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「利己的な利他」は可能か?生態系をヒントに

IVERSE Imagine チームの note 記事 へようこそ!
IVERSE は、「ワタシはワタシと言える空間」を実現するプロダクトです。IVERSEとは、I(私)+Universe(宇宙)を合わせた造語で、他人や社会に拘束されない、私だけの空間を表しています。Imagine チームは、生物学や政治学などの視点から IVERSE の未来を想像し、note 記事を発信しています。今回記事を書くのは、生態学を学んでいる Kai です。

まず初めに、前回の記事をおさらいしつつ、今回の記事の目的を説明する。

IVERSE の理想は、「ワタシはワタシと言える空間」だ。 その実現に欠かせないのが、前回紹介した「支配と抑圧からの解放」である。したいことを選べない「支配」からも、しようにも妨げられる「抑圧」からも解放されていてこそ、ワタシはワタシと言えるのだ。

この支配と抑圧を作ってきたのが、能力主義と資本主義である。詳しくは、下の記事を参照してもらいたい。

これから二回にわたって、既存の能力主義と資本主義への代替案を提示する。第一回では、能力主義に変わるパラダイムを紹介する。

能力主義の問題点:支配と抑圧を生む

したいことができる機会は、限られていることが多い。例えば、魅力的な学校・研究ポスト・会社・役職等は、希望する人全員が手にできるものではない。限られた機会を誰が手にすべきか?より「高い」能力持っている人が手にすべきと結論づけるのが、能力主義である。ただ、能力主義の下で、機会を得られない人は抑圧に苦しむ。そして、機会を得ることだけに囚われると、支配を受けることになる。

機会が限られていることが問題の発端である以上、能力主義以外の選出方法を用意しても、根本的解決には至らない。視野狭窄の能力主義(なぜかは前回の記事を参照)に反旗を翻す、積極的格差是正さえもだ。やはり、機会を得られない人は抑圧を覚えるからだ。そして機会を手にした人も、限られた機会に付随する社会的地位から支配を受けずにいることは、容易ではない。

能力主義は支配と抑圧を生む

不十分な解決:棲み分け

ある人が機会を得ることで、他の人から機会が奪われる能力主義禍では、支配と抑圧が生まれる。

ではどうしたら、ある人が機会を得ることが、他の人の機会を奪うことにならないか?これは、比較的簡単である。棲み分ければいい。水温がより高い川の上層部と低い下層部で棲み分ける、ヤマメとイワナのように、自分が注力する場所を絞って機会を棲み分ければいい。ただ、この解決法には限界がある。一つの機会に数人が集まる程度なら棲み分けられても、何十人も入ると、棲み分けが困難になるのだ。加えて、そもそも募集される機会自体が既に棲み分けを済ませている場合(研究ポストなど)が多い。

根本的な解決:機会を喜んで周りに渡す

すると、再び能力主義を呼び戻さねばならないのか?否!機会自体が増え、増えた機会が社会に行き渡ればいい。

ではどうしたら、ある人が機会を得ることで、周りにさらに機会を生めるだろう?もしこれができたら、世界は機会で満たされ、能力主義の支配と抑圧とは、おさらばだ。実現に向けて、二つのステップを踏もう。まず、どうやったら、機会は機会を生むだろう?次に、生まれた機会はどうやったら、他の人に受け渡されるだろう?

①どうやったら、機会は機会を生むだろう?

実は、一つ目の問いはそう難しくはない。機会が機会を生むこと自体は、既に観察されている。機会は能力を育み、能力はさらなる機会を呼び込む。問題は、「成功者」にどんどん生まれてくる機会が、独り占めされることなく、周りにも行き渡るかだ。

②生まれた機会はどうやったら、他の人に受け渡されるだろう?

受け渡すと言っても、ただ誰かが集めたり配ったりしては、支配と抑圧を生む。まず、集める過程で、ある人から機会をもぎ取れば、したいことが思うようにできなくなり、抑圧を生む。加えて、配る過程でも、その人のやりたいことと関係なく機会を押し付ければ、支配となる。後者は、欲しい機会を問うてから渡せればいいのだが、前者の問題は根深い。本人が喜んで機会を手放さないと、いかなる介入も抑圧を生むからだ。ここにおいても、〇〇主義(共産主義や社会主義など)は、抑圧の正当化しかできない。どうしたら、人々は喜んで機会を他の人へ受け渡すだろう?

無理やり機会を分配すれば、支配と抑圧を生む

生態系にヒントがある:利己的な利他

人々が喜んで機会を受け渡すヒントは、生態系に潜んでいる。生物は生態系の中で、自ら養分(機会に拡張可能)を手放すことがあるのだ。養分を漏出しあい、吸収しあうことで、細胞・個体・種を超えた、相互互恵的な関係が築かれることがある。しかし、生物が利他的に調和の取れた生態系を作っている、という意味ではない。反対に、生物が利己的に活動する中で養分が放出され、副産物として相互互恵的な関係が築かれるのだ。この「利己的な利他」の仕組みを読み解くことで、機会が巡り巡る生態系構築に向けた一歩が踏み出せる。

なぜ有用な養分(下図では代謝物)さえも漏出するのか?この問いに答えるため、ある資源 (substrate) Sが複数の代謝物 (metabolite) M1とM2に使われている場合を考えてみよう。複数の代謝物が競争関係にあるとき、一方の漏出がもう一方の増加につながる。特に、M1を減らすと「M1を生成・M2を分解する」酵素Eも減る場合(下図)を調べてみよう。すると、M1の漏出がM2の増産につながることが分かる(詳細は図の下の解説を参照)。細胞の成長には、それぞれの物質の「適切」な生産が必要である。成長率をあげるためには、漏出によって増産と減産を調整することが欠かせない。それはときとして、有用な代謝物を手放すことを意味する。これが、利己的な漏出である(山岸 et al.,  2021)。

図1:代謝物M1の漏出によって代謝物M2が増える。
詳細解説:代謝物M1とM2は基質Sを巡って競争関係にある。酵素はM1を生成・M2を分解する。酵素自体はrbの触媒の下、M1から作られる。rbはM1から作られるので、M1を再生産するループが閉じる。このループの回転を抑え、M2が増やすのが、M1の漏出である(山岸 et al.,  2021)。

未来の展望:みなさん、IVERSEの先駆者になりませんか?

どうしたらこの利己的な漏出をIVERSEという生態系内で広めていけるだろうか?鍵となるのは、先駆者の存在である。IVERSEという生態系に、いち早く機会を生態系に漏出する先駆者が決定的に重要だ。というのも、取り込みによって機会を得た人たちは、もらった機会によって成長し、段々と漏出も担うようになるからだ。一度、生態系内に機会が溢れれば、利己的な漏出の原理から、その生態系は機会で満たされる。

機会を漏出しよう。もちろん、始めやすいところからで構わない。例えば、沢山浮かんでくるプロジェクトの構想を、興味を持ってくれそうな人に話してみるのはどうだろう?その過程で、人をつないだり、ときどき相談に乗ったりするのも、立派な漏出である。あなたは、どんな機会を持っていて、どの機会は他の人に託したいと思えるか、ぜひ問うてみてほしい。

能力主義を乗り越える「利己的な利他」によって、IVERSE は機会で満たされる。そしてその機会は、一部のパワーある人によって作り出された画一的なものでも、パワーによって誰かから奪ってきたものでもない。多様な人が漏出する多様な機会なのだ。これが、IVERSEの提示する新しいパラダイムだ。やりたいことがあり過ぎて困ってるみなさん、IVERSEで漏出して、先駆者になりませんか、というお誘いです。

みんなで機会を交換し、機会の溢れるIVERSEを作ろう!

次回は、機会の漏出と吸収のマッチングをさらに加速させるための仕組みとして、鈴木健さんによる新たな貨幣システムPICSYを紹介します。お楽しみに。

参考文献:
山岸純平, 斉藤稔, & 金子邦彦. (2021). 代謝漏出による微生物の共存共栄戦略. 生物物理, 61(6), 400-403.

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