3月１０日(仕)

「いらっしゃいませー」

―あの人、だれだ……。

仕事中……。
明らかに、普通の客っぽくないんだが。
スーツ着てる人は居るにはいるが……。
バインダー持ってくる人間は、あまり見たことない。
というか、初めて見たんだが……。
何をしていらっさる……。
「……」
なんか、挙動がおかしいよな。
商品見てるわけでもない。
くせに、きょろきょろしている。
同じところ回っているようにも見えるし。
後ろに手を回して、歩いているあたりがもう。
あやしさ満載。
バインダーが赤いので、ものすごく目だつ。
「いらっしゃいませー」
おっと。
仕事に集中しよう。
ものすごく、気にはなるが。
―うぇ、この人もの多いよぉ。
「ありがとうございましたー」
ぇ。
まだいるあの人。
なんかカメラ持っている……こわ。
と、おもったら、インカムが鳴った。
『本部の人がきてるので――』
はぁん。
なるほど。
あの人それか。
こんな田舎の店にまで顔を出さないと、いけないなんて大変だな。
あの人の会社がどこにあるのかは知らないが。
「……」
おお。
インカム入った瞬間、店の中がうるさくなった。
いつも、こんな騒がしくないのに。
ははぁ。
いいとこみせようって。
もう遅いと思うが。

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どうやら、何人か。
その本部の人とやらに、話しかけられたそうだ。
突然呼ばれて驚いたらしい。
まぁ、名札をつけているから、分かるのだろうけど。
おそろしや……。
忙しいのに勘弁してほしいものだが。
私はまぁ、見るからに新人なので(名札に初心者マークついてる)、話しかけられるとか無かった。
というか、担当だったものがモノだったので。
そんな暇なかった。
ありがたいことに。
なーんか。
これで後日色々報告が来るんだろうけど。
嫌だよな。