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【書評】二級市民の中の、マイノリティの世界 〜 『ポラリスが降り注ぐ夜』

新宿二丁目=ゲイの街というイメージが、いまだに更新されていなかった自分に気づかされ、はっとした。2024年はまだ始まったばかりであるが、私が今年最も衝撃を受けた一冊になりそうな予感の『ポラリスが降り注ぐ夜』(李琴峰著・ちくま文庫・2020年初版)。物語の舞台は新宿二丁目のバー「ポラリス」。そこは “女性”が安心してありのままの自分をさらけ出せる場所である。戸籍上の性別が男性でも、店長の夏子の言葉を借りるなら<男性としての特権を放棄し、二級市民になることを心から願っているなら>

    • ちょっと意地悪な批評を含む過去の【書評】

      ①植物好きの男子は無害という幻想〜『ボタニカ』 小学校を中退し独学で植物分類学を学んで、生涯に命名・発見した植物は1500種以上、収集した標本は40万点に及ぶ、日本の植物学の父・牧野富太郎。私が小学生の頃に読んだ偉人伝からは、植物を愛し、学歴がなくとも在野で研究に打ち込み、ついに東大の博士になった苦労人、科学者の鏡、少年の心をもつ純粋な人、という印象。でしたが、朝井まかて『ボタニカ』を読み、すっかり悪い方にイメージが変わってしまった。  小説によれば、牧野富太郎は高知にお屋

      • 読み方全く違うと思う過去の【書評】

        ①「とりあえず寝る」の効用〜『ドルジェル伯の舞踏会』  子どもが何かを主張してぐずると「眠いんだね、もう寝よう」。夫がげっそりした顔で職場の愚痴を言い出すと「今日は早く寝た方がいい」。仕事を家に持ち帰った深夜、煮つまってきたら「ちょっと寝るかな」。解決方法が分からない問題の対応として「とりあえず寝る」を選ぶ人は私だけではないはずだ。問題を先送りしているといえばそうだが、意外と次の日には解決していたり、あるいはもっと大事なことに気づいたり、といったことはないだろうか。  アン

        • ジェンダーに関する過去の【書評】

          ①なぜ女は「従」なのか、そこに理由はない 〜『82年生まれ、キム・ジヨン』 小説『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ・筑摩書房)の主人公キム・ジヨンが夫に連れられて精神科医を訪れる。突然他の女性が憑依するようになったのだ。キム・ジヨンが精神を壊した原因は何か?見えてきたのは 面々と受け継がれ社会の隅々にはびこる女性差別。世相を示す統計データを交えながら淡々と物語が進むのは、この小説が精神科医のカルテという体裁だから。客観的な視点で語られていると思いきや、それも結局

        【書評】二級市民の中の、マイノリティの世界 〜 『ポラリスが降り注ぐ夜』