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今だからこそ聞いてほしい赤い公園ベスト10

赤い公園のギター、津野米咲が亡くなった。赤い公園はライブにも行ったことがある。シングルアルバムすべてiPhoneに入っている。それゆえ私個人としては三浦春馬や竹内結子が亡くなったときよりも衝撃を受けてしまった。津野米咲なしで赤い公園は立ちいかないだろう。ボーカルが脱退し、新メンバーに交代するという大きな変化がありながらも、活動してきた10年間ほぼすべての曲を書いたのが、津野米咲だからだ。

津野米咲の作曲センスはずば抜けている。21歳にしてSMAPへ楽曲提供を行ったことがそれを端的に示す。

祖父と父がともに作曲家、家族は何かしらかの楽器を弾けるという音楽一家で育ったそうだ。自称「音楽オタク」で様々なジャンルの音楽に親しみ、音楽理論にも精通していたから「関ジャム」でもたまに見かけることがあった。つい先日も出演しており、なかなかその時の様子からこうなることは予期できなかった。

ここまで著名人の死が続くとライブや演劇などの生の場を奪ってしまったコロナを憎みたくもなる。それとも「虐殺器官」よろしく、危機下で表現者をそうさせる生得的ななにかがあるのか。はたまた「暗い日曜日」を聞いたのか。譫言はそんなところにして、これもひとつの機会だ。なかなかまだ一般に浸透しているとは言いがたい赤い公園の楽曲を知ってもらいたい。


1、NOW ON AIR

アルバム「猛烈リトミック」のリード曲。一番キャッチーでとっつきやすいポップな曲といえばこれ。

「レディオ 冴えない今日に飛ばせ 日本中の耳に
 異論のないグッドチョイスな いなたいビートを
 いつもありがと この先もずっと」

この鬱々とした今をパッと切り開いてくれるような音と歌詞だ。皆がマスクを着け、様々なことに過敏な昨今。そんな日本中にラジオから響き渡る「NOW ON AIR」。グッドチョイスないなたいビートをいつもありがと、この先もずっと。

2、黄色い花

「もしも あなたが 悲しくて 俯いてしまったときには
 せめて咲いてる タンポポでありたい」

この冒頭の歌詞だけで今は泣いてしまう。津野米咲のすごいところは優秀なトラックメーカーかつ優秀な作詞家でもあることである。「NOW ON AIR」「黄色い花」は作詞作曲ともに津野米咲だ。

俯いたときに道端で咲いているタンポポを見つけ、その鮮やかなまでの黄色さに応援される。そんな経験があったから書けた詩なのではないだろうか。私にとっては「黄色い花」がそんな路傍の小さい花のように応援してくれる曲だ。

3、今更

ファーストアルバム「公園デビュー」から「今更」。激しく鳴るドラムとジャッジャッジャッジャッとかき鳴らされるイントロからして普通ではない。そして激しいイントロから打って変わって優しいAメロ、そして徐々に激しさの片りんを見せるBメロ、そしてサビはため込んだものを吐き出すかのようにドラムのビートが刻まれる。展開が一本調子ではなく、カタルシスさえ感じさせるような構成だ。この曲を知ったのは24の頃だったと思う。2歳下の22歳が作ったことに驚愕した。やべぇな、と言いながら友人とライブに行ったのを覚えている。一曲目からこの曲でぐっと心をつかまれた。

4、交信

同じくファーストアルバムから「今更」との連作のような関係になっている「交信」。こちらは今まで紹介してきたギター中心のサウンドではなく、キーボード主体の楽曲である。iPhoneの目覚ましを思わせる印象的なイントロにベースとドラムが参加していきAメロが始まる。そこから展開していくのだが、普通のAメロBメロサビの順番で繰り返すような構成ではなく、AメロA'メロBメロサビCメロBメロサビといった構成。さらにサビもこちらは引っ掛かりがなくサビと言うよりCメロのような不思議な感覚だ。どちらかと言うとイントロアウトロに流れる特徴的なピアノの音こそがサビのようにも感じてしまう。また、「交信」と言うタイトルだけあって途中にモールス信号を使う遊び心もある。「NOW ON AIR」「黄色い花」のようないわゆるJPOPだけでなくこういった実験的な曲も作れるのが赤い公園の強みだ。

5、絶対的な関係

ドラマの主題歌にもなっていたので知っている人もいるかもしれない。この曲はMVにも出てくるように100秒きっかりで作られた曲だ。東京事変にも同じような「能動的3分間」と言う曲があるが、こちらはその半分くらいの秒数なのにもかかわらず、同じ時が過ぎたように感じさせるほど濃密な100秒となっている。またこちらもポップというよりはロック調の激しめな曲に仕上がっている。

6、恋と嘘

うってかわって可愛いラブソング。伊藤沙莉演じる片思いする女の子のMVがめちゃ可愛い。

「行き止まりだって 気まぐれだって 疑えばキリがないけど
はだしになって 飛び込みたくて しょうがないのが恋かもね」

学生時代の恋愛の瑞々しさが曲からも詞からもあふれ出てきて愛おしくなる。

7、Canvas

赤い公園の特徴のひとつがイントロのキャッチーさである。激しかったはずなのに哀愁を帯びながらAメロへ入る。これこそが津野米咲節といえる。そして要所要所でボリュームを上げる緩急。ボーカルの佐藤千明の力強い声が存分に発揮された曲がこのCanvasだ。

8、カメレオン

ボーカルが変わる前、最後のオリジナルアルバムとなってしまった「熱唱サマー」からリード曲である「カメレオン」。これまた特徴的なイントロが耳に残る。最初聞いたとき「なんて力技な曲なんだ」と笑ってしまった。タンギングがすごい。この曲演奏したらめっちゃ疲れるやろなって感じの曲。ただ何度も聞いているとその力技が心地よくなってきてしまう。いわゆるスルメ曲。ネット上に音源がなく、泣く泣くこの稿で取り上げなかったが、シングルカットされていない曲にもいい曲がたくさんある。「ナンバーシックス」「血の巡り」「いっちょまえ」「108」「誰かが言ってた」「楽しい」「セミロング」「プラチナ」といった新旧アルバムに含まれている曲もかなりいい。

9、絶対零度

Vo.佐藤千明が脱退して次に迎えたボーカルが石野理子だ。パワフルなボーカルだった佐藤に対しハスキーボイスが特徴の石野。始まりは静かにそのハスキーボイスで始まるのだが、転調して明るくなるBメロ後半あたりから徐々に激しさを見せ始める。そしてサビは足でリズムを取ってしまうほどノリノリの展開を見せる。Aメロ、Bメロ、サビ、それぞれ別の曲から持ってきてつぎはぎしましたと言われても信じてしまうくらい、1曲の中で予想もつかない進行を見せる。それなのにまとまりがあるから不思議だ。

10、消えない

こちらもBメロが意表を突く展開でグッと心を持っていかれる。赤い公園ひいては津野米咲の作品はまるで万華鏡のようだ。一つの曲の中でもころころと曲調が変わり飽きさせない。また、一つのアルバムで見ても激しい曲調のロックがあり、キーボード主体のポップがあり、イントロで聞かせる曲があり、4人のコーラスで作られた合唱曲のようなものもあり、かと思えばラップありで千変万化、八面六臂の活躍。ミスチルっぽい曲とかヒゲダンっぽい曲なんて言うとなんとなく頭に浮かんでくるが、赤い公園っぽい曲はない。バンド初期の実験的な曲。バンド中期の様々な音楽の要素を取り入れたポップ、ラップ、ロックンロール。そしてボーカルが変わり、それらをさらに突き詰めバンドに還元していった新たな音楽。「音楽オタク」と言うだけあって聞いたことのない音楽をたくさん作りだして楽しませてくれた。

「さよならなんて簡単な言葉に詰まるのはなぜ
 終わらせたっていいけれど 終わらせるなら今だけど
(略)
 なのに消えない 消えそうで消えない
 こんなところで消えない消さない」

こんな詞を残せる人が何も言わずに去ってしまうことはとても寂しいことだけれど、それが彼女の選択だというのなら。

でも、津野米咲という稀代のトラックメーカー、作詞家、ギタリスト、バンドマンの存在は消えない、消さない。もちろん赤い公園というバンドも。赤い公園の新曲はもう難しいのかもしれない。屋台骨よりも屋台骨、大黒柱よりも大黒柱、拠り所を失ってしまった。津野米咲の作家性と赤い公園はセットになっていたので、なかなか今後の活動はしんどいはずだ。だが、3年前ボーカルというバンドの顔が抜けた時も私はもう終わりだと思っていた。今のようにまたタイアップをしたり、フェスに出たりすることができるとは思っていなかった。あのパワフルなボーカルがなくなったらどうしようもないだろう、と。だが、津野米咲の書く曲が赤い公園を再び陽の当たる場所へ連れ戻した。石野理子という翼をまとって。今回もまた形を変えて新曲を発表してくれるのを祈っている。願わくば私の予想を超え、赤い公園として八面六臂の活躍を見せてほしい。

まずは11月に予定されている津野米咲の赤い公園としての最後の楽曲「オレンジ / pray」の発売を心待ちにしている。なかなかそのプロモーションさえ辛い状況だが、少なくとも私は買う。消えそうで消えないなんて言わせない。間違いなく、私の心に足跡を残したバンドだ。多くの人に赤い公園の楽曲が届き、耳に残って消えなくなるように、その一助になりたく筆をとった次第だ。上のリンクから全部とは言わないが、聞いてみてほしい。万華鏡のように様々とキラキラ光る曲を遺してくれたから、どれかはハマるはずだ。

赤い公園は

消えない。

消さない。

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