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次に会う時は友達じゃなく彼女として

中高生の頃の俺にとって、彼女持ちというのは特殊スキルであった。デバフ持ち、特能持ちみたいな。バイトの履歴書に書けるくらい、全国作文コンクール金賞とかインターハイ出場と同じくらいのレベル。男子校で六年間過ごす中で女性と出会い、さらには恋仲になるなんてことは妄想の中の産物だった。制服で放課後デートなんてドラマでしか見ない世界で、彼女持ちというのはそれだけでヒエラルキーの上位となれる、そんな特殊スキルであった。実際高校では、片手で数えられるくらいしかクラスに彼女持ちはおらず、そもそも友達と呼べる存在もそこまで多くない帰宅部の俺にとって彼女なんてのは夢のまた夢だった。

だが、なぜか一つだけ確信していることがあった。それは「大学に入れば彼女はできる」ということだ。男子校で出会いもなく、母親以外の女性と話すことさえないこの生活が問題で、共学にさえ入れば、出会える環境さえあれば、彼女はできるだろう。そう考えていた。

大学ではサークルを掛け持ちし地元のボランティア団体にも入った。さらにはバイト先やクラスなど、女子と接する機会はめちゃくちゃ増えた。増やした。だから、割とすぐに女友達はできた。

中でも一番仲が良かったのがサークルの同期「A」だ。当時はニコニコ動画がまだ人気のあったころで、種々のMADや歌ってみたなどの話題に興じては盛り上がっていた。サブカル好きというのもウマが合った理由の一つで、アニメやマンガ、映画にゲームとお互いオススメしては借り合うような関係だった。2人が好きだった伊坂幸太郎の作品が映画化された時も2人で見に行った。カラオケにもアニソン縛りで行ったりした。ここだけ聞くと「花束みたいな恋をした」そのままの素敵な恋物語みたいだが、そういうわけではない。何より菅田将暉のようなイケメンは登場しないストーリーだ。

ここでレイザーラモンRGさんに登場していただきましょう、どうぞ!

男子校出身あるある早く言いたい〜

男子校出身あるある早く言わせて〜

男子校出身あるある早く教えたい〜

「面食いなりがち」

男子校に6年もいて女子とほぼ話していないと自分の市場価値がわからない状態に陥る。日々目撃する女子はテレビの中の女優の方が多くなり、必然女子はこれくらい可愛いのが普通と思ってしまう。日々、女子と楽しく話すことも邪険にされることもなく育つと、自分の中の顔面偏差値と女子達の思う顔面偏差値は乖離を起こし、見事面食いクソ野郎に成り果てる。私も例外ではない。

簡単に言うと「A」の顔がタイプではなかった。「もっと可愛い子と付き合えるって!」と悪魔の声が囁いた。だから「A」に合コンのセッティングをお願いしたことさえある。「合コンって一生に一度くらいは参加してみたいんだよね」と。完全にアウトオブ眼中の行動をしていた。

そんなサークルでの生活も2年目を迎える頃、新しい同期が増えた。新1年生を呼び込むための新歓コンパだが2年のやつもたまに混じってきてそのままいついたりする。そんな感じで入ってきたNがなぜか「A」の横にいることが多いのに気づいた。飲み会の時でも普段の活動の時でも楽しそうにしゃべっている。Nは今でいう陽キャで、カラオケでも湘南乃風歌うし茶髪だしめちゃ酒煽るし俺とはタイプの違う存在だった。もちろん「A」ともタイプの違う存在だった。だが、なぜか2人で喋ってる姿を見かけることが多くなった。

「A」のことをそれまでなんと思ったこともなかった。そもそも他の相手にも恋愛感情を抱いたことがなかった。これも男子校出身あるあるだと思うのだが「好き」がわからない。単に接触数が増えればそういう風に思ったりするんじゃないかと思っていた。だが「A」と何度も遊びに行って接触数が増えても何ら気持ちに変化はなかった。なのに、である。なんだか変な感情が生まれていた。

SHIT! 嫉妬だ。Nと仲良さそうなのに嫉妬している。全然アニメの話通じないNとじゃなくて俺と話せばいいのに。なんでアイツとなんかと。そんな思い。つまるところ、これが「好き」なんではないかと気づいてしまった。

いや、でももしすでに2人が付き合ってたりしたらどうしよう。そんな思いを抱いている俺のことなんか知らず「A」は映画に誘ってきた。映画の後カフェで軽食食べながら映画の感想を話す。こんなことしてるのに、カップルでもなんでもないんか。今までも同じようなコースで遊んでるはずなのに、初めてデートだと感じていた。そろそろ店出ようかという頃に雨が降り出し、雨宿りがてらまたカラオケに入った。

カラオケ屋では雨の日のキャンペーンで、輪投げの成功数によって割引券がもらえるイベントをやっていた。「A」と交互に投げてみる。店員が「惜し〜い」とか合いの手を入れてくる。最後の一投を俺が投げようとすると「彼氏さん頑張って〜!」の声が。そうか、周りからはそう見えてるのか。

部屋に入ると「A」が笑いながら「彼氏さん、だってね」と茶化してきた。俺は「そう見えるもんなんかね」などとはぐらかし、「最近そういったことはないの?」と切り返した。「彼氏とかってこと?もーう、全然よ。また合コン開いて欲しいくらい」。全然ってことはNとは何もないってことだ。ただ仲良かっただけなんだ。俺は心の中で喝采した。何なら今日告白してもいいってことだ。

恋のメガラバをデスボイスで歌って笑わせ、one more time, one more chanceをしっとりと歌い上げ、真っ赤な誓いを2人で高らかに叫んだ。しっかりカラオケを楽しんでしまったせいで、告白はどこへやらだった。少なからず今は彼氏いないのだし、最近そういうのもないと言っていた。今日は突然そんな展開を迎えてしまったから、今度よく言葉を練ってから告白しよう、そう思った。

結局、決行する日は一週間後にやってきた。たまたま手に入った花火大会のチケット。それに誘い、その時に告白しよう。そう考えて「A」に連絡した。だが、「A」からの返事は「その日予定あって」。丁度前期の試験が始まる頃で、そこを逃すとまたしばらく会えない。「電話できない?」俺は「RE」が連なったメールの本文にそうしたためて送信した。数分後、「A」から電話がかかってきた。

「どうしたのー?電話なんて珍しいね」

「あー、ごめんね。話したいことがあってさー」

「あ、なに花火大会のやつ?ごめんねー、その次の日試験だからさー。勉強しないとなんだよね」

「あー、いやいいのよそれは。たまたまもらったやつだったから。男と2人で花火いくのも気持ち悪いし、俺が誘える子って「A」くらいしかいないからさ」

「そうなの?あの合コンの時紹介した子とはどうなったのよ」

「あー、一回遊びに行ったけど自然消滅。もう連絡も取ってないや」

そんな取り止めのない会話が続き、告白の糸口が見いだせなくなっていた。空白があると別の話題ですぐ埋めてしまい、なんだか金のかかる雑談の様相を呈してきた。が、勇気を振り出して話題を振った。

「電話代も結構かかっちゃったし、そろそろ話したかったこと話してもいい?」

そうして、今まで何回も遊んできて楽しかったこと、今まで何とも思わなかったのにNが来てから自分の気持ちに気づいたこと、こないだの時彼氏がいないと聞いてそのまま告白しようと思ってたけどできなかったこと。結局告白するキーのセリフだけは考えていても、それまでのところを考えていないからグダグダだ。告白ってのはようわからんもんで「好きです、付き合ってください」の言葉の前の時点で、状況証拠が積みあがっちゃってもはや告白になってることが往々にしてある。突然「好きです!」てのは言いにくいし、「なんで!?」てなっちゃうから順を追って説明するともうそれ自身が答えなのだ。それが恋愛下手の告白。

「次に会う時は友達じゃなく彼女として会いたい」

そんなキザなセリフをこれまでの2人を振り返った後に言ったところで、この後の展開がもう頭をもたげてしまってなんにも入ってきやしないよ。

そして、その後放った「A」のセリフを一生忘れることはないだろう。


「ごめん、一昨日Nと付き合うことになった」


え、

え、

え?

こないだ、そういうの全然ないやーって言ってたよね?なんならまた紹介して欲しいみたいな。なのにこの1週間の間にNと遊びに行ってるの?全然あるやん、そういったこと。

え、てか、なに、これは、あの1週間前カラオケの後にさっきの話をしてれば付き合えたってこと?ん、ちょっと待って、やばい、そんなことある?はい、青の方早かった、みたいな。大事な大事なアタックチャーンスを逃したってことですか?いやいや、ちょっと!待って!頭がついていってないから!「A」!Nとの馴れ初めの話をしないで!ついてけないから!

今日契約決まるんですよーつってルンルンで行ったアポ先で、「あ、他のところに決めたんで」て一蹴された時の気持ち。「あ、でも他社さんだとここのところが高くて予算超えちゃうと思うんですよね。その点うちなら〜」「あ、もうそこも稟議通したんで」「あ、そうですか。なるほど〜」「もういいですか?」「あ、はい」みたいな。いくら3日前といえどもう気持ちの決まった相手に私に乗り換えません?なんて提案しても何の意味もありませんわな。「気持ちは嬉しい」。私の気持ちは悲しいです。

次に会う時は友達じゃなく(Nの)彼女として会うことに。

そんなことがあった12年前の夏。私は今でも恋愛相談に乗る時に言います、恋はスピード勝負だと。



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