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第251回、二千年後の人類へ


あれだけ騒がれた新型コロナウイルスの脅威もすっかり過ぎ去り、世界は、以前の平和な様相を取り戻していた。
まるであの時の出来事が、何もなかったかのように。

だがその時は、唐突に訪れた。
一部のコロナウイルスが急激な変化を遂げ、それに感染した人間を狂暴化し他の人間に嚙みつく事で、ウイルスを感染させ始めたのだ。

それはまるで、映画で散々描かれつくして来た、ゾンビのようでもあった。
だがゾンビよりも質 (たち) の悪い事に、そのウイルスは、相手を死なせずに人間を狂暴化させるのである。

媒介者の死を待つ必要のないウイルスは、ゾンビより遥に早い速度で感染ししかも感染者が死んでいない事から、感染者を殺す事に迷いが生じるため、瞬く間に世界中に感染を広めていった。

テレビでは、連日のように日々の感染者数が報道され、不要不急の外出制限が行われ、やがて何年かぶりの緊急事態宣言が発令される事となった。

各国で入国制限がかかり、国同士の行き来は禁止され、世界は再びウイルスによって分断される事となったのだ。


緊急事態宣言が再発令されるよりも以前から、自宅待機をしていた青年は、この未曾有(みぞう)の事態を、いつも通りに自宅のテレビで眺めていた。

以前のコロナパンデミックの際も、青年は一度もウイルスに感染する事なく完璧な自宅待機生活で乗り切ったのだ。
今回も備えは十分だった。
彼のライフスタイルでもあるアニメ視聴は、感染増加による供給不足で新作のアニメが放送をされなくなっていたが、HDDに見きれない程たまっていた過去の放送録画分で、十分に対応する事が出来ていた。


彼は今日もいつもと変わらない部屋で、いつも通りの朝を迎え目を覚ます。
いつものようにコーヒーを飲み、いつものようにテレビをつける。
テレビは数日前からどこも放送されなくなり、真っ暗な画面に時々ノイズが走るだけだった。

HDD限界まで録画をされていたアニメも、全て見終えてしまい、彼は新たに見る物はなくなっていた。
HDDに残しておいた深夜のアニメには、主人公が同じ夏の日を何十回も繰り返す話が描かれていたが、この話ももう、何回見た事だろう。
こんな事なら同じ日をループする世界にいる方がまだましだと彼は思った。

彼はHDDの限界まで録画されているアニメを、全削除にした。
普段なら絶対に行えないような暴挙な行為だが、今の彼に躊躇はなかった。
全て見終えてしまったアニメを、これ以上見る気にはならなかったのだ。

彼はアニメの原作を書こうと、オリジナルのシナリオ執筆も試みていたが、それももうやめてしまっていた。
いくらパソコンに書いた所で、それを見てくれる人間はもういないのだ。

彼は冷蔵庫から、いつものように朝食を用意して口にする。
冷蔵庫には、幾つかの飲み物と昨日の晩の食べ残しの食事があるだけだが、彼にはそれで十分だった。
彼はもう、それ以上の生きる気力がなかったのだ。

唐突に激しい轟音が鳴り響き、外を見ると、真っ暗な雲が空を覆っていた。
数百年ぶりに、富士山が噴火を始めたのだ。
だがそれを報道する人間も、火山灰から逃げまどう人達も、この世界には、もうどこにもいなかった。
降り注ぐ火山灰は、ウイルスに感染して、理性を失わせてしまった人達を、街ともどもに埋葬し、さらには隕石まで降って来て、世界を一瞬にして滅亡させてしまった。


二千年後、宇宙コロニーでの冷凍睡眠と生活実験の為に、僅かに生き残っていた人類の末裔は、隕石落下による地球の環境調査の為に、定期的に調査員を地球へと送っていた。
地球はまだ、隕石衝突時に巻き上げられた粉塵で空が覆われていて、人類が生息できる環境には、なってはいなかった。

調査員A「地球はまだ、ダメみたいですね。二千年前の隕石衝突で、世界が滅んでしまってから、随分経ちますけど、人類はいつになったら地球に戻れるようになるんですかね?」

調査員B「一説によると、隕石衝突で世界が滅んだ後、生き残った人間が、食料がなくて共食いを始めたなんて話があるらしい。まあ都市伝説だがな」

調査員C「いや、でも当時の死体からは、人間同士が食べあっている痕跡が確かに残っているらしいです。でもその人数が物凄く多くて、まるで世界中の人達が、隕石衝突後も生き残って、共食いをしていたみたいなんですよ」

調査員D「そんな事ある訳がないだろ。お前は、むりやり都市伝説を見すぎなんだよ。Mr.門の話に影響されすぎだ」

調査員E「でも前回、当時の人間の死体が、奇跡的にいい状態で発見されてその死体から採取された血液で、クローン人間を生成するプロジェクトが、行われているじゃないですか。確かそのクローンが、まもなく完成するん
じゃなかったですっけ?まあクローンなんか生成した所で、当時の人間の
記憶を持っている訳がないんですけどね」

調査員F「俺達がコロニーに戻る頃には、そのクローン人間とやらが、もてはやされているんだろうな。二千年前から蘇ったメッセンジャーとして」

調査員G「一体二千年前の人間は、自分らに何を語って来るんですかね?」

調査員H「さあな。だが二千年ぶりの目覚めで、空腹な余り俺達を食い出さなければいいんだがな」

調査員I「Hさん、それいくら何でも冗談が過ぎますよ。笑えない話ですよ」

コロニーからはノイズ交じりの信号が、地球にいる調査船に送られていたがそれに気づく者はまだ誰もいなかった。その信号は、人類がコロニーに移住をしてしてから、一度も使用をされた事のない物だったが、調査員がそれを緊急事態宣言である事に気づくのは、まだもう少し先の事なのである。

人類が生きられなくなって二千年経つ地球の様子を、AIで頑張って表現してみました。
え? 地球はもう、結構大丈夫なんじゃないかって? どうなんでしょうね。

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