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テツガクの小部屋2 ピュタゴラス派

2 ピュタゴラス派

ピュタゴラスが課題としたのもまた自然のアルケ―であったが、彼は抽象的な数を万物の原理とした。それは彼が、存在するすべては数と数関係に還元されるのを発見したからである。例えば、音楽の中にも一定の数的な比例関係が見出される。オクターブは1:2の比によって成立し、五度音程は2:3であり、四度音程は3:4であることを、ピュタゴラスはリュラの弦の長さの測定から見出したといわれている。これらの比の数を加えると1+2+3+4=10となる。また最も基本的な図形である正三角形は、整数の和であり、やはり1+2+3+4=10である。また10は算術の十進法における最も基本的な数である。

ところで音楽は音の単なる連続ではなく、音という限定されない連続体に一定の比が加わることによって調和(音階)の生み出されるところに成立する。つまり「無限定なるもの」(音)に「限定」(比)が加わることによって「限定されたもの」(音階)が出来上がる。このように比によって限定されているがゆえに、音階は美しい調和を有するのである。

この関係は音楽だけにみられることではないとピュタゴラスは考えた。世界は無秩序な集積、カオスではないのである。そこには一定のロゴス(比)が存するからである。この整然たる秩序と調和を有する世界を目して、ピュタゴラス学徒たちはそれをコスモスと呼んだ。このように一定の比によって秩序づけられ、美しい調和を有する宇宙は、微妙な音楽を奏でているという。

数が万物の原理である以上、数の構成要素がまた万物の構成要素でもあらねばならない。数の構成要素とは奇数と偶数である。奇数は限定を持つもの、すなわち限界づけるものであり、偶数は二分割によって分割されるもの、すなわち無限定なるものである。したがって数は限定(奇数)と無限定なるもの(偶数)の対立とその調和から成り立っている。「万物は数を模倣することによって存在する」とピュタゴラスは言ったといわれている。

このように世界は対立とその調和から成り立っている。ピュタゴラス派は次の10の対立を挙げている。①限定と無限定なるもの②奇数と偶数③一と多④右と左⑤男と女⑥静止と運動⑦直と曲⑧光と闇⑨善と悪⑩正方形と長方形。そしてこれらの対立に調和を可能ならしめているものが、ロゴス(比)である。

参考文献『西洋哲学史ー理性の運命と可能性ー』岡崎文明ほか 昭和堂


棒線より下は私の気まぐれなコメントや、用語解説などです↓(不定期)

万物の原理は数、宇宙は音楽を奏でる、ロゴスによって調和がもたらされる。サバサバとしているようで、ロマンがある。私は個人的には「ロゴス」肯定派なので、この学説は大好きである。ただ、ここには記さなかったが、禁欲的な教団を彼は作っていた。この教団の教義などがもっと彼の哲学に基づいたものであればもっと理解できたのでは…とは思う。
余談だが、ピュタゴラス派の文献も少なかったので原典でたしか全て読んだが、ピュタゴラス自身が、いわゆる「ピュタゴラスの定理」を発見したとの記述はどこにもなかった。弟子たちによるものだと伝えられているのが定説だが、その通りだろう。

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