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【創作小説】春夏秋冬。四話。

『成る程、生まれ変わった様だね。これはややこしいことになりそうだ、ユリシス。』
黒いスーツ。煙草の煙で姿を隠した男は表情を変えずに言う。
『それは良かったじゃないか。君だって退屈していたのだろう?管理者サマ?』
もう一人、白髪で眼鏡をかけた知的な男はユリシス。ユリシスはため息混じりに言う。

『しかしだね、このままでは「あの化け物を追いかけてヤツも」生まれ変わるのではないか?』
ユリシスは不安そうに、目の前で煙に隠れて顔の見えない男に問い掛ける。
『それも、楽しそうだ。』
暗く古い家具に囲まれ、壁の殆どが本棚で埋もれている事務所で、煙草の男は、クスクス笑っている様に聞こえる。
『それよりコルデリア。煙草はもうやめないか?君の顔すら見えない。』
ユリシスは窓を開けた。

『煙草はね、私を私で居させてくれる薬なんだよ。』
煙が窓の先に放たれ、コルデリア、と呼ばれた男の姿が現れる。
黒いスーツに見えた服は、服ではなく蝶の羽。だらり、と床についてしまうほど長く、開いていない。コルデリアの顔は無表情。肌が死人の様に白い。口から吐かれる煙で、微かに生を感じる様な、雰囲気。
その他は、どこにでも居るような、特徴の薄い男。

『またそんなつまらないジョークを私に言うのか、君は。』
ユリシス、という男。彼はコルデリアの助手。

この二人の仕事は「言葉世界の管理」。
この『言葉世界』には「言葉の生まれ変わり達が集う」。

それは本。それは語り。それは虚言。人々が生み出した言の葉。その生まれ変わりが集い、その後の終末までを見届け続ける。
その管理をしているのがこの二人だ。

『全く、あの「化け物は強力だ」何を呑気に煙草をくわえていられるんだ。』
ユリシスはこの先、あの化け物と、それに取り憑かれた少年の心配をしていた。

そう。『言の葉は取り憑く。』いつまでも、何処までも、離れない。
それは思い出か、記憶か、声か、トラウマか。

言の葉の生まれ変わりはもっと複雑で、何故生まれたか、何処から生まれたか、作者さえ、発言者さえ、『喰い殺す』
それは呪いにも思える。
だから、『言の葉』に取り憑かれるのは危険だった。
しかし、

『彼の、本を愛してしまったが故の結果だとも。』
コルデリアは、煙を夜空に吐き捨てる。
まるで、夜の星を塗りつぶす様に。


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