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【創作小説】全て。

僕らは傷つかなければ何も生み出せない。

傷口から出てきた血液を、売りに出す様なものだった。

それを知らない誰かが買って、その血液で書いた小説をまた、誰かが買う。

こうして生まれていくものを僕らは作品と名前を付けて呼び合った。

美しいもの、汚れたもの、煌めくもの、破れたもの、痛みと快楽、
娯楽と自傷、性癖と矛盾、空と死人、胎児と葬式、決断と戦争、
君の笑顔と知らない誰かの叫び声。

こうして全てを吐き出してゆく。それすらも正しいと誤解した。

ただ僕らは笑いたかった、話したかった、泣き合いたかった、
歩きたかった、見送りたかった。

なのに、
どうでもいいと見捨ててきたものに嫉妬をした。

だから、その手で誰かの手を掴むのではなく、
刃物を握った。言葉さえ武器にした。
歌も、曲も、絵も、この詩だって、
わざとさしく歪ませた。

くだらない大人になってしまったと、膝を抱えた。

風呂場では水に隠して涙を流した。トイレでは笑いながら夕食を吐いた。
自分の体は知らない誰かに売った。布団の中では居なくなった誰かを想った。
夢の中では自殺をした。

人工的な呼吸に幸せすら感じれなくなった機械的なこの心であった。

真実さえ創作で、作品でさえ社会だった。

正しい暴力を、
今夜も僕らは振りかざして、愛しい君でさえ切り落とした。

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