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(掌編)プレッシャー

 ひっきりなしにピンが弾ける音やボールがフロアに落ちる音が響いているのに、やけに静かに感じる。いや、静かというよりは、落ち着くんだ。
 部内の対抗戦。最終の10フレーム。
 緊迫した場面だが、周りに響くボウリング場の喧騒は俺を落ち着かせてくれる。

 俺がここから3つストライクを続けてもトータルで220点。真司は7ピン倒せば221点。あいつが7ピン以下なんてまずありえない。つくづく9フレをオープンにしたのが痛かった。
 
 ボールに付着したオイルのラインを丁寧に拭き取る。両手でしっかりと持ち上げてアドレスに。中指、薬指、親指の順に指を入れてしっかりとホールド。もう何度も行ってきた動作なので、頭の中では別のことを考えていた。
 
 真司とは大学でボウリング部に入ったときからの付き合いで、学部も同じで気が合った。俺の大きく外に出す投球スタイルと違って、真司は板目を真っ直ぐに使う。静かなアプローチから、スッとスイートスポットに吸い込まれるようなライン。対して俺は、インサイドから大きく外に振って豪快にストライクを狙う。静と動。そんな風にも言われてタイプの違う俺たちだが、多分こいつがいたから今の俺がある。
 
 おそらく、これが大学での最後の勝負だ。
 お互いにプロを目指しているので本当の最後では無いだろうが、このまま負けてやるものか。

 立ち位置は20枚目。狙うのはさっきより2枚外だ。ボールを右脇に構えて、ゆっくりと息を吐いて止める。

 まず、一つだ。

 俺は小さく左足を踏み出した。


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