「お前らを論破してワイの要求を通してやる!」という顧客が増え始める。これは時として訪問謝罪や補償の強要などの過剰な要求に繋がる場合もある。

 最後に、そんな顧客に対処する術を記載しておく。しかしこの方法やメンタル論を駆使して揉めても責任は持てない。

顧客①
(休業補償できるかどうか協議させてと言っているのに)
できるのかできないのか、今YesかNoで答えてください。

 どこかで聞いたセリフだがご存知だろうか?意外と多いのだ。こう言う顧客は。
 もちろん運用として制定されていれば協議する必要もない。そこは申し訳ないと伝える。しかし明らかに常軌を逸して粘着された場合は叩いても良いと思っている。

 叩き方は少し難しい。寄り添いつつYesかNoで答えられないような質問をすること。例えば「今答えるよう要望されるのは持ち越したくないからですよね。心苦しいが解答できない。それを伝えているものの、即答を要望されているのはよっぽど事情があると思う。良ければ教えて」的な。これ、ただ単にこちらを言い負かしたいだけの顧客であれば答えられない。
 答えられない場合は濁したり別の話にすり替える顧客もいる。そこは熱意をアピールしつつ話を戻せばいい。「こちらも運用のあり方を真剣に考えている。だから先ほどのことを教えて。即答を求められる強い気持ち。その背景を教えて」と。
 で、あれ?答えらんないんですか?じゃあ、なんで要望したんですか?え、気分だったんですかぁ?だ。

顧客②
なんでそんな回答になるのかな?根拠を教えて?


 根拠って言い方がどうも鼻につくんですよねぇ…お客さん。理由や判断基準をそう言わず「根拠」と表現する理由から先に教えてもらって良いですかねぇ?
 これも色々対処できるが、上述した回りくどい方法を使ってみたい。寄り添いつつYesかNoで答えられない質問をすること。すると顧客の化けの皮が剥がれる。

 おい!お前だれから金もらってる思ってんねん!偉そうやな!!
 ひぃ!すみません。

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