男の子は本を読まないんですオンライン
「男の子は本を読まない」というのは、児童書で活動していると、耳にタコができるほど聞くフレーズだ。
かくいう僕も、デビュー前、担当編集者がついたときに一番最初に言われたことが、「小学生男子は本をあまり読まないようです」だった。
僕が公募で出したやつが、少年マンガみたいな話だったので、暗にカテエラを示されたのだ。
僕は考えたのです。
ここは、新人らしくすこし大口を叩いて、フレッシュさをアピールせねばならぬだろう……と。
大口叩く新人を見ると、ベテランというのは、「おお、若者は元気だなあ(笑)」と、よろこんでくれるものでしょう。(JTC思考)
僕はこたえた。
「んなことなくないっすか?www 男子が本を読まないんじゃなくて、出版社が男子が楽しめる本を出せてないだけだと思うんでwwww がんばりまーすwwwww」
めっちゃくちゃ怒られた。
べつに……業界批判とか……したかったわけじゃなくて……。
僕はただ……新人の……フレッシュさを…………。(´・ω:;.:...
「ま、実際に手を動かしたこともないやつに、わかったようなこと言われたら、そりゃ腹も立つか」
と、反省しまして。
べつになにか信念があって言ったわけでなく、テキトーだしね。
そもそも、児童書ってよく知らないし。
よし、ちゃんと勉強して、真剣に書くぞ!
男子向け!
ということで、一直線に走りはじめてしまったのが、僕が児童書の中で「男子も読めるもの」にこだわって書きはじめた理由になる。
……あれ、ひょっとしてこれ、求められてなくね?
出版社、ちゃんと、売れやすいもの書いてほしいだけじゃね?
と、気づくまでにかかった時間は1年以上。
その頃にはもう……気持ちが……。
引き返しにくい方向に……。
しかし元来粘着質な僕は、その後も「男の子は本を読まない」フレーズを言われるたびに、ほそぼそと反論を続けました。
「それはそうですよね(=共感)。でも、そんな男の子たちにも楽しんでもらえる本を、書けたらいいなぁ、と思ってるんですよね……(=謙虚)」
大人力。
見たか、この大人力を。失敗から人は学ぶのだ。
そうして言ったときに、
「そのとおりっすよ!!!!!」
と、勢いこんで同意してくれた編集者が一人いました。
僕はそのとき、思ったのです。
「え、こんな青臭い意見、真に受けちゃっていいんすか?www」
最低スタイル。
乗ってもらった途端に自分はハシゴを外していくスタイル。
ただ、賛同してもらったことに、なんか戸惑ってる自分がいたことは事実で。
そのとき、思ったのだ。
ああ、自分は、自分の意見が聞き入れられないことを前提に仕事を考えてるんだ、って。
会社員として何年も仕事をしていくなかで、僕は、組織が仕事を回していく上では、個人の意思やこだわりなんてものは、極力出さない方が望ましいものだ、と考えるようになっていた。
みんながそんなもの出してると、仕事が進まないからね。
僕は、上司やまわりの意向を正確に汲み取り、それを精度高く実現するように仕事してきたし、そうしていると評価は上がったし、そこから逆らおうとすると下がった。
僕はそのことになんの不服もなかったし、仕事っていうのはそういうものだと思っていた。
ただ……小説は、まったくちがう世界だと思っていた。
投稿しているときは。
でも、いざそれを、「仕事」として捉えたときに。
いつのまにか、「自分の意思やこだわりなんてものは、極力出さない方が、円滑に進む」と思うようになっていて。
取引先である編集者の意向を正確に汲み取り、それを精度高く実現するようなスタイルになっていった。
そうしたら、たしかに円滑に進むようにはなったけれど。
僕自身は、酷いスランプになって、言葉が書けなくなっていっちゃった。
そんなだったから、粘着質にほそぼそ反論をしつつも僕は、「受け流される」反応しか想定していなかった。
自分の意見が真に受けられる想定がなかったのだ。むしろ、だからこそ気軽に言っていたのだとも言える。
それで、戸惑ってしまったのだ。
でも、結果的にそうして進めていくと、きちんと書けるようになった。
たぶん、自分が小説を書くときの原動力が、
「自分の言葉や気持ちが、相手に伝わって共有できたときのうれしさ」
であって、それを思い出せたからなんだと思う。
そうしてはじまったのが、絶望鬼ごっこだったりする。
あれからもう10年近く経って、僕もそろそろ、新人を名乗れなくなってきた。(ぎりぎりまだ許されると思っている……)
このごろは「男の子は本を読まない」というフレーズもそんなに聞かなくなったけど、たぶん自分の耳に入らなくなっただけで、どこかでは囁かれていると思う。
それを聞いたときに、草茫々で反論するほどの若さはもうないかなあ。
いろいろ見てきてそう言いたくなる気持ちはわかるし、自分が求められてないところで勝負している自覚はあるし。
……ていうか単純に、歳食うとそんな体力がなくなってくるんだ。
でもまあ、口でわざわざ反論はしないけど。
小説の中身では、クッソほど反論したいよなあ……と、思っちゃったりするのです(成長がねえ)
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