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【読書感想文】水を縫う

近年、LGBTやセクシャルマイノリティなどの単語を当たり前の様にメディアで耳にする様になった。どこかの自治体で同性同士のパートナーシップ制度が導入されたなどという報道を聞くと、他国よりは遅れているかもしれないが一歩ずつ日本が進化していると思う。もちろん私の義務教育期間中に、セクシャルマイノリティの方について学ぶ機会はなかった。

今回、読書感想文を書くにあたり課題図書の中から読む本を選んだ。あらすじを読んで恐らくマイノリティへの理解がテーマなのではないかと予想し、自分にとって関心が高いジャンルで面白そうだと思い、「水を縫う」を選んだ。

しかし、セクシャルマイノリティの理解というメッセージではなく「女性らしさ・男性らしさ」を題材にした物語だった。ただ、マイノリティの理解を深める上で重要なヒントがこの作品に隠されていることを私は見つけたのだ。

この物語は、裁縫が好きな男子高校生が結婚する姉のためにウエディングドレスを作るという華やかでアットホームなストーリーだった。しかし、姉は女性を意識させるような肌に沿うようなシルエットや露出、花の刺繍やレースを用いたデザインのウエディングドレスを拒んでいた。ドレスが完成するまでの間を、この2人を取り巻く家族それぞれの視点で物語は進んでいった。

弟は好きなことに真っ直ぐだった。友達は高校生になった最近までいなかった。母親に自分の好きな裁縫に対して否定的な意見を言われ、「普通」でいることを望まれても、好きなことを貫いていた。姉は子供の頃に見知らぬ男性にスカートを切られたという事件の被害者になっていた。学校へ事件の報告に行ったが自分の身なりが女の子らしかった事が原因ではないかと指摘された事がトラウマとなり、女性的な洋服や女性らしさを求められる事を拒んでいた。

私が高校生だった頃は、流行に流されたり、周りの意見に同調しておく様なシーンが多く見受けられた。当時、変な趣味を持っていたり、目立つことをして、クラスで浮いてしまい友達ができなかったら恥ずかしいと多くの高校生が思っていたと思う。どこにいても少数派は浮いたり、省かれたり、疎まれるのが常識だった。しかし、この物語の主人公である弟は、周りの人からの意見や世間の価値観に影響されずに、自分の好きなことに真っ直ぐだった。クラスの中では人気者ではないが、姉のためにドレス作りに没頭する姿は読みながら応援してしまった。好きなことに一生懸命な姿が世間の価値観によって理解されにくい事は残念だと思った。何よりも、まず最初に理解してもらう為に世間の価値観を壊す事が最大の難関なのだと思った。

次に、姉の様に昔ながらの考え方を押し付けられて、トラウマを抱く様になってしまう事も世間の価値観と同様、簡単に拭えぬものでもないと思う。女性なんだから家庭に入れ、女性なんだから女らしくしろ、結婚したら子供を産むなどは昔ながらの価値観で、その価値観を押し付けつつも被害者になったら女の子らしい格好をしていたから仕方ないのではないかという主張は納得がいかず、読みながら憤りを感じた。特にこの姉の場合、被害にあったのは小学生の頃であったが被害内容を考えれば子供ではなく女性として事件対応にあたるべきだと思った。私はもっと性別ではなく個人が尊重されるべきだと思う。

例えば、仕事をする中でも時に女性らしさを求められる事があるものだ。昔でいうならお茶汲みは一般的に女性の仕事だったと聞く。今時お茶は人が淹れなくても機械が淹れてくれるし、そもそもお茶を汲む人に人件費を割いている場合ではないのだが、今でも女性の仕事として認識されている職場もあるらしい。この様に、女性らしさを求めていながらも、出産を控えて休暇を希望すると復職しにくい環境だったり、職場から妬まれる原因になったりする職場もある。男性も育休が取得できる時代になり社会が進化しているはずなのに、どこかで今でも昔ながらの考え方により、女性が働きにくさを感じているのも事実だ。

この文章の冒頭に書いた様に、以前までは世間の価値観に押しつぶされていた人について知る機会が増え、少しずつだが生きやすくなっていると思う。これはセクシャルマイノリティの人に限ったことではなく、障害者や差別をされた歴史がある人達も含まれる。しかし、知らない事をすぐに理解する事は難しい。ただ、知らない事を鼻から否定せずに、世間の価値観に左右されない様に相手の話に耳を傾けて理解する姿勢を見せる事が重要だ。それが今回この物語を読んで、マイノリティへの理解に深める上でのヒントだと私は思った。そして、昔ながらの考え方を更新すると同時に、様々な価値観や個性を受け入れていく事は年齢、性別を問わず、全ての人が課題として取り組み続けていかなければならないと思った。


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