見出し画像

経営センスを磨く早道は「商人道」に戻ること

 センスとスキル、テクニックは異なります。センスとはその人そのもの。余人をもって代えられないものがあります。スキルは、お金と時間をかければ身に着けることができます。転職市場など労働市場から持ってくることもできます。一方テクニックは、即効性のある技術です。お客の心を動かす裏技や盛り付けの芸術性などに例えられます。

 一橋大学ビジネススクール教授の楠木建氏は、「経営者と担当者の違いは、センスとスキルの違い」だと言います。楠木氏は、「スキルは、全体が部分に分かれて初めて出てくるもの。センスは、部分から全体へさかのぼっていく過程で得られるもの」と続けます。

 楠木氏によると、英語ができるのもスキルです。プレゼンテーションのスキルもあります。スキルは分解ベクトルを持っています。例えば、会計のスキルといっても財務会計や管理会計のスキルに分かれますし、財務会計のスキルといっても、オーディットのスキルやフィナンシャルレポーティングのスキルといった具合に分かれます。つまり、スキルは分業の考え方と非常に折り合いがいいものです。

 それに対して、センスは部分から全体への綜合です。分かりやすい例として、楠木氏は、洋服のセンスを取り上げています。センスがあるという場合、靴下が最高だとかネクタイの結び目が最高だといったことではありません。全体を見て、センスの良し悪しが決まるのです。

 「お店が繁盛する」というのはセンスの問題です。スーパーマーケットおけるセンスとは、例えば鮮魚担当者なら、魚の目利きができること、調理ができること、接客力があること、鮮度管理、計数管理ができることなどです。精肉担当者なら、和牛の目利きができること、和牛を一頭買いし、商品化して売り切ることができること。鮮度管理、計数管理ができることなどです。

 お店を繁盛させるために、経営者は、労働市場から即戦力としてスキルのある人を調達しようとします。いくら即戦力としてスキルのある人を投入しても、経営者がお店を繁盛させるセンスを持っていなかったら繁盛することはあり得ません。

 お店を繁盛させるセンスとは、商いを組み立て、商いを回すことです。従業員の闘志を奮い立たせ、嬉々としてお客を驚かし、喜ばすことなのです。

 「店はお客のためにあり、従業員とともに栄え、店主とともに滅びる」これは商業界主幹・倉本長治先生の言葉です。「店はお客のためにある」のだから、お客の心を自分の心と一致させれば、お客が喜ぶことをすれば自分も嬉しい。ならば、お店の儲けを削ってでもお客が喜ぶことを実践しようと思うことです。「従業員とともに栄える」とは、店主と従業員は同士であり、向き合うのではなく寄り添いながら励まし合いながら同じ目標に向かって進もう。「店主とともに滅びる」とは、店主が慢心しいい気になると従業員の心が離れ、お客の心も離れていく。そしてお店の存在は忘れられ、店は滅びるというものです。

 要するに、スキルなどどうでもいいのです。それよりも、店主と心を同期化した「店主の分身」を増やしていくことがセンスなのです。

 「店はお客のためにある」と「フォー・ザ・カストマー」「お客様の立場で」とは全く別物です。「店はお客のためにある」とは、店は店主のものでも株主のものでもないという考えが根幹にあります。私は、店はお客のものであり、従業員のものであると考えます。

 一方で、「フォー・ザ・カスタマー」は、流通革命を起こし、価格主導権をメーカーから小売業が奪おう。とにかく安い商品を我々が手配する、どうだ参ったか。という意味合いがあると私は感じます。「お客様の立場で」とは、売るか売らないかは「お客様の立場で」という金科玉条のもとワシが決める。売れる商品が正しいのではなく、わしの目に適った商品が売れる商品だという驕りが感じられます。

 「フォー・ザ・カストマー」はダイエー創業者・中内功氏のもの、「お客様の立場で」はセブン&アイホールディングス名誉顧問・鈴木敏文氏のものです。センスとは経営者そのものです。余人をもって替えることができないのです。

 センスを身に着けるには、疑似を含めた場数を踏むしかありません。

 2023年9月23日「沈黙の艦隊」が劇場公開されました。原作は、1988年~96年講談社の週刊マンガ誌「モーニング」に連載されたかわぐちかいじの名作コミックです。大沢たかおが主演、プロデュースして実写映画化されました。

 大沢たかお演じる主人公の海江田四郎は天才的な操艦術と原潜の優れた性能、核兵器というカードを武器に、アメリカやロシアなどの海軍を撃破していきます。

 ところで、潜水艦の艦長になるには、どれだけのキャリアプランが必要なのでしょうか。「これが潜水艦だ」(光人社NF文庫)によると、潜水艦艦長になるまでには、水上艦勤務を1、2年やった後、潜水艦教育訓練隊で基礎教育を受け、実際の潜水艦で実習をして、機関士、船務士など下積み勤務の後、水雷長、船務長、機関長、副長兼航海長を経て、潜水艦指揮課程(潜水艦教育訓練隊)を終えたあと補職されるとあります。

 キャリアプランとは、将来像をかなえるために必要なスキルや経験を洗い出し、逆算して計画を立てることです。

 潜水艦艦長になるには、たくさんのスキルや経験が必要です。スキルを積み上げても優秀な潜水艦艦長になるとは限りません。スキルに、思想や人格など綜合されて、海江田四郎そのもの=センスとなるのです。

 「お店が繁盛する」センスに戻ります。「お店が繁盛する」センスを身に着けるには、真言(マントラ)のごとく「店はお客のためにある」を唱えながら、「安く買ったら安く売れ 高く買っても安く売れ 何が何でも安く売れ」を実践し続けることなのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?